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ディストゥ・ライフ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 天に愛でられた万能なる紅蓮
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第3話 人類の宿敵

予告もなく登場しました。

あまり手を付けられずにすみません。(それも読んでくれる人がいればの話ですが……)

とにかく、この小説を開いてくれた数少ない読者さまに、文だけですが感謝の礼を述べたいです。

誠に、ありがとうございました。

 〈アラハバキ〉の通路を急ぎ足で進んで数分後。悠斗を含む三人はやがて、とある部屋に駆け込んだ。

 辺りに照明と呼べるものはなく、四隅にあるよくわからない機材から漏れ出る微かな光が全体を照らしている。


「はい。矢崎君はこれ持って」


 前にいた佑樹は言って、悠斗に小型の機械と赤い宝石を一つ渡した。


「これは……?」

転身用装置(トランスデバイス)と、その原動力になる『エナジー』だ。使い方は後で説明するから」

「二人ともー。早く準備しないと置いてくよー」


 と、琴愛が急かすように言ってからまもなく、悠斗と佑樹は階段を駆け上がり、三人は円盤状の台に乗った。


「よし、皆乗ったね。では、出発しまーす!」

「え、何を――」


 言いかけたその時、低い駆動音が鳴り響き、天井から出た一柱の明かりが三人を照らす。

 さらに部屋中の機械が呼応するように点滅し、起動を行う。

 天井の光が一層強まった、その直後――、


 三人は瞬く間に、円盤状の台から姿を消した。





「遂に出動したか……」


 司令室に戻った諒は一人、机上に展開されたモニタを流れるように見ていた。

 と――、


『戦闘ですか? リョウ』


 どこからか、そんな声が聞こえてきた。無論、ここには諒以外誰もいないし、回線を繋げているわけでもない。


「うん――といっても、僕は見る側だけど」


 そんな不思議な声に、諒は驚く様子もなく一人呟くように答えた。


『今回は早々、新しい戦闘員を入れたようですね。確か名前は――ヤザキ ユウト、でしたか』

「そう。少し不安要素を感じさせるが、かなりの精神を持っている人間だ」

『会ってから間もないのに、評価は良好なんですね。ちなみに、信頼度は?』


 声が問いかけると、諒は首を左右に傾けた後に、口を動かす。


「――マイナス四十八パーセント、かな」





 光が収まったと思い目を開けると、上にある空の青が見えた。

 自分のいる場所が外であることに気付いた悠斗は、周囲を見渡し――すぐ息を呑んだ。

 視線を少し下にさげて映った景色は、大きなビルが幾つも建て並んでいる。

 しかし、そこに(たむろ)する人間は誰一人おらず、その代わりにある物体が徘徊していた。

 怪しく光る黄色い目に、紫色のスライムのような表面。それ以外に特徴と呼べるような手や足はなく、地を這って移動している。

 生物のように動いてはいるが、悠斗がそれを物体と称したのは自分の知識に覚えがないのと、あまりにその存在が異質に見えたのが主な理由だ。


「いいか、矢崎君。あれが『ノワル』――謎に満ちた生命体であり、人類の敵だ」

「あれ、が……」


 佑樹に言われ、道の上でうねるように動くそれを注視する。

 あれが倒すべき敵だと、頭の記憶に無理に捩じ込む。


「じゃあ、お手本として装置(デバイス)を使うから、見てて」


 悠斗と同じ黒い装置を腕に装着。ノワルに聞かせるかのように、わざとらしくテンポを踏んで歩き出す。

 数体のノワルがそれを察知したらしい。ゆっくりと佑樹に近づく。


「さて……俺の正義、貫かせてもらうよ」


 言って、佑樹は服のポケットから黄色の宝石を取り出し、装置に装填した。


『ナンバー〇八・ユニコーン――起動』


 機械的な音声が響いた途端、装置に入れた宝石が輝きを放ったと思うと、佑樹を起点に黄色の光が周囲に円を描く。

 幾重(いくえ)にも形作る光輪が渦巻き、佑樹の全身を包む。

 その直後、佑樹の姿が一変、黄を主張としたアーマーを纏っていた。

 全体の外見は西洋風の鎧に酷似しているが、肩や腰の部分に取り付けられた光盤が異様な凄味を見せている。ある意味奇抜なデザインともいえるだろう。


「……これより、殲滅を開始する」


 そんな装備を着こなした少年が今、ノワルたちに向かって走り出した。

 佑樹とノワルの群。双方との距離が急速に縮まっていく。

 それが接触する寸前、佑樹は右手を出してそこから一つの武器を顕現させた。

 悠斗は目を凝らしてそれを確認する。

 細身で長い形状の武器。それは細剣でも突撃槍(ランス)でもない。あれは――、


「……刀、か……?」


 そう。白い鞘に納められたそれは、鋼で作られたと思われる日本刀であった。

 佑樹は顕現した刀を即座に抜刀。瞬時に下段に構える。


「はあっ!」


 気迫ともに横に一閃し、先頭のノワルを斬り付けた。

 切れた表面から液状のものを吹き出して、攻撃を受けたノワルは案外あっけなく消滅する。

 直後、佑樹は次のノワルに的を定めて、足を一歩前に出すと同時に振り上げ、瞬く間に降ろす。

 二体目のノワルが息絶え、ただの液体の塊と化す。

 佑樹はその後も手を止めずに剣撃を続ける。

 わずか数分で、佑樹は十を超えるノワルの群を蹴散らした。


「すげぇ……」


 悠斗は思わず感嘆の声を漏らし、しばし佑樹を見ている。

 と。突然、悠斗の背後にいたノワルが覆いかぶさるように襲ってきた。


「うわっ……!」


 それに気づいた悠斗は身をのけ反らせ、転びながらも紙一重で回避する。


「いてて……やったなこんにゃろ、なら……」


 悠斗は言って起き上がると、転身用装置を右腕に置く。装置から自動でベルトが伸び、腕にがっしり巻き付く。


「えと、後は、これか……」


 ぎこちない様子で『エナジー』と言われた赤い宝石を取り出し、転身用装置に装填する。


『ナンバー十四・ガルーダ――起動』


 無機質な声が響いた直後、装置から赤い光線が発生。次第に繋がって輪となり、一柱の光のように重なり合い――砕けた。


 その瞬間、悠斗の体はすでに別のものへと変貌した。

 胴部や両腕部に鳥の羽のように隙間なく埋め込まれた赤い装甲。鷹の眼光にも似た異質なマスク。

 一人の少年が、一人の戦士に変遷(へんせん)した瞬間だった。


「おおおお……っ!」


 変わった本人は自分の姿を見て、妙に新鮮な気持ちに身を震わす。

 これは戦うことによる武者震いというより、新品のゲームをやっと手に入れたときの喜びに近い。

 だがしかし、いつまでも歓喜に浮かれることはできない。目の前に、敵がいるのだ。

 と。その時、


『――聞こえるか、矢崎』

「えっ、その声は……逆井っ!?」


 この場にいないはずの人の声が聞こえ、ふと辺りを確認する。建造物だらけの街並みしか見えない。


『安心して。僕は〈アラハバキ〉から、矢崎の転身用装置を介して通信をしている』

「へぇ、そんなことが……」

『こちらからは戦闘の状況報告、及びサポートを行う。矢崎はノワルの殲滅に集中して』

「わかった。あと、逆井。この装備なんだけど……」

『それは『ガルーダ・アルマ』。炎属性を基本とした拳法を得意とする防護服だ。容赦なく敵を殴り付けるのが手っ取り早いだろう』

「了解」


 悠斗は短く答えると言われた通り、目の前の敵に集中する。

 視界に映るノワルの数は六、全員がスライムの形状をした同種。

 それを視認した後、悠斗はノワルの眼前に勢いよく飛び出した。


「はあっ!」


 声を張り、初手から渾身の一撃を放つ。

 相手の動きが元から鈍いからか、それは簡単に直撃した。


「ギギィ……!」


 どこから出したのかわからない声を上げ、痛がるように後方に退く。

 悠斗は足を前に踏み出してノワルを立て続けに殴打した。

 どれくらい攻撃を与えた頃だろうか。悠斗にぼこぼこにされたノワルはやがて、空気の抜けた風船のように潰れて消えた。


「よし……!」


 初めての敵の討伐に、勝利の快感を覚える悠斗。


『喜ぶのはまだ早いんじゃないかな。悠斗君』


 と。通信を繋いだ装置から、聞き覚えのある少女の声が聞こえる。


「琴愛? いまどこに――」


 言い終わる前に、自分の周囲にいた数体のノワルが突如、苦悶の声を上げ、倒れ始めていることに気づく。


「な、なんだ……?」


 おそるおそる見ると、倒れたノワルの表面に小さな穴が幾つか開いていた。


「これは、弾痕……?」

『ピンポーン。私が撃ったんだよ、遠い所から』


 会話の後、装置に幾つかの銃声が聞こえ、その直後にまた数体のノワルがばたりと倒れる。

 どうやら琴愛が遠距離の狙撃を行っているらしい。それが全て、対象に着弾している。


『私の能力は《縮延(しゅくえん)》っていうんだけどね、あらゆるものを伸ばしたり、縮めたりできるの。銃弾が届く“距離”を伸ばしたから、私の攻撃が命中するってわけ』


 それはすごい、と。単純に思った。

 同時に、負けていられないという気持ちが一気にこみ上げてくる。

 悠斗は駆け出して、再びノワルに攻撃を仕掛けた。





 幾つものモニタが浮遊するなかで、諒は中央の映像を見ている。

 そこには、人類の敵ノワルに奮闘する攻撃艦員たちが映っていた。

 戦闘場所に自律カメラを送って、リアルタイムで状況を把握しているのだ。


『はああっ……!』


 加えて、艦員たちが使用している転身用装置に組み込まれた通信機も、状況把握のために繋げている。いまのは悠斗の声だ。


『順調ですね、リョウ』

「うん。矢崎が思った以上に、上手く戦えている」


 幾度目の(しと)やかな声に、諒はそう受け答えた。

 事実、悠斗は初陣だというのに見事な腕前であった。

 ノワルに唖然せず、物怖じしない――数少ない逸材であることは、まず間違いないだろう。

 ……だが、


「今回は、ジェルしか現れないな」


 ふとモニタを一瞥してから、諒はそう言う。

 ノワルには現在、複数の種類があることが確認されている。

 諒が口にした、『ジェル』というノワルは、中でもステータスが最も弱い種類だ。


『そうですね。大気中の魔力数値も大したことありませんし、今回は雑魚の集まりということでしょうね』

「……」


 手を顎に当て、少し眉をひそめる。

 悠斗という新人艦員の初めての任務で、安易な対象しか湧かない。

 偶然に出来すぎな気がするが、不可解な部分はなし。何もかもが良好なこの戦況。

 支援側としても、これは僥倖(ぎょうこう)だと考えた方が楽なのだが……どうしても楽観的に見れない。

 見え隠れする不安を抑えるために、鼻で呼吸をして無駄な力を抜く。

 ――その途中で、諒は目の端にあるモニタを見てしまった。


「……!」


 眼鏡を掛け直し、瞬時にそれを目視する。

 再度確認を得たあと、諒は通信機のマイクに顔を近づけた。





「ギィ……ッ!」


 気味の悪い断末魔を残して、おそらく最後の一体であろうノワルは空気中に散っていった。


「はぁ、はぁ……ふぅ」


 突きだした拳を見据えながら、悠斗は動悸を落ち着かせゆっくりと腕を下げる。


「おーい、悠斗くーん」


 すると背後の方から、銃をかついだ琴愛が来た。


「お疲れさま。 すごい活躍だったね!」

「そ、そう……?」


 突然言われたことに、悠斗は少し戸惑いを見せる。


「うん! 初戦でノワルを十体以上も倒したんだもん、すごいことだよ!」

「っ……、あ、ありがとう」


 琴愛がそう言って満面の笑みを向けたのに対し、悠斗は顔が火照(ほて)り、それを紛らわすように目を()らした。


「おーい、二人とも―」


 と、是非ともいえないタイミングで防具に身を包んだ佑樹がやって来る。


「あ、佑樹君。お疲れさま」

「お疲れ。矢崎君は、怪我(けが)してない?」

「おう、たぶん大丈夫だと思う」

「それはよかった。――じゃあ帰還準備が整うまで、ここで待っていよう」

「帰還準備? それってどういう……?」

「行く時に使ったあの台――あれは転送機なんだ。今度は〈アラハバキ〉の方から、元の場所へ俺たちを運んでくれるってわけ」


 なるほど、そういうことだったのか。

 悠斗が聞いていたそのとき、装置がピコン、と音を鳴らした。


「あ、多分あっちの準備が出来たんだろう――もしもし、こちら佑樹、こちらの準備も整った。いつでも帰れ――」

『緊急事態。今すぐその場から離れて』


 突如、諒の静かで重い声が響き渡る。


「さ、逆井君? 一体どうしたって……」

『その地点の上空に、膨大な魔力値を確認した。これは非常に危険。だから――』


 と、そこで通信にノイズのようなものが混ざり、それ以上の声が聞こえなくなった。


「……逆井君? 聞こえるか!? おいっ!」

「何が、起きてるの……?」


 急な出来事に佑樹は声を荒げ、琴愛は不安そうに眉根を寄せる。

 そんななか、悠斗は若干置いていかれた感じを覚えてしまう。


「なあ、よく状況が理解でき――」


 言い終えるその刹那、地面が何の前触れもなく上下に揺れだした。

 否。地面だけじゃない。街が、空が、世界が――震撼していた。


「な……っ!」


 戦慄しながらも、身を(かが)めて振動に耐える悠斗。

 周りの様子など気にする余裕もなく、壁に貼り付く虫のようにその場で硬直する。

 どれくらいたっただろうか。激しい揺れが収まったと思い、悠斗は立ち上がりそっと目を開く。


「……ッ!」


 ――瞬間、悠斗は息を呑んだ。

 目の前の景色に驚愕したか……違う。自分の今いるこの状況に恐れ(おのの)いたのか……それも違う。



 ――視線の先にいる、翼を背に生やした少女に、目を奪われたからだ。



「あ…………」


 悠斗は小さく声を漏らすが、やがて全身が痺れたかのように動かなくなる。

 燃え盛る炎よりも(あか)く眩ゆい髪に翠眼(すいがん)。鎧と羽衣を合わせたかのような不思議な外装。そして幻想的にも美しい、光輝く巨大な翼。

 視界に映るその存在の全てに、悠斗は魅了していた。


「…………」


 少女が無言で、悠斗の前に近付いてくる。

 そして少女は片手を上げ、それを振り下ろす。いわゆる手刀というやつだ。

 ――直後、悠斗の右腕が空中に舞った。


「え……――あああああぁぁああぁぁぁあっ!」


 肘の上から綺麗に断たれた自分の腕を見て、悠斗は叫び膝をつく。

 右腕に装着されていた装置は取れ、装備は光の粒子となって溶け消えた。


「あぁ、ぁ、あ……」


 感じたことない灼熱の痛みに苦しみ悶え、恐怖と動揺に体が沈む。

 意識が徐々に薄れていく悠斗は、少女を睨むように目を凝らす。

 朦朧(もうろう)な状態でかろうじて見えた、少女の双眸。

 ――その瞳は暗く、ひどくかげっていた。


「ぁ……」


 それを最期に、悠斗の意識は暗転した深い闇へと落ちてしまった。

この作品も投稿スピードを上げたいのですが、慌てると前作品のトラウマが――(以下略)。

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