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彼女のおさんぽ4


 うちの娘は大変社交的だ。

 誰にでも物怖じせず話しかけるし、困っている人を見ると、幼いながらに必死で手を差し伸べようとする。

 それは娘の愛すべき長所であり、父親として誇らしく思う。

 思うのだが。

 どうしてそんな奴にまで、と思ってしまう自分は心が狭いのだろうか。


「ねえねえ、どれがリルににあうとおもう?」

「そうだな。淡い色も良いが、青も良い」

「なんっでお前がリルちゃんの服を選んでんだよクィブラー!」


 友人アルフォンスが気持ちを代弁してくれた。

 ありがとう、友人よ。


 カフェで鉢合わせたブリーズ・クィブラーは、喧嘩をして落ち込んでいると思い込んだリルのお誘いに、なぜか乗ってきた。

 そして子ども服の店までほいほい付いてきて、上機嫌に娘の服を物色している。

 マジで何だこいつ。

 カイルとアルフォンスにしてみれば、ブリーズのさっきの状況は喧嘩をして落ち込んでいるというより、鬱陶しい女を言い負かして清々していると言った風情で、絶対に落ち込んだりしていない。

 机に突っ伏したのは、カイルたちにそういう現場を見られた羞恥と苛立ちに違いない。

 だが、リルは天使だから女を大人げなく言い負かしたクィブラーにも優しい。


「アルおにいちゃん、けんかはだめよ。おともだちなんでしょう?」

「やだなあリルちゃん、お友達じゃないよ。ただの知り合いだよ」

「どうちがうの?」


 リルは困ったように首を傾げる。

 カイルは膝をついてリルと目を合わせた。


「あのなリル。こいつは悪い奴じゃないけど、お父さんとは気が合わないんだ」

「どうして?」

「うーん。会うたびにお前のことが嫌いだって言ってくる相手と、仲良く出来ないだろ?」

「うわー、カイル直球で言っちゃうんだ」


 アルフォンスは隣で驚いているが、仕方がない。

 こういう人間関係をリルに見せたくはないが、昔から自分に敵意を向けてくるクィブラーがリルに近づいて、危害でも加えようなら許せない。

 リルを守るためなら容赦はしない。

 案の定、リルは瞳を潤ませた。


「えっ、おにいさん、リルのおとうさんのこときらいなの?」

「ぐっ」


 うるうるした瞳で見上げられ、クィブラーは声を詰まらせた。

 動揺したのか、助けを求めるようにこちらを見てくるが、どうしてこちらが助けてやらなければならないのか。

 クィブラーはしどろもどろに喋りだした。


「いや、その誤解だ。確かにそのようなことを言ったこともあるが、私はカイル・アズーロの実力を認めているし、だからこそライバルとして負けられないと言う気持ちが強いと言うか」


 思いがけない言葉に、ついアルフォンスと視線を合わせる。

 いつもカイル含め、第三騎士団を見下しているような態度と発言を改める様子のないクィブラーから、そんな殊勝な言葉が出てくるとは。

 リルの涙混じりの上目使い、威力がすごい。


「ひぐっ、じゃ、じゃあ、おとうさんのこと、すき?」

「えっ」


 おお、これは困った質問だ。

 間違いなく好きではないだろうし、クィブラーは良い意味でも悪い意味でも自分に素直だ。

 さて、どうやってリルを説得するのだろうか。

 顔を赤くしたり青くしたりと忙しげに表情を変えながら、口をはくはくさせ、ようやく絞り出した一言が。


「き、きらいでは、ない」


 大変もやっとする回答である。

 だが意外だった。クィブラーは子ども好きには見えないし、まして自分が嫌いなカイルの娘ともなれば、もっと邪険に扱ったり、泣かせても構わないような言葉を投げつけると思っていた。

 これも作戦なのかと一瞬勘繰ったが、そもそもそんな作戦を図るような奴なら、今日だってもっと上手く立ち回るはずだ。

 これは間違いなく、あれだ。


「あーあ。クィブラーの奴、リルちゃんに絆されたなぁ」


 それな。

 我が娘ながら恐ろしい。






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