第8話 限界暴走
前書きとかって何を書いていればいいんですかね……、作品の内容説明もいいですし日常的な一文もアリ。そうなるとあれもこれも――……
と、いつもこんな感じで前書きと後書きとかを考えている鎌里 影鈴でした。
昼食を済ませた二人は、レストランを出た後に再び歩きだす。
「次、どこ行こっか?」
隣を歩く琴愛が、悠斗に聞いてくる。
「うーん……」
悠斗はそれに、賛否のないような唸りを出した。
別段迷っているというわけではない。単純に、予定が決められていないだけだ。
実を言えば、午後に何をするかは指定されておらず、ただ「自由にやってください」とだけ百合奈に言われた……ような気がする。
一人で考えても仕方ないので、悠斗は琴愛の要望を聞くことにした。
「琴愛は何か、行きたいとことかないか? おすすめの場所とか」
「おすすめの場所……幾つかあるけど、いい?」
「おう、いいぜ。案内してくれ」
「うんっ」
琴愛は元気よく頷くと、早足で悠斗の前を歩いた。
一瞬、男としてのプライドのような何かが崩れそうな気がしたが、その思考を振り払って、悠斗は後ろに付いていく。
人の波を掻き分け、逆方向から来る人だかりを避けながら道を進む。
どれくらい経っただろうか。前にいた琴愛が足を止め、悠斗も当然同じように足を止める。
「ここだよ!」
琴愛は言って、目の前の店を指差した。
それに釣られて顔を向けると、明るい色をした看板が目に入る。
次に見えたのは、壁に付けられたキラキラした装飾。そのあまり見慣れない外装に、悠斗は少し尻込みした。
「ここは……?」
「それは入ってからのお楽しみ。さ、行こ行こ」
言うが早いか、琴愛は悠斗の片腕を掴んでさっさと店の中へと入ってしまう。
「ちょ、ちょっと……」
答える時間もないまま、悠斗は見知らぬ場所に足を踏み入れる。
瞬間、日光と違う照明の光が目に入り、驚きで瞼を閉じた。
その直後、瞼の裏で目を光に慣らしてから、悠斗は店の内装を見やり、数秒の間を置いてその店が何なのか気づく。
「もしかして、アクセサリーショップ……?」
「そうだよ。――あ、ねぇ見て悠斗君、これとか可愛くない?」
入り口のすぐにあったネックレスを手に取って、琴愛は悠斗に見せる。
ピンクの宝石が入った、銀色のネックレス。その輝きは眩ゆく、見ただけで高価そうな雰囲気が伝わった。
――だが、悠斗が感じたのは、それだけだ。
「……ごめん。俺には可愛いってのが、よくわからない」
同意が持てなかったことに、申し訳なさそうにする悠斗。
また、琴愛を悲しませてしまう……。その考えが脳裏によぎる。
しかし、琴愛は悲哀に顔を歪めることなく、目を少し丸くして言った。
「そうなの? じゃあ、もっとたくさんのやつを見て、可愛いを理解しようよ!」
琴愛は励ましの言葉を繋げて、にっこりと笑う。
その予想していなかった反応に、悠斗はしばし呆気にとられ、そしてすぐに笑みを返した。
「そうだな。よろしく頼むよ、琴愛先生」
「うん、任せなさいっ!」
琴愛が胸をどんと張って、二人は揃って一笑。その後店内を練り歩き、色んな装具を見て回った。
物に可愛いという感情を持った覚えがなかった悠斗は、熱心に物の可愛さを理解しようと努力をする。
琴愛が手に取って見せたものを、悠斗が真剣に注視をそそぐ。
そんな傍からみたら不明朗そうな行動を続けて、数十分後。
「うぅ……」
悠斗は額を押さえて、考えすぎで痛みだした頭を休ませた。
根気はまだまだあるが、脳の体力はどうやら消耗が激しい。
理解できないものを無理にわからせようとすると、どうしてこうなるのだろうか。悩むだけでも痛い。
軽く息を整え、一度だけ考えることを止める。不思議なことに、そうすると気分が幾分か楽になった。
だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。今の悠斗はあくまで訓練中。天使の保護を少しでも成功に近付けるためのデートだ。そのことを踏まえて、悠斗は真剣に取り組まなければならない。
悠斗は押さえていた手を降ろし、琴愛の方に向き直る。
と、そこで悠斗は初めて、琴愛の様子に気付く。
「…………」
琴愛が無言で、何かをじっと見つめている。
気になったのでそっと後ろから覗いてみると、そこには二つで一組の髪留めが置かれていた。
真珠のように丸い白の玉と薄い緑の玉。それが一つの髪留めに付いていて、もう一つの方も同じようなデザインとなっている。
その髪留めを、琴愛は静かに見つめていた。
「これ、ほしいのか?」
「ひゃうっ!?」
物欲しそうな様子だったので声を掛けてみると、琴愛はビクッと肩を揺らし、反動のためか手首に通してあったポシェットを床に落としてしまった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
突然の反応に驚いてしまったが、悠斗は腰を下ろしてポシェットを取ってあげる。
その時、悠斗は持ったポシェットが予想していたより重みがあったことに違和感を覚える。何か固いものが入っているようだった。
「あ、ごめんね! 意外と重いよね、それ」
「うん、平気だけど……何が入ってるの?」
何やら慌てた様子でポシェットを執る琴愛を見て、悠斗は尋ねる。
「えっと…………あ! 私、悠斗君におすすめしたい場所があったんだ。そこに行こう!」
しばらく目を泳がせて数秒。琴愛は唐突に話題を変えると、質問に答えないで逃げるように店の外へと小走りで行ってしまった。
「あ、おい待てよ……!」
悠斗は言って、琴愛より数拍遅れて店の外に出る。
――悲鳴のような声が聞こえたのは、その直後だった。
「……!」
それに連動するかのように、周囲にざわめきが広がる。
悠斗は悲鳴が聞こえた方向に顔を向けると、反射的に走りだした。
逃げ惑う集団をすり抜けて進むと、そう遠くないところで、騒ぎの起点であろう場所が見えた。
先の道路の中間。そこの一点だけに、鈍音を響かせる衝撃波のような波紋が辺りを震わせている。
その波紋から少し離れたところ、または悠斗の前に、琴愛が立っていた。
「悠斗君……」
琴愛がこちらに気付き、警戒した表情で悠斗の名前を口にする。悠斗は近付いて、目の前の異常な光景に目を開かせた。
「何なんだよ、これ」
「これは……能力者の限界暴走化。自分の内にある能力が急激に溢れて、制御ができなくなる状態だよ」
琴愛は言ってから、波紋の先を指し示す。そこに注視すると、波紋の中心に、頭を抱えている一人の男性が見える。
話からするに、あの男性が能力者で、能力を暴発させる――限界暴走を起こしたんだ。
「う――ああぁああああぁぁッ!」
男性が、呻くような声を漏らしたその後、叫びを上げる。
波紋の衝撃が強くなり、道路に亀裂を走らせた。
「くっ……どうすれば……」
体験したことのない局面に、悠斗は眉をひそめる。
その時、悠斗の肩に誰かの手が置かれた。琴愛だ。
「安心して。私たちは〈AMP〉の攻撃艦員――能力者を保護することを目的とした、組織の一員なんだよ?」
琴愛は励ますように笑みを作って言うと、ポシェットから小型の機械をさし出す。
「これは……」
悠斗は自然と声を出して、それを手に取る。
黒いカラーに、腕に巻き付けるようなベルトが付けられた機械。
間違いない。これは、転身用装置だ。
「それ、以前悠斗君を助けたときに一緒に拾ったんだよ。メンテナンスが終わったから、私がもらってきたんだ」
「そうなのか……ありがとな」
「いいよいいよ、困ったときはお互い様。今から能力者の限界暴走を鎮静化するから、悠斗君はそれで変身して」
「わかった」
悠斗は力強く頷くと、転身用装置を右腕に装着。引き続き琴愛から渡された赤いエナジー――『ガルーダエナジー』を装置に差し込む。
『ナンバー十四・ガルーダ――起動』
炎の如く赤い光輪に包まれ、悠斗は鷲のような外見をした鎧を身に纏う。
「よし、私もやろうっと!」
琴愛は元気よく言って、ポシェットからもう一つの転身用装置と、青いエナジーを取り出した。
左腕に装着して、そのままエナジーを装填。悠斗のと同じく機械的な音声が流れる。
『ナンバー〇六・ハーピー――起動』
青い光が生まれ、琴愛に収束したその後、青い線が体に沿うように描かれた、薄い膜のような装備が顕現した。
「それじゃ……私の力、見せてあげる」
マスクの内側で言葉を放った琴愛は、両手を広げたかと思うと、自らの腕にエネルギーを送り、人工的な鳥の翼を形作る。
「ふんっ!」
その腕を後方に上げ、勢いよく前に伸ばすと、濃密な風が吹きだした。
風は波紋に直撃し、衝撃波の音よりも強い音を響かせると、広がって道路を侵食せんとする波紋を停止させた。
「私が抑えてるから、悠斗君は能力者の動きを止めて!」
「わかった……!」
琴愛の言葉に答えると、悠斗は波紋の中に躊躇なく飛び込んだ。
無論、後先考えずに飛び込んだ訳ではない。ちゃんと予想を立ててから取った行動だ。
その予想通り、空気を震わせる衝撃が悠斗に襲いかかる。
「っ……!」
悠斗は腰を屈めて体勢を低くし、衝撃に耐えた。
装甲を纏っているため、身体に伝わる傷害はそれほどでもない。
次々に向かってくる衝撃の大波。しかしそれは、琴愛の繰り出す追い風によって威力が激減していた。
これなら……いけるッ!
悠斗は地面を足裏で叩いて跳躍し、一気に背後へと距離を詰める。
そして直後、男性の肩を掴んで拘束した。
「よし、やったぞ……!」
「悠斗君、そのままじっとしてて!」
と、琴愛が叫ぶと同時にハンド型の白い銃を取り出す。
腕を前に伸ばし、銃口を男性の方に向ける。
瞬間、何の逡巡もなく引き金をひき、発砲。
光る弾丸が、吸い込まれるかのように暴れる男性の胸部に当たった。
「ぐ、あぁあああぁぁあッ!」
男性は身を捩り、苦しむような声を出す。
一瞬、男性が撃たれたことで苦悶していると思ったが――違う。後ろから見たが、光る弾丸は男性の体を抉らずに、まるで人魂のように溶けて入った。
「っ、ぅぅ…………」
男性の声がだんだん小さくなり、力が緩まる。
すると波紋は次第に弱まっていき、風もないのに霧散し始めた。
やがて音が止むと同時に、波紋は跡形も残らず消え去った。
「鎮静化、成功……」
琴愛が静かに呟き、装置を外して装備を解除する。
「……」
悠斗は何が起こったのかがいまいち理解できず、マスク越しで呆けた表情を浮かべた。
が、その直後に男性が突如、ふらっと体勢を崩してしまう。
慌てて悠斗が男性に肩を貸す。どうやら、気を失っているらしい。
琴愛がこちらの方へ、ぱたぱたと近付いてくる。
「悠斗君、その人の容態は……」
「うん、気絶しているだけみたいだ」
尋ねられ悠斗は答えると、琴愛は「そっか」と言って、ほっと胸を撫で下ろした。
『――聞こえるか、二人とも』
と。転身用装置からノイズのような音がすると、通信機から諒の声が聞こえてきた。
「あ、逆井。暴走した能力者を抑えたんだけど……」
『そちらの様子は確認した。今から能力者ごと転送するから、待機していて』
悠斗がそれに了承すると、通信が切れる。しばらくして、地に浮くような浮遊感が全身に掛かる。
この包まれるような感覚は、転送されるときの前触れだ。
悠斗たちの周囲に白い光が覆い、一瞬だけ視界が完全に埋め尽くされたかと思うと、瞑った目を開けた時にはすでに転送室の中にいた。
「悠斗君。悪いけどその人を運んでくれないかな?」
「よし、わかった」
琴愛の言葉に頷いた悠斗は、男性を担いで琴愛の後に付いていく。
転送機に隣接された階段を降り、部屋を出る。通路を渡っていくと、やがて琴愛がとある部屋に入り、悠斗もその部屋に入った。
白い壁と天井。悠斗が見たなかでも比較的に明るく、清潔そうな部屋だ。
先を進むと、何かの機械が目に映る。
人がちょうど一人分入れそうな、カプセル型の機械。それがベッドのように陳列され、部屋のほとんどを占領している。
見慣れぬものに対する興味本位で、悠斗は尋ねた。
「なぁ琴愛……これは何なんだ?」
「これは、魔力静粛カプセル――能力者の魔力を制御させる装置だよ。限界暴走した能力者を保護したら、まずはここで能力を安定させるんだ」
琴愛は軽く説明を済ませ、一台のカプセルに近付くと、横にあるボタンを押す。
すると、カプセルの蓋がゆっくりと開かれた。
「この中に能力者を入れて」
「おう」
短く発すると、悠斗は慎重に男性をカプセルの中へと入れる。
男性を入れた直後、蓋が小さな音を立てて閉じた。
「これで、いいのか……?」
「うん。初めてにしては上出来だと思うよ」
琴愛に言われて、悠斗はほっと息をつく。
『本当、素晴らしい成果です。まるで初めてではないかのよう』
と。
悠斗でも琴愛でもない声が耳に響いたかと思うと、空のカプセルから、百合奈がひょっこり現れた。
「うわっ……! 百合奈、どうやって来たんだよ」
『〈アラハバキ〉に内蔵されたシステムネットワークを利用しました。これさえあれば、私は艦内を自在に行き来できます』
流暢に言葉を紡ぐ百合奈を見て、悠斗は感嘆したい気持ちになる。人工知能って凄いんだな、と。
だがそれを口にする前に、百合奈が主張するように話を続けた。
『悠斗に教えておきましょう。限界暴走した能力者は、一時的に能力を抑えてから保護を行い、その後能力を鎮静化、または封印を施してから、元の場所に送り届ける流れになっています』
「鎮静化と封印って、どう違うんだ……?」
『鎮静化は溢れた魔力を技巧的に削除すること。封印は、魔力が溢れぬよう能力を強制することです』
「ふぅん……で、どう違うんだ?」
疑問を浮かべる悠斗に、百合奈は溜め息をついた。
『はぁ……人間なら、もう少し知識を身につけてください。会話が低迷します』
「そ、そんなに言うことないだろ……」
『嫌なら一から勉強するか、せめて人生をやり直してください。小二あたりから』
「なんかひどくないかっ!?」
毒々しい発言に、悠斗は声を上げる。
百合奈はそれを見て、くすくすと可笑しそうに笑った。
『冗談です。鎮静化は能力者の心と体を落ち着かせること、封印は能力を永久的に使えなくすること。これでわかりますか?』
「……ああ、理解したよ」
内心で苛立つも、半眼で睨みながら悠斗は頷く。
『――さて、突然の事態の対応で疲労が溜まっていることでしょう。訓練は中断して、今日は艦内でゆっくり休んでいてください』
「え……っ! あ、はい……」
その時、琴愛が驚きに似た声を漏らしたが、意図を理解したかのように静かに肯定する。
別に、中断はしなくてもいいような気が……。
「じゃあ……またね、悠斗君。天使の保護、頑張って」
「あ……」
琴愛はどこか名残惜しそうな表情をして、そそくさと部屋を出ていってしまう。
悠斗は引き止めようと声を出そうとするが、そのときにはもう琴愛は部屋にはいなかった。
投稿が遅れて大変申し訳ありませんでした。
健康より原稿(作品)だ! とか言う知り合いの言葉を真に受けていたら、普通に体調崩しました。
もう、何なんでしょうね……。