デートに行こう
謎のサイレンが鳴り響く中で、俺と柳原は団子のようにくっついていた。
俺にとっては最高の距離だが、状況が悪い。意味の分からないサイレンの下で、二人きりだ。なんなら大人が欲しいところだが。
辺りを見渡すが、冷静な大人なんていない。
みんな焦っている。当たり前だ。なのに、俺は冷静だった。いつもより周りがよく見える。
「なーんか不思議だよなー。」
俺は気の抜けたことを呟いた。
「み、光鶴くん、怖くないんに?こんなこと、生まれて初めてんに…」
柳原は、震えた声で言った。
俺は手に持っていたスマホでニュースを見た。どうやら、日本中、いや、世界中でこのサイレンが鳴っているらしい。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、このサイレンは、天体衝突が発覚した時のサイレンだという。
今回落ちてくる隕石は、とても大きいものらしい。地球と同じか、少し小さいくらいだそう。
ーー確実に、死ぬ。
隕石衝突までの時間は、せいぜい6時間程度だという。なぜ今まで気づかなかったのかは謎だが、今はそんなことはどうでもいい。
この6時間をどう過ごすか、俺が考えたのは1つ。
ーー柳原と、人生で最初で最後のデートをする!
これは俺の夢だった。1度でいいから、女性とデートをしてみたい。そして、目の前に俺の好きな人がいる。
さっきはサイレンで邪魔されてしまったが、今ならいける。絶対にOKをもらって、デートするんだ!!
「な、なあ柳原」
「…………………」
「柳原?どうした?」
俺は俯いている柳原の顔を見る。
泣いていた。無理もない。あのサイレン、あのニュースは、俺たちにとっての余命宣告のようなもの。怖がらないわけがない。が、俺は後の6時間を楽しもうと決めた。俺のようなポジティブ思考の人間はそうそういないだろう。でもいい。俺は俺の考えた最高の時間で人生を終えるんだ。
でも、柳原は違った。あと6時間で死ぬ。考えただけでもゾワッとするだろう。
「柳原?怖いのは分かるぞ。俺も怖い。だが、当たるのは地球の半分だけだ。もしかしたらまだ生きれるかもしれないぞ?ポジティブに行こうぜ!考えすぎるのはダメって、お前が俺に言ったんだぞ?」
「…………………」
無言の時間が続く。俺は、何か悪いことをしてしまっただろうか。でも、どうせあと6時間で死ぬんだ。今更どんな黒歴史を生み出そうが、もう関係ない。今なら言える。この状況でも、覚悟さえあれば。
「柳原、聞いてくれ。俺はお前のことが好きだ。いつも柳原に悩み相談をしているうちに、お前のことが好きになった。いつも嬉しかった。幼稚園から一緒だけど、実際こういう事を直で言うのは、なんか照れるな……」
俺の顔は、トマトみたいに真っ赤だっただろう。
さて、柳原はこれをどう受けとったか?
「…………!」
「…………?」
「……み、光鶴くん、ありがとう。とっても嬉しい……んに!」
今までで最高の笑顔がそこにあった。俺はもう死んでもいいと思った。
「柳原、今からデートしないか?どうせ生きたって、せいぜいあと6時間の命だ。俺はお前とデートしたい。それが出来れば悔いなく人生を終えられる。」
「うん、しようよデート!私も最後の6時間、楽しんでやるんにー!」
やったああああああああああ!!!!
人生初の告白、そしてデートの誘いに成功したぞ!嬉しい!嬉しすぎる!
俺は心を躍らせながらも冷静を装い、男らしさを見せた。
「さて!どこに行くんに?」
「そうだなー、何も決めてないし…。柳原はどこかないのか?おれ、そういうの分からないから」
「うーーん、そうんにねー。アニメの聖地……とか?」
「おー!いいじゃん!行こうよ!俺、『天女の娘』の聖地行きたいんだ!」
「いいんによー、最初で最後のデートが聖地巡礼なのはあれだけど、光鶴くんがいいなら私もそれでいいんに。」
指でグッドをつくり、こちらへ向けた。あ、可愛い。今の俺は不運じゃないな。嬉しすぎる。こんな日が今までであったものか。まー、人生の最期くらい、いいよな?