第1章#2 勇者とボクっこ
「ギィーー」
「!!」
唐突に部屋の扉が開き、僕はびっくりしてベッドから飛び起きた。そこには同い年ぐらいの金髪ショートの女の子が立っていた。
「勇者様!」
勇者様!?勇者様って言った!?
「目が覚めたんだね!」
女の子はすごい勢いで僕に近寄ると両手をつかんだ。
「おいじいさまはもうだいじょうぶっていってたけど、ボク、心配で心配で…本当に良かった!」
ボクっこ!それにめっちゃ近い!
そして…可愛い。大きな目、金髪に良く映えるブルーの瞳、透き通るような肌…吸い込まれるように直視していることに気が付き、僕はとっさにうつむいた。
「あ、ごめんね!」
女の子がパッと手を離す。
「ボク、『お前は馴れ馴れしすぎだ』っておじいさまによく叱られるんだ。次からは気を付けます!」
「いや、別にそのままでだいじょうぶ…です…」
女子と話すのが久しぶり過ぎて変な口調になる。死にたい…って死んだんだったか。
「ふふっ」
女の子は口に手を当てて少し笑った。
「なんで勇者様が敬語なの。おかしい」
その仕草があまりにも可愛いのでつられて僕も少し笑った。
「さ!勇者様、座って座って!病み上がりなんだから」
女の子は僕の手を引いてベッドに座るように促した。正直何も考えられなくなっていた。ただ胸がドキドキして暑くてたまらなかった。あとなんか良い匂いがした。
「大変!勇者様顔が真っ赤だよ!」
女の子が心配そうに顔を近づける。
「やっぱりまだしんどい?」
落ち着け、大丈夫。今の僕はイケメン…
「いや、大丈夫だよ。ありがとう」
僕はニッコリと微笑んだ。しっかり決まったぞ!って、めちゃめちゃイケボだな!
「そ、そっか…」
女の子は少し照れた様な表情をしてから俯いた。
その表情を見て僕は思った。
イケメンすげーーー!!!
前なら「そ、そっか」(ドン引き)ってなる場面だったよ!流石勇者様だな。よし、自信もっていこう。
「あの…君の名前を聞いてもいいかな?」
僕はイケボで尋ねた。
「ボク?」
その瞬間、女の子はとても悲しそうな表情をしたように見えたが
「ボクはリリアだよ」
すぐにニッコリと答えた。
「リリア、君が助けてくれたのかい?」
彼女はさっき病み上がりといった。全身の激痛や頭痛、彼女の様子から考えて、勇者はかなり重傷だったように思える。僕になる前の勇者はやはり死んだのだろうか?
「ううん、勇者様を治療してくれたのはおじいさまなの」
「ボクは法典を持てないから…だから勇者様が倒れているのを見つけた時もその後もただ見てることしか出来なくて…力になれなくてごめんね」
リリアは力なく少しだけ微笑んだ。
そうか、彼女が勇者を見つけたのか。もしかすると勇者はその時すでに亡くなっていて…だとしたら、彼女が見つけていなかったら僕はどうなっていたのだろう?
「そうか。おじいさんに感謝しないといけないな」
「でもリリア。君のおかげだ、君が見つけてくれたおかげで僕は生きている。ありがとう」
僕は彼女を真っ直ぐ見て微笑んだ。
「勇者様…」
リリアの目には涙が浮かんでいるように見えた。
「元気になって本当に良かった…」
はっきり言おう。僕はかつてなく胸が高鳴っていた。リリアが可愛かったからではない。いやもちろんそれもあるけど!
誰かに認められ慕われているこの感覚を僕はずっと求めていたのだ。ただそこに存在するだけじゃない。自分には価値があると感じられる瞬間をずっと欲していたのだ。
僕は1度死んだ。だけどもし僕の願いが叶えられてーー勇者として生まれ変わったのだとしたら、今度こそやり直すんだーー僕が望んだ人生を!