転生!
「……………ん」
俺は目を覚ました。やっと死後の世界だ。
背中にはふかふかの芝生が当たり、目の前にはい霧がかかった薄暗い空がある。
俺はぬっと起き上がる。右腕は……ちゃんとある。動かせる。痛くない。
目の前に古びた建物が1件あった。
俺は近寄り、木の大きな扉を見上げる。
「大きいなー……」
開けたらギギギー…といいそうな扉だ。
屋根は布のようなもの。壁は木を加工せず、そのままのもの。手抜き感満載の建物だ。
「そこにいるのは誰じゃ」
老婆の声がした。しかし、姿は見えない。
「死者か?それとも聖域を穢す悪党か?」
これは答えないと殺されるパターンだ。
「お、俺は死者です。隕石が墜落した東京で死にました。気づいたらここにいて……」
俺の声、足は震えていた。
「そうか。それじゃあ、中に入りなさい。」
言葉が発せられると同時に、扉が開いた。
俺は恐る恐る、古びた建物へ入っていく。
するとそこには、被り物をかぶった、よく見るような老婆がいた。歳は多分、300は超えているだろう。机の上には水晶玉があり、照明は無いが、部屋の中は明るかった。俺が辺りを見回し終わると、老婆が俺に声をかけた。
「とりあえず、そこに座りなさい。」
俺は座布団の上に正座する。老婆は水晶玉に手を当てながら言う。
「さて、お前さんは何を望む?元の世界に魂として、永遠に漂い続けるか、元の世界に生まれ変わるか、まだ行ったことのない地へ転生するか。全て嫌なら、その魂を消し、虚無の世界に送ることも出来る。さて、どうする?」
老婆は真剣な表情で言った。その目の鋭さに、背筋が震えた。
俺は考えた。まず、もうあの世界には戻りたくない。隕石の墜落した、地獄のような場所に。そして、萌奈の居ない場所に。
生まれ変わるのもありだが、またいつ隕石が落ちてくるか分からない場所には行きたくない。
残った選択肢は2つ。転生か、虚無の世界か。虚無の世界、永遠に何も無い世界。そんなの面白くもなんともない。俺は嫌だ。
最初から答えは決まっていた。
「俺、転生します。」
老婆の目を見、心と言葉で訴えた。
「そうか、じゃあ職業を選ばせてやる。何がいいか?」
そこで提示されたのは職業が描かれた5枚のカード。
そこには、『魔法使い』『弓使い』『剣士』『回復師』『獣使い』がかかれていた。
「さて、お前さんは何にするかい?」
クソ、めっちゃ悩む。俺は何度か考えたことはあるが、いざそれになるとなると、とてつもなく悩む。
「これって、職業を変えたり出来ないんですか?」
「そうだ。でもその職業は進化前、つまり、その上位互換がいる。たとえ自分に合っていなくても変更はできない。だが、合っていなくてもソレを身につける努力をし、職業を進化させていく。それは楽しいと思わないかい?」
俺はこの言葉ではっとした。この老婆の言う通りだ。それなら、と俺は覚悟を決め
「俺、剣士になります。」
老婆に言った。
「そうか、頑張るんじゃぞ。ちなみにあっちの世界で死ぬと、あっちの世界の転生師の所に行くから、もうワシには会えんぞ。」
老婆は少し寂しそうだった。こうやって、何人もの旅立つ人々を見てきたのか。
「まあ、あっちからもお前さんの元いた世界に帰ることはできるから、気が向いたら帰ってきてのう。」
「は、はい!ありがとうございました!」
俺は笑顔で老婆に言った。
「じゃあの。」
俺の周りに魔法陣が出てきた。そして、
「今からこの男、山田光鶴を転生させる。彼の幸運を祈り、今!彼にもう1つの生命を与えようぞ!」
俺の体は浮き、天に昇った。
「さあ少年よ行け!新たなる地で新しい人生を歩むのじゃ!」
そのまま視界が真っ白になった。