第二話
身支度を終え、たたたっと軽い足取りで木目調の階段をかけ降り簡素ながらも可愛らしい家具が並ぶリビングへと赴けば美味しそうなスープの香りが鼻を擽る。
(…ああ、本当に…懐かしい……なんて、あたたかいの。)
また溢れだしそうになった涙をぐいっと拭い、フロウリは食事の支度をしていた母の元へ向かう。
「お母様っ、」
「ああ。降りてきたね、アタシの可愛いお姫様…さ。朝ごはんにしようか。」
「うんっ!でもね、お母様…その前に、聞いてほしいことがあるの。」
「ん?なんだい?」
優しい笑みを浮かべながら問うた母に、幼い少女は、自分と同じ色をした母の瞳を見つめながら言った。
「お母様は、以前数多の戦場を駆け回った凄腕の騎士様だったと教えてくれましたよね。リベラ=マーヤックは戦姫と呼ばれていたと…お母様、どうか私に、稽古をつけてくださいませんか?」
フロウリの言葉に母、リベラは浮かべていた優しい笑みを消し険しい表情を見せると少女をじっと見据え、問うた。
「……自分が今、とんでもないことを言ってるって事…ちゃんとわかってんのかい?」
「はい、わかっています。」
「…アンタは、アタシの可愛い娘だ。だがね、遊び半分な気持ちでソレを言い出してんなら話は別さ。一人の武人として、アンタの根性叩き直してやりたくなる。」
そういって、少しの怒気を滲ませたリベラに「遊び半分な気持ちなんかじゃありません!!」と答えるとフロウリは声を震わせた。
「私は、私はっ、誰よりも強くならないといけないの!!大切な人達をっ……お母様を、護りたい、護れるように、なりたいの。」
それだけをしぼりだし、潤んだ瞳で母を見上げればリベラは口元を抑え「ん"っ!!」と声をもらすとそのまま膝から崩れ落ちた。
「お母様?!」
「…いやもうなに、なんなのアタシの娘ちょう可愛い、アタシを護りたいって、そんな、いつの間にそんな、立派に、あああああああっ!!可愛いなああああああもおおおおおおお!!」
力強くフロウリを抱き締め、頬擦りしながらそう言うとリベラは真剣な眼差しで少女を見つめ、言った。
「アンタの気持ちはすごく嬉しい。だがね、アタシはアンタの母親だ。親は子を護るもんだ。だから…アンタが頑張る必要はないんだよ……といいたいところだが!!………せっかくの思いを無下にするのも野暮さね。だから、フロウリ。母様と二人で、一緒に強くなろうか。」
「っつ、はいっ!!」
とびきりの笑顔を浮かべて、力強く頷いた娘に「うちの子天使かよおっ!!」と叫ぶとリベラはおもむろに立ち上がり、冷蔵室を開け中から鶏肉の塊を取り出すと、にやりと笑った。
「そうと決まれば、アンタも今日から特別メニューだよ。フロウリ!!母様特製筋肉増強食を朝昼晩しっかり食うんだ!!何をするにも身体を作らなきゃ意味がないからね、全力でアタシについてきなァ!!」
「はいっ!フロウリ、お母様のようなタフネスガールを目指して頑張ります!!」