第四話
(お父様のお姿は、前世の記憶を辿っても…あまり鮮明ではありません。)
(お父様は、私が2歳になった時にエルフの国で、家族みんなで暮らそうと仰られたそうです。…ヒュム族の母、そしてエルフとヒュムのハーフである私達を受け入れてもらえるよう、エルフの国の女王様に願い出てくると言って…旅に出てしまったと。)
(エルフは、他の種族を自分達より劣っているからと言う理由で…毛嫌いしていると聞きました。だから…説得だなんて、そんなこと……とても…とても、大変なはずで。)
(それでも、お父様がそう願ったのは……何故なのでしょうか?)
母との鍛練を終え、汗と汚れを洗い流しながら悶々と考えを巡らせていると「たっだいまああああああああ!!!!!」と元気溢れる声が響いた。
「っ!」
声を聞き、フロウリは慌てて浴室から出るとすぐに寝着に着替え、その声の主のもとへ向かう。
「ギージスお兄様っ!!」
名前を呼びながらその人へと飛び付けば「おお我が愛しの妹よー!!」と言いながら少年はフロウリを抱き上げくるくると回った。
(お兄様っ、お兄様が、生きてる…)
ぽろぽろと溢れる涙とは反対に、フロウリの顔には幸せそうな笑みが浮かぶ。
フロウリの5つ違いの兄、ギージス=マーヤックは金の髪に赤毛のメッシュ。蒼珠と橙黄のオッドアイを隠すために眼帯をしており、太陽のように明るく、どこまでも真っ直ぐな男だった。
その性格故に、前世では……「お前が見事、魔の山に住む邪竜を討ち倒せたならば…妹共々見逃してやろう。生かしてやる。」との帝国皇太子の言葉に騙され、たった1人死地へと赴き……牢の中で兄の無事を祈り続けていたフロウリの元へ、見届け人だと称する兵士が持ち帰ってきたのは、邪竜が喰い残したという兄の肉片。
革袋に入っていたそれを抱き寄せ、フロウリはただただ噎せかえるような血の臭いに包まれながら、泣き伏せることしか出来なかった。
「お兄様っ…お兄様あっ…」
ぎゅううっと力一杯抱きつき首もとへ顔を埋めてくる妹に「おいおい、どうしたんだよ…俺が出稼ぎに出てる間そんなに寂しかったのか?っつうか、なんか、フロウリ力強くなってね??!」とどこか焦りを滲ませながらもギージスは優しくその頭を撫でてやる。
(……絶対に、お兄様のことも守ってみせるわ。)
そう、改めて決意を固めていれば「…アタシの天使たちが可愛すぎてツラい。」と口元を抑えながら崩れ落ちている母の声が耳へと届いた。
そんな母に、ギージスは呆れたように溜息をつくと「母ちゃんはあいっかわらず親バカだなあ。」と笑い、フロウリを抱き上げたまま母の元へ向かい手を差し出す。
息子の手を取り、「親バカとはなんだい!アンタ達は誰がなんと言おうとアタシにとって世界一可愛い天使なんだよ!!」と言いながら、リベラはぐいっと二人を引き寄せ力一杯に、自分にとって何よりも大切な宝物達を抱き締めた。