タイムリミットは6時間
デートに行くと決まった俺たちは、新幹線に乗って『天女の娘』の聖地、東京に行くことにした。
新幹線には、片道3時間は乗ることになる。聖地を歩けるのは3時間しかない上、俺たちはもうすぐ死ぬ。少し損だと思うだろう。だが、俺はそうは思わない。だって、柳原と入れるのだから。
「光鶴くん!見てみてんに!富士山だァ!」
柳原は興奮しているように見える。微笑ましい。
ずっと、こんな時間が続けばいいのに。
「お、ほんとだすげー!綺麗だなー」
でも、こんな綺麗な景色に出会えるのは今だけ。だって、俺たちはもうすぐ死ぬ。もし生きられたとしても、そう長くは持たないし、綺麗な景色を見られることは絶対にない。俺は目の前の富士山の美しい姿を目に焼き付けた。
「ねぇ光鶴くん、」
「ん?なんだ?」
「私たち、恋人同士なんに?なら、私のこと、下の名前で呼んで欲しいんに!」
柳原からの意外な要求に、俺はびっくりした。
「おう、いいよ。………てか、お前の下の名前ってなんだっけ?」
「な、なんで知らないんに!好きな女の子のフルネームくらい知っとけに!私の名前は柳原萌奈、ちゃんと覚えとけに!」
柳原……いや、萌奈はカンカンだった。無理もない。俺が悪い。初めての彼女に怒られるなんて、不運だ。
「ご、ごめん、悪いな萌奈」
萌奈の顔が少し赤くなった。あー、かわいい。
その後もこんなやり取りしていると、ついに着いた。東京!!
俺は東京に来たのは初めてだ。萌奈は、2回目らしい。
東京駅はまるで迷路みたいだった。初見の俺では無理ゲーだ。初見殺しだ。萌奈も、前来たのは5年ほど前らしいから、全然覚えてないらしい。
俺たちは東京駅を出るのに、10分ほどかかった。
既に疲れていた。
「はぁ、はぁ」
「だ、大丈夫か?萌奈」
「う、うん大丈夫に。ありがとうに」
萌奈疲れた顔をしていたが、こちらを向いてニコッと笑った。やば、かわいい。
俺の顔は、赤くなっていただろう。
俺たちは、慣れない東京の街を楽しい会話をしながら歩いていく。と、
「「着いたーー!!」」
ついに着いたのだ。あの神社に。俺たちは神社の前に並び、二礼二拍手一礼をし、願い事をした。
普通の人なら、『隕石が落ちてきませんように』とか、『モテ期が来ますように』なんてことを願うだろう。しかし、隕石衝突はもう避けられないし、俺には彼女もいる。つまり勝ち組だ。
俺は『萌奈ともっと長い時間居られますように』と、リア充らしい願い事をした。まあ、あと2時間程度しかいられないが。
その次は廃ビルだ。アニメの画どうりの物だった。
「すげぇ……!」
俺は心の底から感動した。無意識に涙が出てくるほどに。
萌奈も、俺と同じような顔をしていた。
廃ビルには入れないから、写真を撮った。もちろん萌奈との自撮りで。これは一生の宝物だ。
聖地巡礼が終わったところで、俺たちはカフェに寄った。もうすぐ死ぬんだ、金を使いまくってやる。
「萌奈、何か欲しいものはないか?俺、全財産持ってきたから、なんでも買えるぞ」
「え、じゃあ、カプチーノ飲もうかんに。あと、パンケーキが欲しいんに!いちごとホイップクリームが乗ってるやつに!」
「了解だ。えっと、カプチーノと、ふわふわホイップといちごのパンケーキをください」
「分かりました。少々お時間が掛かりますので、4番テーブルでお待ちください。」
俺たちは受付から、4番テーブルへと移動した。
「待ってる時間暇んに…」
「だよなぁ、なんかしようぜ」
「じゃあ外見ようよ、ていうか、今何時?」
萌奈に言われ、ふと携帯を見る。
ーー時間は21:32を指していた。
NASAの予定時刻通りだと、あと30分程度しかない。萌奈と一緒にいるのが楽しすぎて、時間のことを忘れていた。不運だなー、俺。
「21:30だ。やばくね?」
「え、ええ!?もうそんな時間に?やば、もう死ぬんに……」
「お、落ち込むなよ。死ぬことなんて前から分かってたことじゃんか」
ついさっきだけどな。
「そ、そうんにね。」
よし、萌奈の生きるモチベーションを保つことに成功!
5分後、パンケーキが来た。
名前通りのふわふわのホイップ、その上にいちごが堂々たる姿で腰掛けている。とてつもなく美味しそう。
「わぁ〜、美味しそうんに!」
萌奈は嬉しそうだ。俺も嬉しくなる。
「……んー!美味しいんに!」
「そうか、よかったな」
あー、かわいい。
残り10分となった。また、あのサイレンが鳴った。
ウーーーーーーン!ウーーーーーーン!
「またあのサイレンか。聞き慣れちまったよ…」
「み、光鶴くん、こわい……」
萌奈は怖がっている。周りの人達もだ。
俺は気になって外に出てみた。街にいる人たちは、混乱していた。
それから少しして、隕石が見えた。
「やばい……来る」
死ぬと分かっていても、それを自ら受け止めにいく人はいないだろう。俺たちはなるべく屋内か、地下に行くことにした。
「今1番近いのはこのカフェだが、命を守るには値しないと思うぞ。どうする?」
「いや、今安全な場所はここしかないわけだから、ここでいいんに」
俺たちはカフェで机の下に入った。なるべく当たらないために。
絶対に、こいつだけは守ってやる。俺はこいつのためになら死んでもいい。