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彼女のライバル?1

大変お待たせいたしました。


「お父様、わたくし、結婚するなら騎士のカイル・アズーロ様がいいですわ」


 鈴の鳴るような声でそう言ったのは、大変見目の良いご令嬢だ。

 ブルネットの髪は縦に巻かれ、左右に纏められている。大きく吊り目がちな緑色の瞳は宝石のように輝き、男を魅了する。

 ご令嬢の父親であるでっぷりと太った男は、ふむ、と顎に手を当てた。


「以前、城下で迷子になったペネロペを助けたあの騎士か。確か平民上がりだが」

「まあ、出自が平民だとしても、彼の高潔さは貴族にも引けを取りませんことよ! 凛々しくてお強くて。それに騎士なら功績によっては叙爵も夢ではありませんわ」

「ううん、お前がそこまで言うなら。王子妃候補としてこれまで努力してきたお前に、父として報いてやらねばならんしな」

「お父様…!」


 男はルード伯爵といい、古い歴史を持つこの国の貴族だ。

 そして彼の娘であるペネロペ・ルードは、これまで年の近い第二王子の妃候補として、日々研鑽を積んできた。

 だが王子の婚約者には別のご令嬢が選ばれたため、今年で十七になるペネロペは可及的速やかに婚約者を定めねばならなくなり、父親に「何か希望はあるか」と聞かれ、答えたのが「カイル・アズーロ」である。


 一年ほど前に、お忍びで城下に遊びに行った際に従者とはぐれてしまい、荒くれ者たちが集う職人街に迷いこんだところを、巡回中のカイルに助けられた。

 見た目はいかついが気のいい親切な荒くれ者たちに囲まれ怯えきったペネロペは、騎士服を纏った見目の良いカイルに、ころっと落ちたのである。

 だが、自分は王子妃候補だと、(一方的に)募った想いを断ち切り、王子妃教育に努めたが、もう気にすることはない。

 カイルが独身であることは既に調べがついている。 

 王子妃候補にまで上がったペネロペとの婚約を、まさか断るわけもないという、貴族特有の傲慢さもあり、ペネロペが名前を出した時点で、この縁談は決定したも同然と彼女は考えていた。

 が、思わぬ障害が立ちはだかったのである。



「ペネロペ。カイル・アズーロとの縁談は諦めよ」


 数日後、父からもたらされたのは、自分の意に沿わぬ返答だった。


「な、何故ですの! わたくしはあの方が良いのです!」

「奴には子どもがいる」

「は…?」


 ペネロペの思っていた高潔な騎士の印象を損なう内容に、ペネロペは呆然と立ち尽くす。


「若い頃は随分と遊んでおったらしい。その時に付き合いのあった女が生んだ子を最近引き取ったようだ」


 伯爵が耳に入れた情報は、第三騎士団を良く思っていない第一騎士団の者からもたらされたため、あながち間違いではないものの若干悪意の感じられる内容であった。


「その女のことはわからんかったが、結婚はしておらんようだ。今は騎士団寮で娘と暮らしておる。ペネロペ、悪いことは言わん。そんな素行の悪い男との縁談は諦めろ」

「……ですわ」

「ん?」


 ペネロペはキッと顔を上げた。


「嫌ですわ! きっとカイル様はどこぞの女に誰の子か分からない娘を押し付けられたに違いないわ! だけどお優しいから、その娘を見捨てられず、しぶしぶお育てになっているのよ!」

「お、落ち着きなさい、ペネロペ!」

「これが落ち着いていられますか! ああお気の毒なカイル様! お相手の女性がいないのなら好都合ではないですか! 邪魔なのはその図々しい娘一人。その娘をどこぞにやってカイル様を解放して差し上げれば、わたくし達を阻むものは何もなくてよ!」

「ちょ、ペネロペ! 待つのだやめなさい! 娘の存在は騎士の頂点に立つ元帥殿もお認めになっておるのだ。手を出したらどうなるか!」

「これだから殿方は! 女の悪どい考えが理解できるのは同じ女なんですのよ! わたくしが目を覚まさせて差し上げましょう!」

「ペネロペー!!」





 ところ変わって騎士団寮では。


「へっぷし!」

「何だカイル、風邪かー?」

「いや、何だろ急に寒気が…」

「おとうさん、おかぜひいたの? リルがあっためてあげる!」

「おーありがとなリル。はー幸せ」


 ほかほかと温かい娘をぎゅうぎゅうと抱き締める父親は、面倒なことに巻き込まれつつあることをまだ知らない。




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