いざ店内
不審者を見る目が厳しい。
いつまでも店頭で悩んでいても街行く人の目が突き刺さる。いやそれよりも頭上の天使のにやけ面が一番腹立たしい、こいつ絶対に楽しんでやがる。
それでも天使か! と言いたい、問い詰めたい! がそうも言ってられない。店員さんがおもてに現れた。ほうきとちりとりを持って。
俺の立ち位置を確認しながら店頭の掃除を始める。そして俺の足を確実に店内へと向かわせる。
こいつできる! これは掃除のようで掃除ではない。そう、入店しにくいお客様に対する無言のご挨拶。
「そこに立たれるとほかのお客様に邪魔なんで早くしてくれませんかね」無言バージョンである。
そうして店内に入るとそこはまさに魔境だった。禍々しいオーラを放つ書籍の山だった。店内の客は皆だらしなく顔を緩めているものばかり。もじもじしながら立ち読みしているものまで。
落ち着くわー。やっぱこの感じだな。ちょっと違う点といえば神と悪魔がそういう目で見られる対象に入ってるということか。
たとえば目の前の等身大ポップ。美しい半裸の見返り美人には羽が生えていたりする。恐ろしくもカッコいいイケメン悪魔二人が抱き合ってたり、「降臨!ドエムの女神様☆」なんてキャッチコピーがあったり、はたまた実用書コーナーには「本年度版 死後のいきかた」「健康のためなら死んでもいい」「明日からはじめる転生マニュアル」など価値観の違いを思い知らせてくれるものがあったりする。こんな店に置いてある実用書は意外と店員の選択眼が面白い。
「もういい加減帰らないのか?」
天使は飽きたみたいだ。立ち読み(ウンコ座り)はほんとに時間がいくらあっても足りない。そんなのに付き合うほうが馬鹿である。無視だ、無視。まだまだこの書棚の一割ほどしか手をつけていないのだから。チラ見すると天使は陵辱系エロ漫画を読んでいた。
「あのーお客様、そろそろよろしいでしょうか?」
後ろから声をかけられ振り向いたらハゲのオッサンだった。周りにはもう誰もいなかった。どうやら閉店時間らしい。
「あーすまんすまん。もう出るよ」
「いえいえ、ではそちらはお買い上げでよろしいですね」
「は?」
「そちらのお連れ様が開封されてしまっている商品ですが」
引きつったオッサンの指差す先を見ると、よだれをたらしながら熟睡する天使の姿があった。それも抱き枕にしがみついて、いや、ぐるぐる巻きになっている?
「そちらは限定商品のラミーア抱き枕でして……お値段はこちらです」
と、放り出されたパッケージを取り上げ、値札を指して言った。
「払っていただけるんですよね?」
俺は短距離中距離長距離競走全種目世界新を狙うべく全力で走り出した。