第五話「チーム灯里、出撃!」
秋葉原。
月性災害が活性化した十年前、強度Sの大型リュカオーンが暴れ回り、街の大半が破壊された。
今では復興されかつての賑わいを取り戻しているが、一部区画が復興計画から意図的に除外され、2キロ四方に渡り荒廃した街が広がっている。
そこは通称「決戦場」と呼ばれる場所。
強度A以上のリュカオーンが発生した場合、周囲の損害を避ける為に目標をここへ誘導。アルテミスの大魔法により殲滅することを目的としたフィールドだ。
決戦場は、かつてアルテミスによる組織的なリュカオーン対応が構築される前に被害にあった場所を再利用している為、人口の多い都市部では比較的多く設定されている。
民間人は立入禁止で、巡回中の警察官に見つかった場合は厳罰が課せられていた。
その「決戦場」の一角。崩れかけたビルの影に、夏の日差しを避けて詠美は立っていた。
「お待たせしました」
声をかけてきたのは、禿げ上がった頭から噴き出す汗をハンカチでぬぐっている、スーツ姿の四十代男性。
「宮島さん、ここでの待ち合わせ止めない? 暑くて敵わないわ」
「公安に悟られるわけにいかないんです。我慢して下さい」
警察庁警備局月性災害対策課課長、宮島健一。
彼の立場をもってすれば、警察官がこの「秋葉原決戦場」を巡回するルート・タイムスケジュールを把握することは造作もないことだった。密会場所としては最適ということだ。
「しかし、確かに今日は暑いですね。手短に済ませましょう」
宮島は鞄から、掌に乗るサイズの黒い立方体を取り出した。
模様も何も入っていない、漆黒のブロック体だ。
「……ずいぶんコンパクトになったわね」
「これでも、起動前から毎時六千チャンドラを超えています。彼女がコレを手にしたらと思うと、恐ろしいですよ」
宮島は別で持ってきた紙箱に立方体をしまうと、さらに有名な和菓子店の名前が入った紙袋に入れて、詠美に手渡した。
「では、計画通りにお願いします」
「……ねえ、宮島さん」
くるりと背を向けて去ろうとした宮島の背中に、詠美ママは声をかける。
「なんで貴方が持って来たの?」
「はい? こんなもの、迂闊な人間に持たせる訳にいかないでしょう。コレに触れる人間は少ない方がいい」
「そうじゃなくて。なんで藤堂の馬鹿たれが自分で来ないのかって聞いてんのよ」
蝉の鳴き声が響く。
都会の喧騒は、決戦場の中にいる限りは遠い。
詠美の厳しい視線を誤魔化せるものは何もなく、宮島は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「……局長が直接動く方が、目立って仕方ありません。私だってギリギリなんです」
「アンタたち、何を焦っているの?」
宮島はしきりに、頭の汗を拭く。
暑いからだけではない。目の前の中年女性の恐ろしさを知ればこそだ。
「……焦るも何も、当初の計画通りです」
「嘘おっしゃい。あの子らが灯里に来てからまだ一ヶ月。今夜が初めての新月。なのに、こんな危ない橋を渡ってまで、事を急ぐ理由はなに?」
まっすぐに宮島を睨みつける詠美。
宮島は、その場逃れの言葉で誤魔化すことはできないと悟ると、諦めてため息をついた。
「状況が変わりました。国防法第百五十六条の改定が、明日の臨時国会で強行採決される見通しです」
「月性変異体情報の管理権限拡大……民間登録されているアルテミスのデータが、警察庁だけでなく国防省にも把握されるわけね」
「今まではウチが管理する三千人のA'sだけで済んでいたのですが。そちらに逃がしていたのがバレていたんです。与党は法の執行も前倒してくるでしょう」
詠美ママは忌々しげに、爪を噛む。
「藤堂の無能が。何をやっているのかしら」
「局長は頑張っていらっしゃいますが、防衛相からの圧力が尋常ではないんです」
それに、と宮島は汗を拭きながら付け加える。
「先日の一件で、防衛相と繋がりが深い伊倉政務官に借りを作ってしまったのも痛かったようです」
「あら? それじゃあ、あの子たちの自業自得ってことなのかしら」
詠美は、手に下げた紙袋に視線を落とした。
「いいえ……それにしては、代償が大きすぎるわね」
今度は決戦場の外郭へと視線を移す。
メイド喫茶・灯里は秋葉原決戦場の側辺に位置している。
ちょうど詠美の視線の先に、店があるはずだ。
「どちらにしても、やることは変わらないか。後はあの子達次第ってことね」
詠美は今後二人が迎えるであろう過酷な運命に思いをやり、深くため息をついた。
***
「この店、会員制だったのね」
「当たり前じゃん。客は一見お断りの上、守秘義務の誓約書にサインしてんの。でなきゃ、アルテミスがメイドをやる店なんて、一瞬でマスコミの餌食だっつーの」
那由多と祥が、店の更衣室でメイド服に着替えながら、会話している。
あと数分で開店時間だ。
「……サッチーってさ」
「んだよ」
「意外と頭いいよね」
「ああ?」
「リア充な見た目なのに」
「なんでリア充イコール、バカなんだよ」
「なんとなく。さすが大学生」
「バカにしてんの? ……ああ、ちげーよナユタ。今日着るのはそっちじゃねえって」
祥は那由多のロッカーに手を突っ込み、いつもと違うデザインのユニフォームを取り出した。
メイド服には違いないのだが、所々に銀の刺繍が施されている。
「あれ? こっちは着るなって詠美ママが」
「バッカお前。今日は新月じゃん? 営業時間中に夜になんだから、こっち着んの」
「え? もしかしてこの服、アルテミス兵装?」
新月の夜、アルテミスが魔力を全開で発揮した場合、通常の服では耐えきれず燃えてしまうことがある。
その為、A’sの制服と同様に民間でも、魔力に耐えられる特別な服を用意しているのだ。だが。
「ねえ。この服、いつもに増して露出が多すぎない?」
「ウチらに耐えられる耐魔銀糸、すっげえ高額いんだとさ。経済的な問題だってよ」
「そんな理由!?」
装備に不自由しない国家機関で働いていた那由多は、いつものメイド服よりも胸元が大きく開き、お腹は丸出しで、いつもより更に短くなったミニスカートの衣装を広げながら呆れた。
「ん? ……なにこれ? カフスとスカートの裾が、紐で繋がってる!?」
確かに、手首に付けるカフスとただでさえ短いスカートの裾が、決して長くは無い紐で結ばれていた。腕を伸ばすことに支障はない長さだが、これでは大きく腕を振り回した際には絶妙にスカートが捲れてしまうだろう。
「ああ。それ、魔力を∞(無限大)の形で循環させて強化する、特別な魔力兵装だって」
「なにそれ聞いたことないよ!?」
「まだ実験段階で、効果も極小みたい。まあ趣味的なもんなんじゃね。誰の趣味かは知らん方がいいと思う」
「……仕方、ないね」
口をぎゅっと真一文字に結び、素直に着替え始める。
「へえ。『こんな服で男の前に出たくない!』とかまた騒ぐと思ったけど」
祥は意外そうに呟くと、ニヤリと笑う。
そこに、摩佑と魅衣子が更衣室へ入ってきた。
「おはよう。お、ナユ吉ちゃんと着てるね。えらいえらい」。
「おっはよーん。……ナユタちん、似合うじゃん」
那由多の大きな胸が強調されたアルテミス用メイド服を見て、二人は感嘆する。
「仕方ないでしょう。リュカオーン殲滅の為なんだから」
キリッとして那由多が答えると、三人のアルテミスはニッと笑った。
***
互いに最悪の印象でスタートした、那由多と牧のチーム参入から1ヶ月弱。
意外な事に、メンバーとの確執はそれほど大きなものにはならなかった。
理由には、数度のメイド喫茶勤務を経て、那由多の勤務態度が変わったことがあった。
「那由多ちゃん。私たちがどうして、メイド喫茶の仕事をしているか分かる?」
「さあ。生活の為? でも民間のアルテミスチームにも補助金が出てるんですよね?」
きっかけは、バーテンを勤める迦具夜との会話。
「そうね。リュカオーン対応の成績に応じて、国からお金は貰えてる。それが十分じゃないっていうのもあるけど……男の人を知るためよ」
「はい?」
仕事の合間に、迦具夜にふいに語られたこと。
「リュカオーンは、新月の夜に男性だけが変化する怪物。その能力や形態、強度は元になった男性の深層心理や精神状態に影響されるわ」
「そんなこと知ってる。だからなんだって言うの? 全部ぶっ飛ばせば、それで終わり」
「……それでよく、A'sで戦えてたね。牧くんの苦労が分かる気がする」
「あなたが牧を語らないでください。何を知ってるっていうんですか?」
那由多の言葉に、迦具夜は薄く笑う。
「そうね。牧くんがどれだけ、貴女を過保護にしてきたかが分かる気がするわ」
「何をそれっぽいことを……」
「チーム灯里の戦術管理官は、私よ。那由多ちゃんのこと、彼みたいに甘やかさないから」
「どういう意味ですか」
「リュカオーンに素体となる男性の精神が影響する以上、アルテミスがその傾向を知ることは重要だわ。牧くんは、戦闘の度に素体の個人情報を検索して、指示を出していたんじゃない?」
「……」
その指示を度々無視してきた那由多には、返す言葉がない。
「アルテミス自身にその判断ができるようになれば、戦闘における効率は上がる。ウチのメイド喫茶にはいろんな男性が来るわ。接客しながら観察することは、貴女にとって必ずプラスになる」
そして、最後にこう付け加えられた。
「A'sに戻った時、牧くんに褒められることになるわね」
後に牧に「単純バカ」と罵られる那由多だが、この日から勤務態度は劇的に変わることになる。
そして所属する三人のアルテミスも、懸命に仕事をする那由多に対し、長く悪感情を抱くことはなかった。
***
「にしたって……ここまで変わるものかな?」
摩佑は感嘆とも呆れともとれる嘆息をついた。
十七時の開店と同時に、メイド喫茶・灯里の常連客達がなだれ込んでくると。
「ご主人様ーっ、ようこそおいで下さいましたっ! 今日も張り切って、ご奉仕しちゃうにゃん!」
鍛え上げられた那由多の運動神経による猫耳ポーズは、キレッキレでブレがない。
引きつっていた笑顔も今では完璧だ。
「ナユタちゃん、こんにちは!」
「ナユちゃん! 今日は新月だね、頑張って!」
「今日も会えて嬉しいよ、ナユちゃん」
口ぐちに声をかける常連客達。
この一ヶ月弱で那由多は祥を超え、魅衣子には届かないものの摩佑に迫るファンを獲得していた。
「意外だ……あの自己中バカに接客業ができるなんて……」
摩佑に同調するように、カウンターの中で牧は呟いた。
「あの子は目的意識さえあれば、ちゃんとできる子よ。牧君は幼馴染だったんでしょ? 観察が甘いわね」
メイドたちと異なるシックなバーテンダーの恰好で、迦具夜が牧の呟きに応えた。
牧はビクッと肩を震わせる。
「ははっ。まだ迦具夜にビビッてるのか? マッキーは」
摩佑が笑うが、牧の表情は引きつったままだ。
「からかわないで、マユマユ。牧くんなりに頑張ってるんだから」
迦具夜は印象的な長い髪を後ろで一つに束ね、控えめな装いでいる。
それでも人間を超越している美貌の彼女だが、なぜか客たちが迦具夜に注目する事態にはなっていない。
なんらかの認識阻害魔法が働いていることは明らかだったが、牧のグラスカウンターをもってしても、詳細を明らかにすることはできなかった。
「……お前のような化け物と慣れ合うことは、一生ない。俺がここにいるのは、那由多の為だ」
「なあマッキー。迦具夜が許してるから何も言わないけど、その態度もなんとかならないのか?」
摩佑は眉を顰める。迦具夜はいいからいいから、と笑った。
那由多と対象的に、牧の態度は変わることはなかった。
初対面の時のように逃げまどい、腰を抜かすようなことはさすがにないが、それでも迦具夜の前では緊張し、全身は強張り、いわば臨戦態勢のような状態でいた。
「迦具っちー! 3番さんと5番さん、カシスグレープとピーチソーダ。あとマッキー、ミイちゃん手作りクッキー4つね。それとマユマユ、山田さんがご指名だよん」
「オーケー」
「了解」
「わかった、今いく」
オーダーが入り、迦具夜と牧は動き出す。
摩佑はカウンターを離れ、客の元へと足を運んだ。
祥はいつものように「横に座って僕を無視して」という奇特な客の横でコーヒーを飲んでいる。
魅衣子はあちこちのテーブルから呼ばれ忙しく動き回り、那由多もオーダーを取る度にチャーミングなポーズを決めて拍手を浴びている。
新月を迎える夕刻。
メイド喫茶・灯里の営業は、いつも通りにスタートした。
***
『市民の皆様。ただいまの月齢は29・8、新月です。既に月子線量は十四万チャンドラを超えました。各地で月性災害が起こっています。くれぐれも周囲から……』
音楽を流していた店内放送が一時中断され、恒例のアナウンスが流れる。
時刻は二十三時を回っていた。
警戒放送は定期的に流されているが、今の所、チーム灯里に出動要請はない。
公的機関のA'sだけで対応が間に合っているのだろう。
民間チームへの出動は、国内の月性災害情報を一元管理する警察から必要に応じて要請されるのだ。
「……わたし、知らなかったんですよ。ご主人様たちがわたし達がアルテミスだって知ってるって」
「公然の秘密だね。ナユちゃんがあの〈シルバー・デストロイ〉だって知ったときは嬉しかったなあ。一度会いたいって思ってたからね」
熱心なファンとなってくれた常連客の一人と、那由多が会話をしている。
「そのコード、嫌いなんですよね。デストロイなんて乙女に似合わないと思いません?」
「ギャップ萌えだよ! ナユちゃんみたいな可憐な子が破壊神なんて、僕は好みだなあ」
「……可憐なんて、初めて言われた。斉藤さん、わたし嬉しい!」
那由多の反応は、なまじ演技でもない。
これまで牧以外の男性を碌に知らず、男はリュカオーンに変身する対象でしかなかった彼女にとって、好意を持ってくれる異性の存在は新鮮だった。
「あ、そうだこれ。プレゼント」
斉藤さん、と呼ばれた客はカバンから小さなアクセサリーを取り出す。
それは小石に留め具がつけられただけのキーホルダーだった。
「なんですか? これ」
「ごめんね。可愛くないけど、少しでもナユちゃんの助けになればって。月の石だよ」
デザイン的に微妙なそれを手に取った那由多に、斉藤は説明する。
「露天で買ったから偽物かもしれないし、本物だったとしても月子線量なんて無いに等しいだろうけど。アルテミスは月の力で魔法を使うんでしょう? 気持ちの問題だけど、少しでも戦うナユちゃんの力になればなって」
「ありがとうございます……。やばい、牧以外の人からプレゼント貰ったのなんて、初めて。嬉しい」
「マキ? 彼氏さんの名前?」
斉藤の問いかけに、さすがにしまったと思った那由多は返答に詰まる。
「あはは、大丈夫だよ。彼氏さんの為にも頑張ってね。……まあ、このまま出動ない方がいいけどね」
優しい男性客の言葉に、那由多は静かに感動していた。
もらったキーホルダーを、腰のエプロンに括りつける。
「斉藤さん……。でも、どうして新月の日にもお店に来て下さるんですか? 出動がかかったら、そこで閉店しちゃうんですよ?」
「ああ、それはね」
斉藤が答えようとしたとき。
店のカウンターに置かれた端末がアラームを鳴らし、警告灯が点灯した。
「!!」
「来たっ……!」
店内に緊張が走る。
男性客たちは、何故か期待に満ちた表情で瞳を輝かせた。
迦具夜が、端末を操作する。
「……リープカウンター数値増大。観測位置特定、JR秋葉原駅北口付近。予測強度C」
リープカウンターとは、月子線により男性がリュカオーン化する際に生じる特徴的な電磁波の乱れを検知する機器だ。
迦具夜はモニターを見ながら報告を続ける。
「出動要請、入電! 都内のA'sは高ランクのリュカオーン対応中につき、近隣のアルテミスチームは現場に急行されたし!」
〈キタァァァァァ!〉
「えっ? なに?」
客たちの叫びに、「何故喜ぶ?」と那由多は困惑する。
魅衣子が店のステージに飛び乗った。
「みんなっ! ごめんね、今夜の営業はここまで!」
〈うおおおお!〉
「今夜のお代は後日の精算で! みんな、気をつけてお家に帰ってね」
〈頑張れーっ!! チーム・灯里!〉
客たちの歓声に、魅衣子は手を振る。摩佑は敬礼のように掌を額に当て、祥はめんどくさそうに立ち上がった。
「じゃあ……準備はいい? みんな!」
ミニステージの背後の壁が、ガコン! と音を立てて開き始めた。
メイド喫茶・灯里は、決戦場に面したビルの四階にある。
壁の向こうには、広い夜空が広がっていた。
「な、なん……!」
呆気に取られる那由多と牧を無視して、音楽が掛かり始める。
魅衣子の周りに、魔力で形成されたコンソールが幾重にも浮かび上がっていた。
今夜は新月。普段と桁が違う密度の魔力は、一般人にも知覚される。
「ミイちゃん、行っきまーす!」
魅衣子が開き切ったステージから、夜空へと飛び出した。
「ご主人様方、お気をつけてお帰りを。ハァッ!」
「ウゼえけど、行ってくるわ。あとよろしくっ!」
摩佑と祥が後を追って、飛び出して行く。
客たちの視線は、残された那由多に注がれた。
「え? え? 出動って、こんな感じで行くの?」
「ナユちゃん」
さっきまで相手していた斉藤が、動揺している那由多に声をかける。
「は、はいっ」
「頑張ってね。怪我しないで」
「斉藤さん……。はい! 任せて下さい!」
那由多はステージに飛び乗ると、客たちを振り返る。
「ご主人様たちの世界、必ず守るニャン!」
〈うおおおおおお!!〉
男達の熱狂を背に、那由多も夜の街へと飛び出していった。
「よし、俺達も行くぞ!」
「どこって言ってた?」
「駅の北口だってよ」
「警察の規制が……」
「バッカお前素人か! 強度Cくらいで、規制なんかねえよ!」
客たちもそれぞれ叫びながら、店の出口から外へと駆け出して行く。
「なんだ、これ……」
「ほら、牧くん。管理官が遅れてどうするの?」
状況についていけず立ち尽くす牧の手を、迦具夜が掴んだ。
「……っ!」
息を飲む牧。迦具夜はそんな牧を見つめて、ふわりと笑う。
「行くよ、マキナ」
「……クイーン?」
迦具夜は、ステージを通って開いた壁から牧の手を握ったまま、夜空へ身を躍らせた。
「……あれが、例の連中か」
最後に飛び出して行った二人を見届けた、店に残った一人の男性客が呟いた。
斉藤は、那由多に渡したキーホルダーと同じものを取り出し、握りしめる。そして、アルテミス達を追っていった他の男性客たちと同じように店を出て行った。