絶望と希望
地響きがする。隕石はもう、すぐそこだ。
ーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
せめて…萌奈だけは守りたい。
俺は萌奈に覆い被さるように伏せた。
あー、来る、来る。なんでこんな時代に生まれてしまったんだろう。あー、不運だ。まあ、もうすぐこの不運な人生も終わるけどな。来世は幸運なものに生まれ変わりたい。
ドーーーーーーーン!!ゴゴゴゴゴ……
どうやら、隕石は日本を直撃したらしい。とても大きな音だった。音が聞こえると同時に、俺は意識を失った。多分、死んだのだろう。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……………………………………ん」
「……………………んん…………………」
俺は目を開けた。
「……ここは…死後の世界か?」
視界がぼやけてよく見えない。よく目を凝らしてみる。するとそこにあったのは、隕石によって壊された日本だった。もう跡形もない。
「なんで俺、生きてるんだ?」
意味が分からない。隕石は直撃した。絶対に死んだはずだ。……なのに、俺は生きている。
そうだ、萌奈は!?俺は隕石が落ちてくる衝撃で吹き飛ばされたらしい。もう、ここはどこか分からない。萌奈は……多分、死んだのだろう。
俺は悲しみでいっぱいになった。この悲しみは絶望に近いだろう。彼女を失い、周りの人も死んでいるのに自分だけ生きている。あー、不運だ。なぜ死ななかったのだろう。俺は、自分の不運を恨んだ。
ーーズキンッ!
右半身に激痛が走った。恐る恐る見てみると、俺の右腕はなかった。肩からダラダラ血が流れ、地面は俺の血、周りの人の血で真っ赤だった。これ程の血を見たのはこれが初めてだ。血独特のにおいもする。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。多分、俺の右腕は隕石によって木端微塵にされたのだろう。
ーーズキンッ!ズキンッ!ズキンッ!
「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
さっきまでは感覚が麻痺していて痛くなかったが、今になって右腕の痛みが出てきた。死ぬよりも辛い。痛いだけで死ねない、こんなの嫌だ。神の悪戯にしては度が過ぎている。最悪だ。不運だ。
ーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
ーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
なんで死ねないんだ。死んだら楽になるのに。死にたい。死にたい。俺は絶望の涙を流した。俺は壊れてしまいそうだった。
ぐぅ〜〜……腹が減った。このまま餓死を待つしかないのか?そんなの嫌だ。餓死は最低でも3日~5日は生きていないといけない。体が丈夫ならもっとかかる。その間に、ずっとこの痛みを味わい続けるのは最悪だ。いや、その前に出血多量で死ぬか。あー、早く死なないかな。それにしても痛い。少し慣れてきたが、痛いものは痛い。とりあえず頑張って立って、少し散策しよう。
歩ける場所が無いではないが、足場が悪い。所々に肉片が落ちているのが悲惨だ。
人の頭や腕や脚など、俺のように体から離れたモノが多くある。地面はどこも血だらけで、見ていられなかった。俺のように、体がちゃんとあって脚や腕がくっついていても、皆死んでいた。俺が生きているのは奇跡だ。が、こんなに痛く、周りの悲惨な光景を見てしまうのは不運だ。腹が減るのに食べ物はない。不運だ。
「早く……死にたい」
俺は覚悟した。先が鋭い瓦礫を持ち、自分に刺す。もちろん痛い。たが、もう痛いのなんてどうでもよかった。だんだん意識が遠のいていく。
「これで、ようやく死ねる。」
俺は妙な笑みをうかべて言う。もう、希望はこれしかない。早く死んで成仏したい。
そう思いながらそっと目を閉じた。そして、この世界の俺が目を覚ますことはなかった。