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彼女のおさんぽ3


「ブリーズ様ぁ、何にします?」

「え、ああ、この店のお勧めで」

「じゃあ私もそうしますぅ」


 時々連れに話しかけられるが、正直それどころじゃない。

 カイル・アズーロ一行に見つからないよう、柱に遮られて姿が見えない、だが話し声を拾うことはできる、絶好の席を確保できた。


 アズーロ親子と一緒にいるのは、第三騎士団のアルフォンス・レザンだ。カイル・アズーロと同年代で親しく付き合っているらしく、そのせいか彼はどこかブリーズを倦厭している節がある。

 ブリーズとしても、カイル・アズーロの友人というだけで忌々しい。


「カイル、食ったらどこ行く? そろそろ服屋向かうか」

「そうだな。カテリーナさんから紹介された子ども服の店はこの近くだし、…リルのはしゃぎっぷりからして、ゆっくりしてると目的果たす前に寝る気がする」

「ああ…。確かに」

「おとうさぁん、これからいよぅ」

「だから辛いって言っただろ。ほらミルク飲め」

「んん…。ぷはあ! いきかえった!」


 カイル・アズーロがリルと呼んだ少女の可愛らしい言葉に、二人の笑い声が聞こえる。

 楽しそうだ。こっちはお前のせいで婚活なぞしているというのに、と理不尽な怒りを覚える。


「ブリーズ様、お料理が来ましたよ! まあ、何て大きなサンドイッチ…。どうやって食べましょう」

「ナイフで小さく切ればいいんじゃないですか」


 思わず平坦な声音で応えてしまったが、連れの女はめげない。


「ブリーズ様、切ってくださる?」

「は?」


 何だこの女。

 女の兄である同僚は面倒くさいと言っていたが、本当に面倒だ。

 これは甘えているつもりなのだろうか? こういうのを可愛いとか思う男が本当にいるのか?

 イライラが止まらないブリーズは思わず返していた。


「ナイフの使い方もご存じないのですか。幼子のような我儘をおっしゃるのはお止めになった方がよろしいかと」


 女の笑顔が固まった。口許がひくりとひきつる。


「ま、まあぁぁブリーズ様。女性の我儘を叶えてこそ、男の甲斐性というものではありませんの?」

「自分でできることを他者に押し付けるような我儘を叶える男に甲斐性があるとは思えませんが」

「っ! 無礼な方ですわね。このことは兄に報告させていただきますわ!」

「ご自由にどうぞ。貴女の兄からは、面倒になったら相手をしなくてもよいと予め助言を受けておりましたから」

「し、失礼します!」


 女は顔を真っ赤にして、足音高く店を後にした。

 スカートで隠れているにも関わらず、がに股になっているのがわかる。

 同僚の言う通り、本当に面倒くさかった。

 今度お詫びをしなければ。妹にではなく、兄の方に。

 大きなため息をついたその時、袖をツンツンと引かれた気がして、そちらにふと視線をやると。


「おにいさん、けんかしたの?」

「!!」


 そこには、リルと呼ばれていた金茶色の少女。そして、何とも言えない表情で、双方を別っていた柱からこちらを覗き込んでいる少女の保護者とその友人。

 二人は顔で語っていた。

 こんなところで痴話喧嘩するなよ、引くわー。と。


 そう。

 向こうの声が聞こえるということは、こちらの声も向こうに聞こえていると言うことで。

 女は何度もブリーズの名を呼んでいたし、先程の言い争いも筒抜けだったはず。


 ブリーズは羞恥のあまり、机に突っ伏した。




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