第三話
それからの3ヶ月間はフロウリにとってあまりにも目まぐるしく過ぎていった。
毎朝、4時に起床し母と共に身体に丸太をくくりつけ森の中を二時間走り込み。
その帰りに、川から水を汲み上げバケツとゆう重石を更に増やし一時間の駆け足。
食事は三食、肉を中心に栄養が偏りすぎないようにバランスよく。
腹筋、スクワットは60回をワンセットに3セットを1日4回。
そしてもちろん、
「踏み込みが甘いっ!!そんなんじゃ相手に付け入る隙を与えるだけさね!!」
「はいっ、お母様!!」
ガキインッと木刀と木斧が鈍い音を立てながらぶつかりあい、弾かれた木斧を構え直しフロウリは再び母へと向かっていく。
母に教わり、幼い少女自らが持ちたいと願った武器。
それは槍の様に柄の長い戦斧…「ハルバード」と呼ばれる物だった。
長いリーチを生かし、相手を一方的に攻撃できてしまうように見えて…懐に入り込まれれば一気になし崩されてしまう危うさも持つ。
だからこそ、リベラはフロウリの攻撃を軽くはじき返し、下がらせると容赦なくその懐へと踏み込み木刀を振るう。
(さあ、どう対処する?)
にやりと口角を上げ、切っ先で弧を描けばフロウリはステップを踏み後方へと下がり避ける。
「いい判断だ!!だが、それは些かわかりやすすぎるねえっ!!敵に動きを先読みされるんじゃないよ、フロウリ!!」
「はいっ!!」
追撃を懸命にいなし、必死になって次の一手を考えているであろう娘を、一層愛おしく感じながらリベラは言った。
「さあ、これでしまいさね!!」
大技を繰り出すべく、リベラの剣筋に一瞬の隙が出来たのを見てフロウリは魔力を練り上げた。
「吹き飛べ、アウラードブレスッ!!」
「っ、?!」
フロウリの魔力に導かれた風は、渦状にうねり上がるとリベラへと向かっていきその身体ごと吹き飛ばす。
突然のことに受身をとれず、ズシャアッと地に身体を打ち付けた母に「お母様っ!!」と慌てて駆け寄るとフロウリは言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、お母様っ!!私、私っ!!」
「…」
「痛いところはありませんかっ?!すぐに、すぐに薬草をっ!!」
「……か、」
「えっ?」
「すごいじゃないかっ、フロウリィイイイイイイイっ!!」
ガバアッと勢いよく身を起こし、思い切り愛娘を抱き締めるとリベラは本当に嬉しそうな、とびきりの笑顔で言った。
「いつのまに魔法の勉強をしてたんだいっ?!」
「あ、えっ、と……」
(…言えない、言えないです。)
(これは、前世で唯一私が使えた魔法だったから…やってみたら、出せてしまいましたなんて言えないですっ…)
なんとか母に怪しまれないようにと、フロウリが絞り出した言葉は。
「お父様の、本棚にある本を…読んだの。」
朧気な記憶の中にある、父の私物になぞったものだった。
その言葉を聞いたリベラは「そうかっ、そうかそうかっ!!アタシにはさっぱりちんぷんかんぷんなあの本を読めたなんて、やっぱりアンタはあの人の子だねっ……うちの子天才かよお……」と幸せそうにはにかみ愛娘にまた頬を擦り寄せた。