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ディストゥ・ライフ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 天に愛でられた万能なる紅蓮
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第9話 訓練その二、予想外を打破せよ!

天使と対話、及び保護するための訓練その二です。

 天使と対話するための訓練が始まってから、丸一日たったある日。

 悠斗は、真っ白な空間スペースの中央辺りにいた。

 広さは〈アラハバキ〉の看護室の十数倍はあり、あるのは無機質な床と壁と窓に天井。物寂しさを通り越して、哀情(あいじょう)の念を抱いてしまう。

 そんな何もない場所で、悠斗は深呼吸をしてから、自分の腕に巻かれた転身用装置(トランスデバイス)に『ガルーダエナジー』を装填する。


『ナンバー十四・ガルーダ――起動』


 機械的な音声とともに、悠斗の体に赤い鎧と仮面が着用された。

 その直後、低いアラームのような音が部屋中に響く。


『バトルシミュレーション・レベル四、開始します』


 瞬間、部屋の全体が揺らぎ、景色が一変。高層ビルが建ち並ぶ都会の風景に切り替わった。

 その直後、天井――今は雲ひとつない青空になっている――に黒い穴が開き、そこから生命体が落ちてくる。

 スライムのように滑らかな紫色の表面に光輝く二つの目。――『ジェル』という、人類の敵ノワルのなかで最も弱小な生命体だ。

 それが計五体、悠斗の前に現れた。


「ふぅ…………」


 短く息を吐き、悠斗は両腕をボクシングのポーズに構える。

 そして数秒後、勢いよく地面を蹴るように前進した。

 手を(こぶし)の形にして、ノワルに殴りかかる。


「ギィ……ッ」


 人でいう眉間の部分に拳を打ち込むと、一体のノワルが怯む。

 悠斗は立て続けに攻撃を繰り出そうとする。が、別のノワルが襲いかかり、それを阻まれた。


「ちっ……!」


 悠斗は舌打ちをし、眼前にいるノワルを連続で殴打する。

 力を入れていくうちに、手から炎が噴き出て、拳を包んで炎拳(えんけん)と化す。


「はあああっ!」


 気迫を入れ、ノワル向かってに攻撃を放つ。


「ギギィ……ッ!」


 断末魔のような声を上げ、ジェルノワルは空気に溶け消えた。

 そのまま悠斗は流れるように、次の敵に攻撃を仕掛ける。

 やがて、周りにいた全てのジェルノワルが悠斗の攻撃によって倒れ霧散し、悠斗一人だけとなった。

 しかし――、黒い穴から再び、生命体が三体降りてくる。それも、さっき見たのとは違う奴だ。

 両手両足があり、体の表面は前のノワルと同じ暗い紫。顔と思わしき部分には仰々しい赤い双眸が鎮座している。

 このノワルの識別名は『ローム』。人型をした、中級レベルのノワルだ。

 対峙したのはこれが初のため、悠斗は一瞬だけ身震いをしてしまう。

 だがすぐに気を引き締め、表情を強張らせると、悠斗は戦闘体勢の構えを取った。

 相手が動きを見せる前に接近。視線を鋭くすると、素早く相手の腹部に拳を叩き込んだ。

 ゴゥン、という音がノワルと悠斗の拳の間から響く。

 硬い。悠斗が実践して、率直に思ったことだ。

 それでも悠斗は負けじと、ノワルの体に連続で攻撃する。

 しかしその攻撃にノワルは怯む様子も見せず、今度はこちらの番だとでもいうように片手を振り上げた。

 紫色の手の指先から、鋭利な刃物のような爪が伸びる。


「っ……!」


 来るであろうダメージを予測し、攻撃を避けようとして身を低くする。

 攻撃が肩に(かす)り、距離を取るため後方に飛び退く。

 悠斗は仮面の裏で渋面を作り、敵を警戒するように睨む。

 何か、何か手は…………、


「そうだ! これを使えば……」


 そこで悠斗はあることを思いだし、両腕を腰だめの位置に構えてから声を発した。


「ガルーダ――【鳥王の炎杭(ラガタクシャ)】!」


 瞬間、悠斗の両手に、赤い炎が生み出される。

 最初は小さな灯火(ともしび)だったそれは、悠斗が力を込める度に徐々に肥大していく。

 やがて炎が大きさが拳の三倍くらいなったその時、悠斗は両腕を前に突き出した。

 二つの濃密な炎の奔流(ほんりゅう)が、ロームノワルたち目掛けて放たれた。

 その技は見事に炸裂し、大きな破壊音と爆風を巻き起こす。

 ――三体のロームノワルは肉体の欠片も残らず、炎から出る黒煙とともに消えた。


「よしっ! やった、ぞ……」


 勝利の喜びを口にした悠斗。が、それを言い切ることはなく、力無く地面に突っ伏した。

 動揺が走り、何とか起き上がろうとするが、思うように体が動いてくれない。

 周囲が揺らぎ、景色が元の無機質な部屋に戻る。

 と、そのとき、


「だ、大丈夫ですか~っ?」


 突如、女の人の声が聞こえ、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。

 見覚えのない人だが、着ている服からして、〈アラハバキ〉の艦員だろう。

 艦内はとてつもなく広いのに、ここにいる組織の機関員はわずか十人だけという話だ。それを聞いたときは他の艦員に会えるか少々不安だったが、まさかここで対面するとは。

 医務官だろうか、清掃員だろうか、それとも――、

 思考を巡らせていくうちに、悠斗の意識は闇に落ちてしまった。




 目を覚ますと、自分がベッドで寝ていることに気づいた。

 なぜ気づいたかというと、天井の色や照明の感じが、悠斗が見た看護室のそれと同等だったからだ。

 装備は解除され、腕を上げると肌色の手が目に映った。

 ゆっくりと上体を起こし、ふと周囲を確認する。

 だが、ベッドの周りには緑のカーテンが仕切られており、外の様子が見られない状況になっていた。

 こんなカーテン、前にあったっけ……?

 疑問を浮かべつつも、悠斗は体を動かしてベッドから出ようとする。


「ん……?」


 そこで、悠斗は不思議が違和感を覚えた。

 上半身は自由に動かせるのに、足の方が思ったように動かないのだ。

 まだ力が入らないかと思ったのだが、それとは違う気がする。

 まるで、そう。何かに掴まれているかのような……。

 不思議な感覚を探るため、悠斗は半身を(おお)っているシーツをむんずと剥がす。

 すると、違和感の正体がすぐに知ることができた。

 悠斗の身動きが自由に取れない理由。それは、悠斗の片足を、小柄な少女ががっしりと掴んでいたからだ。

 年齢は十歳ほど。腰まであるきらきらと輝く金色(こんじき)の髪が特徴的な、細身の少女である。


「くぅ……くぅ……」


 どうやら寝ているようで、すうすうと寝息をたてていた。


「えっと、この子は……?」


 違和感の原因である少女を見つめて、悠斗は頬に汗を垂らす。

 と、そのとき、カーテンがシャっと開かれる。


「やあ、ようやく目が覚めたのかい」


 カーテンの外側から、一人の女性が顔を出す。

 長い黒髪の女性で、年齢はおそらく二十代半ば……であると思う。

 なぜ予想が曖昧(あいまい)なのかというと、それは女性の外見によるものだろう。

 目付きは無愛想と例えるしかないほど突極性がなく、長い黒髪は前髪が目元が隠れてしまいそうなほど長く、若干老けて見えたのだ。

 少し戸惑いを感じながら、悠斗は女性に話しかけた。


「えと……あなたは?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。私はここの医務官をやっている霜月(しもつき) 優子(ゆうこ)だ。君は?」

「俺は矢崎 悠斗、攻撃艦員だ」

「ほう、君がか……」


 悠斗が名前を言うと、優子は関心を寄せるような表情をした。

 そして顎に手を置くと、まじまじと悠斗の顔を覗き込んでくる。

 一点を集中して見るように顔を近づけて、言葉を一切発することなく。


「あ、あのぉ……」


 その沈黙に耐えきれず、悠斗は顔を赤くしてついに声を漏らしてしまった。


「……ああ、すまない。つい長々と観察してしまったよ」


 言って、優子は顔を離すとゆっくりと椅子に腰掛ける。

 悠斗は一時の緊張の(ほぐ)れを感じると、優子に尋ねた。


「あの、ここって看護室だよな? 何か、前に来たときとは違うような……」

「ここは確かに看護室だが、おそらく、君が見たのとは別の看護室だろう」

「……どういうことだ?」


 意味がわからず、首を傾げて聞き返す。


「その様子だとまだ知らないみたいだから、一応伝えよう――AMP唯一の戦艦である〈アラハバキ〉は前部と後部に別れていて、各種の部屋がそれぞれに一つずつある構造になっているんだ」

「そうか……そういうことだったのか……」


 優子の話を聞いて、この艦の壮大さを改めて理解する。

 といっても、スケールの捉えようがわからないため、結局そういう気分で感じるしかできなかったのだが。


「ここは後部の看護室。戦闘の訓練中に倒れた君を、清掃員の新城(しんじょう)さんが運んでくれたのさ」

「新城さん、か……ありがとうございました」


 悠斗は言って、まだ顔も知れぬ人物を頭の中で想像してお礼を述べる。今言わないと、もう二度と言えない気がしたからだ。


「別に構わない。人を休ませるのは、私の担当だからね。気にせず、安心して休みなさい」


 と、その言葉を自分に向けてのお礼と勘違いしたらしい優子が、手をひらひらと振って返す。


「あ、霜月さん。もう一つだけ聞きたいことが……」

「何だね」


 優子が端的に言うと、悠斗は気になることを口にした。


「俺の足にくっついているこの子、一体何なんだ?」

「ん? ……ああ、その子か。その子は君と同じ能力者(シュロム)さ。まだ幼いが、能力が他と比べて異質なため、艦内で保護を続けている子だ」

「へぇ、こいつも能力者なのか……ちなみに、年は?」

「年齢は確か、十歳だったかな。まだ遊び盛りだからよく色んな部屋を駆け回ったりして遊んでいるが、ここに来たときに丁度倒れた君と出くわしたというわけさ」

「…………」


 悠斗は話を聞いたまま、気持ち良さそうに寝ている少女の方に目を向ける。

 こんなに小さいのに、異質な能力者だからという理由で、少女は保護されている。

 確かにそれは安全で正しいことだが、裏を返せばそれは、ただ人の自由を奪っているだけではないのか。

 ――今さらだがそんな考えが突如、悠斗の脳裏に浮かんでいた。


「普通だったら、(つら)いよな……」


 優しく語りかけるように言って、悠斗は少女の頭をそっと撫でた。

 と、そのとき、


「んぅ…………」


 短い(うな)り声が聞こえたかと思うと、少女はまるでスイッチを押されたかのようにがばっと起き上がった。


「うわ……っ!」


 突然の行動に、悠斗は思わず驚く。

 少女はそれを気にすることなく大きなあくびを一つ漏らして言った。


「ふわあぁ……おはよう、ごぢゃいましゅ……」


 呂律(ろれつ)が怪しい口調で、少女は言葉を発する。

 その言葉に、優子は平然とした様子で答えた。


「おはよう、美麗(みれい)。よく眠れたようだね」

「うにゃ……そう、みたい……」


 まだ眠気が残っている少女はこくりと頷くと、辺りをゆっくりと見渡す。

 ふらふらとした状態で首を回し、やがて目の前にいる悠斗と目線が合う。

 すると突然、少女は半開きだった目を一瞬で開かせた。


「あ! さっきのおにいちゃんだ!」

「お、おにい、ちゃん……?」


 聞き慣れない単語に、戸惑いを隠せない悠斗。

 それを察することもなく、少女は水晶玉のように丸い双眸を向けて悠斗の体に身を乗りだした。


「ねぇねぇおにいちゃん、一緒に遊ぼうよー!」

「え、で、でも……」

「おーねーがーいーっ!」


 突然の申し出に躊躇(ためら)いを見せると、少女は悠斗の服を引っ張ってまるで駄々っ子のように暴れた。


「うう……わかった、わかったから服を引っ張るな!」

「じゃあ、遊んでくれる?」

「……はいはい、いいよ、別に」

「ホント!? わーい、わーい!」


 悠斗が根負けして仕方なく了承すると、少女は心底嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねる。


「こら美麗、ベッドで跳ねちゃあ危ないよ」

「あぅ……ごめんなさい」

「わかってくれればいい――あと美麗。お兄さんに自己紹介していないだろう。お名前を言いなさい」

「うん、わかった!」


 少女は元気よく言うと、ベッドからだん、と降りてからこちらに向き直り、ピシッと背筋を伸ばした。


鷹原(たかはら)美麗、十歳です! 好きなものは豚の生姜(しょうが)焼き、嫌いなものはこんにゃくです!」


 はきはきとした、個性的な自己紹介であった。


「……次は、君の番だよ?」

「あ、ああ、はい。俺は矢崎 悠斗。好きなものは肉料理で、嫌いなものは特にない、かな……」


 少女――美麗と形を合わせるようにして、悠斗は二度目の自己紹介を行う。


「へぇ~、悠斗おにいちゃんっていうんだ~」


 美麗は目を輝かせ、興味津々そうに体を揺らした。

 すると突然、悠斗の手を掴んでくる。


「ねぇ、早く遊ぼ、遊ぼ!」

「わかった、わかったから……」


 悠斗は成すがままに、ベッドから立ち上がり腕を体ごと引っ張られた。


「待ちたまえ」


 と、不意に優子が声をかけ、悠斗にバッグを投げ渡した。


「なんなんだ……これは」

「美麗と遊ぶ際の必需品さ。遠慮なく使ってくれ」


 バッグを受け取って(いぶか)しい声を発する悠斗に、優子は手短に答える。

 バッグの中身が一体何なのかが気になったが、それを知らされることなく、悠斗は看護室から退室することとなった。

今回は性懲りもなく新キャラをださせていただきました。

外面無愛想な医務官、霜月 優子。

気絶した主人公を運んでくれた心優しい清掃員、新城 ××(名前はいつかだします)。

そして、戦艦にいたもう一人の能力者、鷹原 美麗。

ここから物語がどうなるのか、乞うご期待ください。


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