彼女のライバル?2
大変お待たせいたしました。
お貴族様というものは、どうしてこうも目下の者を振り回すのか。
セーラは皿洗いをしながら、小さくため息をついた。
ことの起こりは一週間前。
セーラはルード伯爵家に雇われた使用人である。
十四歳の時に火事で両親を亡くし、家族ぐるみで仲の良かった商人一家が心配してセーラを雇ってくれたのだが、その商人はルード伯爵家と取引があった。
日用品の注文で定期的にやってくるルード家の執事がセーラに目をつけ、わがままなお嬢様に振り回されて使用人がすぐ辞めてしまうため新しい使用人を探しているということらしく、商人を通してセーラに話が来た。
セーラはその話を受けた。
わがままお嬢様については正直面倒くさいが、何しろ一伯爵家での仕事で、衣食住が保証される上に給金が良い。
いつまでも商人一家の世話になるわけにもいかないと考えていたところだったセーラには、渡りに船だった。
それから二年、セーラは真面目に働いた。
お嬢様は確かにわがままだったが、これまで辞めていった使用人たちと違い、セーラは図太かった。
まず、とても現実的だ。あまりに無茶なことを言われても、それが実際に実現不可能と脳内で判断すれば、あっさり断る。
それでご令嬢がヒステリーを起こしても、別にセーラは気にしない。
「あなたなんてクビよ!」と何度も言われたが、「それをお決めになるのはお嬢様ではなく伯爵様です」と無表情で返す。
頭に血が上ったご令嬢が父親に言いつけることもままあったが、執事から「これ以上使用人に辞められるのは困るのです。本当に困るのです」と言い含められているルード伯爵は、可愛い娘のおねだりと言えど頷けない。
使用人がいなければ、貴族の家の生活は成り立たないからだ。
そのような事情もあってセーラはクビになることもなく、他の使用人たちからいつの間にやら尊敬の眼差しを向けられながら勤めを果たしていた、そんなある日。
ご令嬢が非常に面倒くさいわがままを、またしても言い出した。
曰く、ご令嬢が夫にと望んでいる騎士の連れ子を引き離せ、というもの。
勿論断った。が、その後伯爵から呼び出しを受けた。
「セーラ、すまんがとりあえず聞いてやってくれんか。なに、本当に子どもを引き離せとは言わん。セーラが断ればペネロペ自身がどんな行動を起こすか。ある程度願いを聞き届けた振りをして、無理だったと報告すれば良いから」
断りづらい筋から頼まれてしまった。
それでも使用人の仕事の範疇を越えると思い、始めに結んだ雇用契約内容を持ち出して断ろうと思ったのだが。
「特別ボーナスを出す。期間は一ヶ月で、いつもの月給の三倍を用意しよう」
「お受けしましょう」
思わず受けてしまった。
だってお金はとても大事なのだ。
ああ、でも、面倒くさい。
そんなこんなで私は、とある筋から第三騎士団寮で短期の仕事をすることになり、今に至る。
さすが大食漢揃いの騎士団。洗う皿の量がすごい。
「セーラ、そこ終わったら休憩取りなね」
「わかりました」
寮母であるメアリさんはとても良い人だ。
仕事に関して妥協は絶対にしないが、おふくろ、と呼びたくなるような包容力の持ち主である。
そして、黙々と働くセーラに何くれとなく気遣いをしてくれる。
ずっと厨房に籠っているメアリさんの息子、ユージーンさんも親切だ。料理が好きすぎて若干狂気を感じるが、仕事に妥協をしない点ではメアリさんにそっくりだ。
騎士団員たちとも親しいらしいのだが、何しろ厨房から出てこないので団員からはレアキャラとか姿を見るとその日は良いことがあるとか言われているらしい。
妖精か。
騎士団の人々も皆、良い人ばかりだった。
セーラが未婚の若い娘ということもあり、女性との出会いがほとんどない騎士たちは嬉しいらしい。メアリが目を光らせているので、いたずらをしようという団員もおらず安心だ。
そして、これは大きな声では言えないが…。
騎士たちの筋肉が毎日見られる。
これまで誰にも言ったことはないが(というか言う機会が特になかったのだが)、セーラは筋肉フェチだ。全体的にバランス良くついた筋肉も素晴らしいが、セーラが特に好んでいるのは腕に力を入れた時に、浮き出る筋だ。
セーラがカウンターに置いたトレーを持ち上げた時。
庭で大量の洗濯物の入った籠を持ってフラフラと物干し竿へと向かうセーラを気遣い、代わりに持ってくれた騎士の腕。
洗濯を干している横で、上半身裸で素振りをしている騎士たちの筋肉。
目の保養が過ぎる。
見た目には常に無表情のセーラだが、内心では狂喜乱舞である。
この職場、最高かも。
真剣に転職を考えるセーラであった。
メインの父娘が出せなかった…。
新キャラの性癖だけですね(笑)すみません…。




