どうやら、俺は魔法使いになったようです
――魔法使い。
魔法、妖術、幻術、呪術などを扱う者達の総称であり、古来より神話や伝説の中で登場する、幻想の存在だ。
ただ、魔法使いといっても、その呼び名は様々だ。
魔法を使う者。
魔術師。
魔女。
妖術師。
賢者。
ファンタジーをモチーフにしたゲームや本などに触れていれば誰でもお目にかかれる、単語の数々。
だが、これらは全て、身も蓋もなくまとめてしまえば『魔法使い』の一言で済ませてしまえる。
更に細かく区分をするのであれば、善悪の陣営に分かれているとか、複数属性の魔法を使えるとか……そんな曖昧な定義で、職業として分断されているのだけれども。
要は、魔法を使える存在。
ひとまずは、それだけを覚えていればいい。
それに、幻想の存在といっても、存在までが幻想ではない。
歴史を紐解いてみれば、明らかに『魔法使い』だと認めざるを得ない功績を残した実在の人物だっているのだ。
有名所で言えば、ソロモン魔術の「アレイスター・クロウリー」に「マグレガー・メイザース」。
実在の人物を下敷きにした逸話であるなら、自分の魂と引き換えに悪魔を召喚した「ファウスト博士」もその一人だ。
クトゥルフ神話では関連性が怪しい所だが、かの死霊秘法を英訳したとされている「ジョン・ディー」なんて人物もいる。
歴史に名を残している人物でいえば、日本にも、条件に当てはまる人物はいる。
陰陽術の開祖と言われている「安倍清明」が、そうだと言えるだろう。
逸話の数々を見れば、魔法としか思えない数々の術を披露している事が分かるはずだ。
そういう訳で、本質的な意味での「魔法」は、実際に存在している。
していた、と過去形で言わないのは、時折、科学では説明の付かない奇跡が世界中で見つかるからだ。
血を流す聖痕。
水晶の涙。
口にしただけで病を治す泉の水。
科学の進んだ現代で「魔法」なんて存在は公に認められるものなんかではないんだろうけど、発展した科学は魔法と同じ、なんて言葉もある。
知らないだけで、既に身近な所に魔法は存在しているのかもしれないのだ。
そう考えると、今の人類は、全員が魔法使いだと言い換えられなくもない。
荒唐無稽だと思うかもしれないが、考えてみてくれ。
人間が人間らしく、自由意志を持って生きられるのは、大体は百年も満たない。
そして、その百年が過ぎ去るまでに、様々な技術開発や予想だにしない展開があるだろう。
つまり、端的に言えば、だ。
今から百年先の未来には「今の自分達が予想もしていない『何か』が起きていてもおかしくない」可能性しかないのだ。
二足での自立歩行を可能とするロボットが完成するかもしれない。
別次元への進入が可能になるかも知れない。
恒久的に空中に浮き続けられる未来都市が存在するかもしれない。
そんな未来が、本当に現実となっていたら――それこそが、魔法なんじゃないか?
そんな先人達の想いを、俺達人類は、科学と技術を発展させて「叶えてきた」んだ。
荒波を割って突き進む「船」を創り。
空を翔る「飛行機」を飛ばし。
馬の代わりに疲れを知らない「蒸気機関」を開発し。
果ては、星空の海に漕ぎ出る「宇宙船」まで創りだした。
数百年前の人類に実物を見せたら、死ぬほど驚くだろう。これは魔法なのか、と。
だからこそ、今の人類は全員が魔法使いなんだ――と。
口こそしないが、俺は思うんだ。
……しかし、だ。
この「魔法使い」は、現代では『別の意味を持った称号』として知られている。
知られている、というか、その用途で使われることのほうが多い、というべきか。
その用途も、ある意味では『尊敬』の意味合いも込められているんだけども。
称号の内容としては、いたってシンプルだ。
【魔法使い】
三十歳まで童貞を貫き通してしまった男性。
まぁ……つまりは『そういうこと』だ。
理由はともかく、そういうわけで本日。
俺、狭山芳和は、めでたく三十歳の誕生日を迎えて魔法使いに「成った」。
ねぇ、どんな気持ちかって?
予想は出来てたし、今更すぎて何とも思わないさ。
周りの反応なんて『どうでもいい』。
本当、この一言に尽きるよ。




