第一話
(……)
「…ウリ、」
(……誰かが、私を呼んでる…。)
「フロ、」
(…起きなきゃ。)
(……ああ、違う。違うわ。私は、もう、起きたくても…起きられないもの。)
(だって、)
「…しんで、しまっているから。」
「なあにをバカ言ってんだい!!この娘は!!縁起でもない事言うんじゃないよっ!!」
その言葉と共に、ポカンっと頭を小突かれて幼い少女はパチッと瞳を開けるとがばりと勢いよく身を起こした。
側に立つ、赤毛の美しい女性を見上げ「…おかあ、さま?」と呟けば彼女は優しげに笑う。
「そうだよ、アタシの可愛いお姫様。まったく…何を呆けた顔してんだか。朝ごはん出来てるよ。顔を洗って、はやく降りっ、「お母様!!」
言葉を遮るようにして、母へと力一杯抱きつけば蒼珠の瞳からボロボロと大粒の涙が零れ、溢れていく。
わあああんっ、と声をあげながら泣き出した娘に母は困ったように笑うと「どうしたんだい?こわい夢でも見たのかい、大丈夫…大丈夫だよ。アンタはお母様が絶対守ってあげるから…」と、優しく抱き締めその背を撫でる。
(ちがう、)
(ちがうの、お母様。)
(それでは、ダメなの。だって、お母様は、)
(そういって、私を皇国兵の手から逃がすために、囮になって……殺されて、しまったもの。)
ひとしきり泣き、少女がやっと落ち着いたのを見ると母は「下で待ってるからね。」と娘の額にキスをひとつ贈ってから階下へと降りていった。
ぐしっと鼻を鳴らし、鏡の前に立てば…泣き腫らした蒼珠の瞳とウェーブがかったハニーブロンドの長い髪をした6歳程の愛らしい顔立ちの娘がこちらをじっと見つめ返している。
「……戻ってる。」
フロウリ=マーヤックの人生は、18歳で終わった。
それは変わりのない真実。
確かに、あの時首を落とされ終わった筈なのだ。
けれど、目の前にある姿は自身が1番幸せだった頃の自分で……頬をつねってみれば、その痛みが現実であることを教えてくれる。
「……これは、きっと神様が…私にくださった奇跡なんだわ。」
ぐっと拳を握り締めじっと自らの瞳を見つめ返す。
「今度は、絶対に間違ったりしない。私は、守られてばかりの存在じゃだめだった。だめだったのよ。だから、」
「誰よりも、どんなものよりも強くなって、そして、護るわ。お母様を、私の大切な人達を……皇国の者達に、何一つ奪わせはしない。」