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彼女のおるすばん2

タイトルはこれですが彼女は出てきません。

お父さん側の話です。


 黒狼国騎士団は、第八騎士団まで存在する。

 第一、第二はともに王城内外における王族並びに貴族諸侯の公務時の護衛任務を請け負っており、所属する騎士も全員が貴族家出身だ。それゆえ、騎士団宿舎や訓練施設は城内にあり、優遇もされている。

 カイルが所属する第三騎士団は貴族と平民が混ざり合った編成だ。王都警備が主な仕事であり、屯所は数ヵ所に分かれている。第三騎士団寮からは近いところですぐ目の前、遠いところなら馬で二十分といったところである。

 その日どこの屯所に行くかは団長であるバーナードが、団員同士の相性やその地区で現状起こっている問題を鑑みて配置しており、日によって配置される屯所は異なる。

 

 カイルがその日向かったのは、寮から歩いて十五分ほどの場所で、職人街と呼ばれている地区だ。

 金物屋や鍛冶屋ばかりが立ち並ぶコアなエリアで、気難しい男たちばかりが集っているが、仲間意識が高いので妙な客が来ない限りは大変平和な地域である。

 初めてリルを寮に置いての仕事日だったので、恐らくバーナードの気遣いにより、揉め事で残業にならないような地区にしてくれたのだろう。

 その日のパートナーが気心の知れたアルフォンスというところからも想像がつく。


 屯所に着き、夜勤の騎士二人と引き継ぎを行い、まずは書類仕事に取り掛かる。騎士といっても意外とデスクワークが多いのだ。


「それで、カイル」

「ん?」

「リルちゃんの母親は?」


 ペンを走らせていたカイルの手が止まる。

 そう、アルフォンスにはリーナのことを一度も話していない。いや、アルフォンスだけでなく、他の誰にも打ち明けたことはなかった。バーナードに送ったお伺いの手紙ですら、リルの母親については既に死去していることしか伝えていないのだ。

 リーナの父である伯爵がリルの存在を認めていない以上、こちらから話すのはリルを危険にさらすことに繋がりかねない。

 だから、アルフォンスに言えることも多くないのだ。


「リルを産んですぐ亡くなった」

「…そうか」

「……子どもを産んだなんて、知らなかったんだ」


 ぽろりとこぼれた言葉に、アルフォンスは静かな視線を向けてくる。普段はふざけていることも多いくせに、こういう時は驚くほど真摯で聞き上手だ。


「正騎士になって、金も溜まった。生活の基盤もある。迎えに行ったら、あいつはもういなくて、産まれた娘は救貧院にいた」

「きっといい施設だったんだな。リルちゃん見てりゃわかる」

「ああ。シスターたちも他の子どもたちも、とても朗らかだった」


 アルフォンスは笑顔を浮かべた。


「じゃあこれからは、あっちの方が良かったって言われないようにしないとなー」

「…もう思われてるかも。嫌われたし」


 思い出してまた気が塞いでいく。ツラい。


「子どもなんてそんなもんだって。すぐにお前の仕事にも慣れて、あっさりいってらっしゃいって言われるさ」

「それはそれで切ない」

「お前、面倒くさくなったなあ」


 アルフォンスが笑う。他人事だと思って。


「まあ、あっちは心配いらないって。メアリさんいるんだぜ? それよりちゃっちゃと仕事して、定時で上がってご機嫌取りのお土産買って帰ろうぜー」


 勤務についたばかりなのに、既に帰りのことを考えているアルフォンスに、カイルもようやく笑みを浮かべた。


「そうだな。通りの本屋寄っていいか」

「お、もうお土産決まってんの」

「団長そっくりの熊が出てくる絵本のシリーズを探したい」

「ぶはっ! いいじゃん、付き合うわ! てか俺も読みたい」

「案外子ども好きみたいだし、今度団長に読み聞かせをお願いしたい」

「ぶっ、ちょ、笑わせないで」


 黒狼国の王都は、今日も大変平和である。




次は子どもたち登場予定です。

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