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Monophony  作者: はくの
5/19

拠り所にて 1

空港へ着いて、電車へのってさらにバスへ乗って。

そんな辺境の地が僕たちが拠点としている場所。

その辺境にあるある暗がりの教会。小さい村ということで小さい教会であった。加えて長らく放置されていた建物。管理者がいないとのことで来た当初は幽霊屋敷かと錯覚したものだ。そこに住人がいたということは驚いたことだった。今の住人と僕が掃除したのでいまはなんとか住めるようにはなっているのだが・・・

「相変わらずね、兎洞」

教会へ入って奥の扉から二階へ入る。二階が住居となっていた。簡素な部屋だ。その暗がりの中のソファーに人影が見える。いつもの定位置。カーテンを背にして彼女がいる。まあ、ぼちぼちかなとから返事をして彼女に背を向ける。少し苦い顔をしていたのかもしれない。そんな僕を見てか、彼女が声をかける。

「何その顔。でも結果は良好だったみたい、そうね?」

「ああ、経過は順調だ蘇我品」

あら、乗末さん。と彼女は声をかけた。それから、そちらがお手伝いさんね、と確認しあなたもお疲れ様、と声をかけた。

「ふふ、蓑輪と読んでくださって構いませんのに。」

「私たちは契約者だよ・・・で次の場所は?」と乗末さんは話を促す。

やれやれと手を動かし蓑輪は話し始めた。次行くべき場所は・・・テイアへ行くための試練の場所は、

「二箇所には絞れているけどまだ。・・・一週間の時間があれば確実に特定できると思うわ」

今回のトネがここから一番遠くの場所だったわ、と蓑輪は説明した。

後の二つの候補地はそう遠くないし、少しは休んではどうかな、と彼女は提案した。


:::::

話しあいが終わって少し経った後。那古や乗末さんが出て行った後も僕はいつものように教会に残っていた。彼女からすれば、居座っていたと言った方が的確だっただろう。はあ、と脱力したかのように蓑輪の座っているソファーの近くの地面に座り込む。

テイア、とは幻の場所、らしい。僕たち、つまり、僕、澤奥兎洞さわおくうどう蘇我品蓑輪そがしなみのわ畦倉那古あぜくらなご、と乗末のりすえさん。その4人は、その幻の場所へ行く算段を立てているというわけだ。

僕はテイアなんて名前を知らなかった。僕の知っているテイアの知識は乗末さんと蓑輪に教えてもらったものだ。説明すると、テイアとは均衡の場所、つまり世界の裏側といった認識で間違いはないらしい。

テイアへ行くには鍵と関門を突破したという証が必要で、その関門は世界に分散してあり、普通は関門の場所を知らずに僕たちは一生を終える。その場所を認識できるのが蓑輪であった。そして、鍵の役割が僕。誰もが鍵になれるというわけではない。代替はいない。それが、どうして僕だったのかは全くわからない。・・・っと話を続けよう話をそらすわけにはいかない。僕たちふたりがいれば理論上テイアへ至ることはできた。ただ、僕たちは無力であった。戦力がないに等しいのだ。その関門の場所は、魔物がうじゃうじゃいる場所。だからその戦力として、乗末さん、あと那古がいる。教理聖堂が僕たちの支援を申し出たときには感謝の念を覚えたものだ・・・テイアへ私たちも行くという条件付きだとしても。


「やっぱりこういった話し合いは得意じゃあ無いなあ」

数拍間をおいて、

「・・・そうね。とはいっても、あなたたちは小さな頃から赤の他人と話す訓練を積むのではなくて?」

と蓑輪は答えた。

「僕はそこらがちょっと変わってましてね、事故にあってから数年間言葉を発せれなかったんですよ。だから、なんだろうな・・・」

「難しい、のね」

そうだ、難しい。

言葉、は難しい。相手がどう考えているのか、その言葉は相手を傷つけないかどうか。相手は僕のことをどう言った前提で考えているのか。どう思って欲しいのか・・・。自分のもの。でも、この言葉は自分ではないもの。

「言葉、が我々の言語手段の大きな要因で・・・いや、ジェスチャーも大きな要因ではあるんだけど・・・」

「・・・そうね」

蓑輪は素っ気なくいって、ソファーに寝転がった。

「まだ怪我は痛む?」

僕は聞いた。

「いつだって痛いわ。」

そう、早く治るといいねと返す。そう言い続けてどのぐらいの月日がすぎたのだろう?その怪我の背後関係もわからない。もしかしたら治らない怪我なのかもしれない。でも、詳細を教えてくれないのなら、そのぐらいの偏見を耐えてくれてとも思う。そりゃあ僕だって、どうなっているのかを察したいという思いはあるけれど。それは邪推では無いのか?耐えてくれ、と僕は言ったが、むしろそう、・・・勘違いさせていることがその人物にとっての目的では無いのか?相手の目的を察したところでその目的を手伝ってあげることは本当にその人物が望んでいることなのか?ただ、それは善意の押し売りでは無いのか?言語には膠着語と屈折語というものがある。主語を省略する文化もあれば主語を明確にするという文化もある。見ていればわかったでしょ?でもそれはある意味の甘えなのだなとも考えられるーーーねえわかってよ。って言っているだけに聞こえるのだ。


・・・仕事に戻りなさい、と言いたげな蓑輪を見て、僕はいそいそと職場にある自分の部屋に戻った。

:::::

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