第15話 結果報告
二十話構成辞めようかな?
そう思う自分がいます。
マンションを出てすぐに立ち止まってしばらくすると、視界全体を光が覆う。
直後、住宅街の中から、転送ポータルの上へと景色が変わった。
原理は知らないが、〈アラハバキ〉の転送室から意図的に移動させられたのだ。
悠斗は転送室を後にし、通路を抜けて、司令室へと足を運ぶ。
開けた扉の先に、見知った三人がいた。
「悠斗君! 無事だったんだね」
「ノワルの応戦に行けなくて、ごめんな」
「いいよ別に、大事にはならなかったし」
謝る佑樹に、悠斗は両手を振って返す。本当に大事には至らなかったし、むしろその後が重要だったため気にはしていない。
『早急で申し訳ありませんが、以後ことについて話し合いましょう』
「……ああ、そうしよう」
諒が装着した腕輪の上にいる百合奈がそう言い、悠斗は首肯した。
四人と一体が、それぞれ定位置のような場所に就いて、今後の活動について考える。
それは即ち――カマエルの対処だ。
「まずは、現状を報告する。カマエルは現在、〈AMP〉が用意した能力者専用マンションの一室で眠っている」
諒が言うと、背に展開されたモニタに、先ほど悠斗とカマエルがいた部屋が映し出される。
休むと断言したカマエルは、真紅の鎧を脱ぎ、ベッドですうすうと寝息を立てていた。
「何か、盗撮しちゃってる気分だな……」
同じくモニタを見ていた佑樹が、眉根を寄せて言う。悠斗はあははと苦笑した。
「天使カマエルは、悠斗が明日に情報共有という名目で対話をしてもらいたい――が、ここで問題がある」
静かで抑揚のない諒の声が、少しばかり重くなる。
その訳を、悠斗は知っていた。
「――カマエルは、誘発波を止めることはできない」
「「な……っ!」」
悠斗が真実を口にすると、佑樹と琴愛が狼狽の声を上げる。
それも無理はない。悠斗も本人から直接聞いたときは、驚きを隠せなかった。
だがそれは、カマエル自身が発した確かなことなのだ。
「まさか、誘発波が恣意によるものではないのは予想外だった。この計画を推奨した〈大和ハート〉でも、この事態には苦悩せざるをえないだろう」
「そんな……何か方法はないの?」
琴愛が眉を八の字にして訊いてくる。諒は息を止めるように沈黙してから、それに答えた。
「――方法ならある。そうじゃないか? 矢崎」
「ああ、そうだな」
こくりと頷くと、悠斗は話を継いだ。
「あいつは確かに、誘発波を止めることは不可能と言った。だけどこうも言ったんだ」
(少なくとも、今の私には……)
悠斗は、カマエルが捨てるように呟いた言葉を皆に伝えた。
と、それを聞いた佑樹が、思考を巡らせてから口を開く。
「もしかして、天使が誘発波を止める方法を知っている?」
『その考えが妥当でしょう。誘発波は、限られた天使の権能と言いましたし』
「権能。生まれ持った権利と解釈するなら、それが何であり、どうやって停止できるのかは天使自身が熟知しているはずだ」
百合奈、諒がつらつらと述べる。その考えは確かに道理であった。
「でも……どうしてカマエルさんは、それを話してくれなかったんでしょう?」
そこで琴愛が、首を傾げながら言ってくる。
あまり確証はないが、悠斗は立てた予想を言った。
「カマエルは人間が苦手だって言ったから、たぶん俺のことを信用できないんじゃないか?」
『それは違いますね』
直後、ぴしゃんと閉じるような声が響く。百合奈だ。
「え、百合奈……今なんて?」
『ですから、それは違います。悠斗は、天使に信用されてないわけではありません』
百合奈は柔らかな表情と眼差しで言うと、腰をを回して、諒に視線を向ける。
諒はそれに頷きで応えると、両手をスッと前に出し、手のひらを打ち鳴らした。
この行動は、諒が能力を使用するときに取るものだ。
しかし、数秒経っても変化は訪れず、何かが現れた様子も見られない。
やがてその静寂に堪え兼ねて、悠斗は声を出そうとする。
その時だった。
「司令! お待たせ致しました!」
突如、後ろの扉が開き、同時に大きな声が部屋中に響き渡る。
誰かと思い振り返ると――悠斗はその名を呼んだ。
「ジンっ!?」
そう。大仰な登場をしたこの人物こそ、悠斗が〈AMP〉で初めて会った艦員。ジンである。
黒髪に黒褐色の肌。ボタンまでしっかり留められた同色の軍服。
ジンは、すたすたと諒の元まで行くと、手に持っていた資料のようなものを諒に渡した。
「ありがとう。藤野」
「お褒めの言葉を頂き、光栄です。それでは」
そう丁寧な口調で言うと、ジンは素早く踵を返し、足早に退室した。
まるで嵐のように、鮮やかで一瞬。
そのためか、悠斗はもちろん他の攻撃艦員も声を発せないでいた。
沈黙の中、諒は渡された資料に視線を落とし、目を通す。
「そうか……やはり…………」
そして何やら一人で喋っていると、読み終えた資料を閉じて、顔を上げる。
「皆。新たな情報を会得し――どうした。皆、ぼうっとして」
「いや、状況が飲み込めないんだが……今なにしたんだ?」
「? 何かしたかな」
「逆井が手を叩いたタイミングに合わせて、ジンが来たような気がしたけど……」
悠斗がそう言うと、諒は納得したように「ああ」と声を出した。
「何も可笑しいことはない。僕がこの手で、藤野を呼んだのだから」
「……その、《空間》の能力でか?」
「そう。解析室にいた藤野を、数センチだけ移動させた。これが、呼び出しの合図」
「でもそれって、危なくないのか?」
「最初は皆が迷惑がっていたけど、藤野を始めとした艦員たちが思慮して慣れてくれた。――それより皆、新たな情報を会得した」
先の事柄を説明した諒はその後、悠斗たちにあることを伝える。
「カマエルはそれほど、人間を嫌悪していない」
「え、今なんて?」
悠斗は信じられないといった様子で聞き返した。
「カマエルは人間を嫌悪していない。それどころか、興味を持っているように見える」
「いや、それはないだろ」
嫌悪はないという部分より、興味を持っているという部分を否定する。
それはそうだ。なぜならカマエルは、人間は苦手だと言った。それが本当なら、嫌気も感じているのではないか。
継いで百合奈が、悠斗に話す。
『モニタリングした際、映像だけでなく精神チェックも行いました。その結果を拝見しますと、ユウトに対して、反感意識を抱いていないことがわかりました』
「焦燥や悲愴、羞恥など色々な感情があったが、どれも拒絶に至るものではないと判断できる。つまり矢崎は、カマエルに信用されていないわけではないということだ」
「そう、だったんだ……」
不審な気持ちは残るも、悠斗はそう言った。
「だけど、もしそうなら……嬉しいな」
「っ……」
続けて悠斗は正直な感想を口にする。その途端、琴愛が無言でこちらに視線を向けていた。
「それと、これも新しい情報だけど……カマエルの魔力は、不安定な状態にあるようだ」
「不安定? それって、つまり……?」
諒が発したことに、悠斗は詳細を求める。
『精細に言いますと、魔力の出力や調整が思い通りに出来ていないということです。カマエルが気絶したときに、翼は消えていましたね?』
「おう。あとは鎧の一部も、消えてた気がするぞ」
『恐らく天使の衣装も、自身の魔力で生成しているのでしょう。魔力が不安定になったことで維持が難しくなり、消滅したと思われます』
見たことをそのまま伝えると、百合奈は自分なりに考えた推測を述べた。
さすが人工知能というべきか。考慮されたことが全て理にかなっている。
その時だった。
「魔力が、不安定……」
佑樹が、先ほど聞いた言葉を復唱している。
何かと思い、悠斗は佑樹に話しかけた。
「佑樹。どうしたんだ?」
「……魔力が不安定。つまりそれは、魔力が自由に扱えないということだよな?」
「まあ、そう……だな」
断定はなかったため、一拍遅れて肯定を示す。
すると、佑樹が表情を険しくした。
「ということは……そのカマエルってやつ、結構危ないんじゃないか?」
「え、危ないって、何が?」
「だから、魔力が不安定ってことはつまり――」
「限界暴走の可能性がある、だな」
「は……?」
代わりとでもいうように、諒が話に割り込む。
その意味が、悠斗にはわからなかった。
「ちょっと待て。限界暴走って、能力者にしか起きないんじゃなかったのかよ」
限界暴走は、能力者が魔力を暴発させてしまう現象だ。人外の天使は、関係ないと思っていた。
しかし、諒は首を横に振ってから言う。
「確かに、限界暴走はそれを起こした能力者に向かって言うものだ。だが資料を見る限り、魔力の波に乱れがあることは確実だ」
『魔力が不安定である主な理由は、身体か精神、どちらかに掛かった多大なダメージや衝動です。現在のカマエルは、健全な状態ではないのでしょう』
百合奈がまたもや、自身の推測を述べてくる。
それに悠斗は反論せず、ただ黙っていた。
二人が言ったことは、決して真実とは限らない。
だがもし、それが本当だったら……。
瞬間、悠斗の心が嫌な方に揺らぎだした。
「今伝えたことを踏まえて、矢崎には明日、カマエルと会話をして、誘発波を止めてもらいたい。――これで以上だ。解散」
諒が号令を出して、その話し合いは終わってしまった。
このままいけば、多分問題ないです。
全部書き終わったら改善します。