妹よ、兄さんは今、乙女ゲーの悪役令嬢をしているよ
歳は20、両親と妹が一人いる。
そこそこの大学に入り、やりたい事もなし、大学院に行くつもりだ。
刺激が欲しいと思った頃もあった、若気の至りか?
まぁ、心残りと言えば…
「真剣にゲームしてりゃあなぁ…」
ポツリと誰にも聞こえない声で呟く
白い円卓の周りに中世の型落ちドレスが花を咲かせる。
菓子の甘ったるい匂いが、
部屋の大量の花の独特な香りが、
自己主張の激しい香水と混ざり合い
換気していないストーブのついた教室を思わせる。
周りの女達は甲高い声で話し合っている。
(よくこんな部屋で息が吸えるものだ…)
できるだけ浅く呼吸をして、その場を凌ぐ
それが顔を顰めているように見えたのか、1人の令嬢が声をかける
「ドヴォルディー様、如何なさいました?」
1人が心配そうに声をかけると、それに群がるように声が続く
「確かに今日は元気が無いようにかんじますわ」
「何かございましたら私、力になりましてよ」
「あら、私だって!」
心配する声は次第にまた元の声色に戻る
「えぇ、そうね、今日は先に退出するわ」
取り巻き女達に軽く会釈して早々に部屋を出る。
澄んだ空気が喉を通り、変に纏った匂いを拭っていく。
窓からは優しい光が差し込み、春の陽気さを感じるが花のつぼみはまだ固く、冬の跡を感じさせる。
「…セレナード様、」
自分の従者が上着を肩にかけるのを待ってから廊下を進んだ。