夢も希望も詰まっていません!!
ひらりとスカートが宙を舞った。
それを見た君の眼は爛々と輝いていて、それとは逆に、僕の眼は絶望に満ちていた。
「はぁ~。みつくん、本当に可愛いね!」
うっとりと吐き出された言葉に、周りの人たちも首を縦に振る。
まて、止めてくれ。特に男子ども、僕にそんな趣味はないぞ。
絶望と共に吐き出された僕の溜息は、周りの音に掻き消されていった。
「焼きそば如何ですかー?ジュースもありますよー!」
「・・・・・」
人で溢れる廊下を、元気よく声を上げながら突き進む幼馴染の後ろを、無言で着いて行く。
僕にとって、これは公開処刑でしかない。
「秋ちゃん。ほら、もっと元気よく声出さなきゃ!」
「なんで僕が・・・・」
本名 川上光秋性別は男、ただ今の恰好セーラー服。
「焼肉のためよ!それに、秋ちゃん可愛いから大丈夫よ。」
「その、秋ちゃんって何?普段はみつくんって呼ぶくせに。」
「今は女の子だから、みつくんより秋ちゃんのほうが自然でしょ?」
「まぁ、そうかもだけど・・」
何となく、何時もと違うせいかしっくり来ない。
窓から入り込んだ風が太腿を撫でる、スカートはある程度の長さがある。が、それでも違和感が拭えないのは何時もと露出している部分が違うからだろう。
「ほら、それより時間になっちゃうから行くよ!」
看板を持っていない方の手を引かれて、自然と早まる足元。と、その時。
ドン
鈍い音と共に崩れる幼馴染。
「あぶなっ!?」
咄嗟に下敷きになるが、衝撃が体を駆け抜け自然と顔がゆがむ。
「おいおい、何してくれんだよねーちゃんよー。」
「服がべとべとじゃねーか。」
顔を上げれば、ニヤニヤと汚らしく笑う男が二人。
「み・・・みつくん。」
怯える幼馴染を庇う様に前へと出れば、男達の笑みは更に深まった。
「なんだぁ?嬢ちゃんが相手してくれんのか?」
「セーラー服なんて俺初めて見たけど、これはこれで・・・・・」
「・・・・・・・」
無言で立つ僕の手を取ると、人気のない方へ歩き出す二人組の男。
「みつくん!!」
聞こえる声に、首だけ後ろに向けて言い放つ。
「先に戻ってて。」
「・・・・うん。」
不安そうに頷く君に微笑んだ。
鈍い音と共に地に伏せる巨体。
「てめぇ・・・」
「人気の無い所を選んだのが、間違いだったね?」
「くそっ!!」
足元に伏せる男を、足先で転がす。聞こえたうめき声に、眉を寄せた。
「あんまりこういうの得意じゃないんだよ。今なら、見逃してあげるけど?」
どうする?そう男を見上げると、見えたのはさっきとは一転してニヤニヤと笑う男。
「俺たちだって、何にも考えてねー訳じゃねぇんだぜ?」
男の視線が僕の後ろを捉える。
「やれ!!」
「!!しまっ・・・ぐぅ!?」
後ろから伸びた手が、僕の腕と口を覆う。
「手こずらせやがって、優しくして貰えると思うなよ!?」
「んぅぐ」
男の手が僕の腹にめり込む。確かに、優しくない。喉元を駆け上る酸味を、無理やり押し込めた。
それを見た男の手がスカートを捲り上げ、そして、硬直した。
「う、うそだろ・・・・・おとぐぇ!!?」
振り上げた足をまともに喰らい、倒れ伏し悶絶する男。それを見た周りの奴らは、恐る恐る僕から離れていく。
自由になった口から、胃酸の混ざった唾を床に吐き捨てると僕は言い放った。近くの男を、蹴り倒しながら。
「夢も希望も詰まってなくて悪かったなぁ!!!」
取り敢えず、もう二度と女装なんてするものか。涙で滲む目で幼馴染を睨め付けながら、僕は大声で言い放った。
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