ナマケモノの一生懸命
この森にはたくさんの生き物がいる。
僕たち猿もその一つだ。
僕たちは木から木へ飛び移りながら移動する。
だから地上を行く生き物たちよりずっと早く移動できる。
いつものように快調に木を渡り歩いていたら、目の前をダラダラ歩く生き物に出くわした。
「よう、ナマケモノ。相変わらず動きが鈍いな。」
僕は冗談交じりで言った。
「やあ、猿君。すぐ道を空けるから・・・」
そう言ってから待つこと1分。
「どうぞ。」
ナマケモノは汗だくになっていた。
その汗を見るとさすがに怒る気にはなれなかった。
「せかしてごめんな。じゃあ、また。」
僕はそう言ってナマケモノと別れた。
ナマケモノは良い奴なんだけど、動きが鈍くて鈍感だった。
だから皆に馬鹿にされていた。
でも、あいつはいつもニコニコ笑っているだけだった。
ある日のこと・・・
ナマケモノをいじめて楽しんでいるリスたちが変な提案を持ちかけた。
「この森で誰が一番足が速いか、かけっこをしないか?」
僕はあまり興味がなかった。
「勿論、ナマケモノも参加するよな?」
僕はそのリスの言葉にピクリとした。
皆の前でナマケモノを笑いものにするのが目的だと思ったからだ。
「僕はいいけど・・・」
気のいいナマケモノはリスの提案に乗っていた。
あいつには遊びに誘われたくらいの気持ちしかなかったのだろう。
「僕もでるよ。」
僕はいても立ってもいられずに参加することにした。
当日・・・
「今回優勝したら、優勝者は好きな相手に一つだけ命令することができる事にしよう!」
リスだった。
優勝する自信があるのだろう。
ナマケモノを笑いものにする魂胆が見え見えだった。
僕は必ずリスに勝ってやると決心した。
「位置について、よーい・・・ドン!」
号令とともに一斉にスタートした。
リスは素早く先頭をとった。
僕はさっと木に登り、木から木へ飛び移った。
僕が木の上から行ってることを知らないリスは意気揚々と走っていた。
ナマケモノはというと・・・やはりダントツの最下位だった。
そして、勝ち誇ったようにゴールしたリスは、おもむろにナマケモノを馬鹿にし始めた。
皆はリスの滑稽な言い方に腹をかかえて笑っていた。
それを見ていた僕はだんだん腹が立ってきた。
「なあ、君は何でそんなにナマケモノを馬鹿にするんだい?」
リスは答えた。
「だって、僕が一番だからね。一番はどべに命令できるんだから、何を言ってもいいんだよ。」
思った通りだった。
「誰が一番だって?」
「そりゃぁ、この僕が・・・」
リスはそこまで言うと異様な空気に気がついた。
「一番は僕だよ。」
「ええ!?」
リスは自分が一番だと思い込んでいた。
しかし、実は僕が一足先にゴールしていたのだった。
しばらくするとナマケモノが見えてきた。
必死に走ってきたのだろう。
全身汗まみれだった。
ようやくゴールしたナマケモノを待っていたのはリスの激しい罵声だった。
「やっと着いたのか?もうすぐ日が暮れちゃうよ・・・まったく!」
「リス君、ごめんよ。これでも一生懸命走ってたんだけどね・・・」
「ったくのろまだな、お前は・・・」
「ははは・・・で?誰が一番だったの?」
ナマケモノは皆に聞いた。
皆が僕の顔をみた。
「猿君なんだ?すごいね。おめでとう!」
ナマケモノは素直に祝福してくれた。
僕はそれを見て決心した。
「ナマケモノ、違うよ。一番は僕じゃない。」
皆が驚きの表情を見せた。
「一番は・・・君だよ。ナマケモノ・・・」
リスが猛講義をした。
「何を言ってるんだ!?誰が見ても最下位じゃないか!」
僕はリスを無視して皆に言った。
「確かに僕は一番でゴールした。だけど、この中で一番頑張ったのは間違いなくナマケモノだよ。」
皆が一様に頷いた。
リスも・・・反論できなかった。
「だから僕は一番をナマケモノに譲るよ。皆もいいよね?」
皆は口々にナマケモノを褒め、僕の提案を受け入れてくれた。
「あ、ありがとう。猿君。」
「さ、好きな相手に命令しなよ。」
僕は、ナマケモノがリスにこれ以上いじめをしないようにと命令すると思った。
「め、命令なんてできないよ・・・お願いでも良いかな?」
僕は頷いた。
「皆さん、こんなのろまで鈍い奴だけど、これからも仲良くしてください。お願いします!」
頭を下げるナマケモノに、皆は暖かい拍手を送っていた。
そして・・・
「こら!ナマケモノがいるんだから、避けてやれよ!」
ナマケモノが移動する度に交通整理をするリスがいた。
「リス君、ありがとう。」
「当然だろ?友達なんだからさ!」
僕はこんな仲間が住むこの森が大好きだ。