第1章#6 呪いと魔族
「それじゃあ'穢れ'について説明するからちゃんと聞いててね」
「お願いします!」
僕は敬礼のポーズをとった。
「'穢れ'っていうのはね、魔力が枯渇した場所に出てくる呪いなんだ」
「ほうほう」
魔力に呪いーーいよいよ異世界らしくなってきたな!
「魔法を使うには魔力が必要なんだけどーー」
「ふむふむ」
「ーーボクたち、人間はね、自分の中にある魔力が少なすぎてほとんどの人は魔法を使えないんだ。でも稀に魔法を使える人がいる。それは女神様の奇跡だし、贈り物なんだ。だから魔法は慎重に扱うべきものなの」
女神様?女神様がいるなら定番の神様とお話イベントやっておきたいんだけど!
「でもあいつらは違う」
「リリア?」
突然険しい表情になるリリアに戸惑う僕。
「自分たちで自在に魔力を取り込めるからって好き放題に魔法を使ってる。あいつらのせいで魔力が枯渇して大地が次々に死んでいってるんだ。許せないよ!」
「落ち着いて、リリア」
何やら様子が変わったリリアを僕はなだめた。
「ご、ごめん」
リリアは我に返ったように恥ずかしそうにうつむいた。
「それで、あいつら、っていうのは?」
「魔族だよ」
魔族!魔族がいるのか!俄然勇者ものっぽくなってきたじゃない!
「魔族はね、ボクたち人間と違ってたくさん魔力を持ってるの。しかも大気中からも取り込むことが出来るんだって」
「それで魔法の使いすぎで魔力が枯渇して'穢れ'という呪いが発生してる、というわけか」
「うん。あれをみて。ずっと向こうに見えるあの山」
リリアは東の方を指差した。
「あの木が一本も生えてない山のこと?」
そこには荒れ果て、山肌が剥き出しになった、岩山のような山がそびえ立っていた。
「そう。あの向こうに魔族が住んでるの。酷いよね、山があんなになってまで魔法を使い続けるなんて」
なるほど。つまり、この世界における勇者の役割は'穢れ'から人々を守りながら魔族と戦う、というものなわけだ。理解した!
「それと!1番大事なのが'穢れ'には絶対触れちゃダメってこと!」
頬を膨らませてこっちを見るリリア。
「ちょっとなら炎症程度で済むけど、意識を失ったり錯乱したりすることもあるんだから。それにもし大量に浴びると…死んじゃう…」
「肝に銘じておきます」
さっき怒られた手前気まずいので
「それで…ヌシ様が化物みたいになってたのは?」
すかさず話題を変えた。
「あれはね、ヌシ様みたいな魔力に長けた生き物が'穢れ'を身に受けると、あんな見た目になってしまうみたいなの…錯乱して人間を襲うことも珍しくないんだ…」
「そっか…」
呪いは魔力に反応するってことか?
「人間はあんな風にはならない?」
「分からない…。今まで聞いたことはないけどもしかしたらーー」
リリアは心配そうに僕を見つめた。
そうか、勇者はおそらく魔力の扱いに長けた存在だ。呪いが魔力に反応するなら僕もああなってもおかしくない。だからリリアは勇者相手にこんなに心配してるんだなーー。
「ありがとう、リリア。よく分かったよ」
「そう…?それならいいんだけど…」
リリアは安心したように息をついた。
「それで、出来ればなんだけど…」
「記憶がないことは2人の秘密にして欲しいんだ…ダメかな?」
記憶がないことが広まれば色々不都合が生まれるかもしれない。
「2人の…ヒミツ…」
リリアは迷ったような表情を浮かべたがすぐに決心したように僕を見つめた。
「そうしたいのはボクもおんなじなんだけど…そうもいかないと思うな…」
「どうして?」
「だってーー」
「待って!」
何かの気配を察知してリリアに合図を送る。
「何か来る…」
その気配は段々と強くなりーーやがてガチャガチャという金属音が擦れる音に変わった。