彼女のおさんぽ1
「リル、迷子になるから手を離すなよ」
「うん!」
「リルちゃん、こっちのおてて、アルお兄ちゃんと繋ごう?」
「やめとけアル、気持ち悪い」
「え、ひどいなカイル、何が気持ち悪いんだよ」
「リル挟んで俺らが手繋いだら、…俺らがカップルみたいだろ」
「…うわ、ぞわっとした。うん。やめとこう」
今日は、リルが王都に来て初めて、町歩きをする日である。
カイルはリルと二人で行くつもりだったのだが、非番が被ったアルフォンスが俺も行くと言い出し、リルも一緒に行きたいと言い出したためにしぶしぶ頷いたのだが。
三人で手を繋ぐのは完全アウトだ。
第三騎士団のメンバーは、王都でも顔を知られている。そこで妙な噂が立ったら目も当てられない。
王都は今日も賑わっていた。
住人たちはもちろん、物流の要所でもあるこの町には商人や旅人も多く集まる。
人が多いということは、子どもが迷子になりやすいということでもある。本当なら抱き上げて行動したいくらいだが、リルは自分で歩きたがるので仕方がない。
「おとうさん! どこいくの?」
「うん、リルの服と下着をいくつか買おうか。他にも欲しいのあったら言えよ」
「はーい!」
「リルちゃん、お昼ご飯はアルお兄ちゃんが奢ってあげるからね。何食べたい?」
「うーんとね、えっとね、おにく!」
「おお…、結構ワイルドだな…」
「リルはチキンが好きだな」
「すきー!」
「じゃあチキンサンドの店にするか。あそこ旨いんだよ」
「任せる」
アルフォンスもカイルも、王都内の巡回がメイン業務のため、あらゆる店に詳しい。だが、実際に利用しているという点ではアルフォンスの方が遥かに詳しいだろう。
カイルが非番の日に町へ出ることは、ほとんどなかったのだから。
リルは楽しそうにきょろきょろしている。
しょっちゅう足を止めては、あれはなあに? これはどんなあじがするの? とカイルやアルフォンスだけでなく、店の人にも積極的に質問している。
かわいい。
カイルだけでなく、アルフォンスや質問された店主たちもそう思ったらしく、アルフォンスは何でも買い与えようとするし、店主はすぐおまけをつけてくる。店主の場合は顔馴染みの騎士の娘ということもあるのだろうが。
しかし、カイルが止める必要はなかった。
「だいじょうぶよ。リル、そんなにたくさんいらないの。シスターがね、たくさんもってるからしあわせというわけじゃないのよっていってたの」
この子は神様の使いか何かだろうか。
「それにね、きょうはおとうさんがおようふくをかってくれるの。あんまりにもつがふえちゃうとこまっちゃう」
大人よりはるかにしっかりしている。少なくとも、後先考えず何でも買い与えようとするアルフォンスよりもずっと。
「こりゃ驚いたなあ。騎士様の娘さん、しっかりしてるねえ」
「ほんとねえ。リルちゃんだったかね。またいつでもおいでな。ここの品物が欲しくなったら買っておくれよ」
「うん、ありがとう、おじちゃんおばちゃん!」
店主夫婦はやに下がって手を振る。
アルフォンスは、「しっかりしてるリルちゃん可愛すぎる!」と口許を押さえて震えている。気持ち悪い。
何はともあれ、しっかりした娘を持てた自分は幸せ者だと、カイルは幸運を噛み締めた。