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エリカ  作者: 笙子
ラカン女王国ーサバイバル編
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05.昔取った杵柄は使え

鳥が鳴いている。

朝のまどろみの中で、一番に感じたのはそれだった。


私にとって鳥の鳴き声で一番身近なのは、朝に聞こえる雀の可愛らしい鳴き声だ。

でも今聞こえる声は、それとは全く違う。

低く警告するような、少しカラスの鳴き声に似た声。


覚めかけた柔らかな眠りの中へ押し入ってくる、聞きなれない鳥の声に嫌な予感を感じながら目を開く。

目前に相変わらず広がっている森に、私は昨日の体験が本物だったことを思い知った。



寄りかかっていた木から身を起こし、目をこすって腕時計を見ると今は午前7時30分で、無事に朝を迎えられたことにほっとする。

周囲の森も朝を迎えて、昨日感じたほど陰気な雰囲気はない。

美しい朝日が差し込んで、寝起きの目には眩しすぎるほどだ。


でもその安心は長く続かず、もしかしたらしばらくの間誰にも見つけてもらえずに、森の中でさまようことになるのだろうかと、恐怖に取って代わられる。

もしも、もしもそうなったら。

十分な水も食料も持っていない、何のサバイバル技術もない私が、助かる見込みはあるのだろうか。

持って一週間程度だろうか、いや、もっと短いかもしれない。

死んでしまうのかもしれない、この森の中で。

考えは悪い方向へ急速に転がっていく。

遭難が長引くことへの不安がどんどん増していき、自然に目頭が熱くなってくる。

恐怖で叫びだしそうだ。思わず手で顔を覆ったその瞬間。




ぐるるるるる、と聞きなれた音がお腹から聞こえた。



こんな危機的な状況で盛大に鳴ったお腹に、自分のことながらなんて緊張感がない体なんだろうとあっけにとられてしまう。

同時に不安になっていたのが馬鹿らしくなってきて、私は泣いて貴重な水分を無駄にするのをやめることにした。

落ち着こうと、深呼吸を繰り返す。

確かに私は食料も水もほとんど持ってない。何のサバイバル技術もない。

でも、今パニックに陥って絶望しまうことは、助かる可能性を切り捨ててしまうことだ。

諦めるのは、本当に最後でいい。

そう考えると、さっきの取り乱した気分は静まって、小さな希望が胸に湧いてきた。

バッグからチョコレートの袋とペットボトルを取り出して、ほんの少しだけ朝食をとることにする。

生き残ってやる、と決意を込めて噛み砕くチョコレートは、いつもよりずっと濃厚な味がした。



食事を終えた後、凝り固まった手足を曲げ伸ばしする。

一晩中座り込んで眠っていたので、関節がぎしぎしと音を立てて痛んだ。

ゆっくりと足をさすって、感覚が戻ってくるのを待ちながら、これからどうしようかと考える。


まず、一番必要なのは水だ。

ペットボトルの中の水は、もう3分の1ほど飲んでしまっている。

今日か、最悪でも明日中に水を見つけないといけない。

そうでなければ、脱水症状を起こして倒れてしまうだろう。

でも、周りの乾いた木々たちは、この辺りに水がないことを伝えている。

歩いて別の場所に行くしかないな、と黒っぽい幹やしなびた葉を見ながら考える。


昨日のようにあてどなく歩き続けて、水のあるところに行けるだろうか。

なんだかそれは、ひどく割の悪い勝負に思えた。

昨日あれほど歩き続けたのに、ほとんど景色が変わらなかったことを考えると、むやみに歩くのはまずいだろう。

もっと広く森を見渡せる場所はないだろうかと考えて、ふと高くそびえる木に目をとめる。


そうだ、木に登って高い位置から森を見てみよう。

そうすれば、水のありそうなところが見えるかもしれない。


我ながらいいアイデアを思いついて、意気揚揚と登れそうな木を探す。

高くて、幹がでこぼこした枝の多い木がいい。

木のぼりは小さい時に少しやっただけだけれど、この際自信がないなんて言ってられない。


少し歩いて登れそうな木を見つけると、私は軽装になって慎重に登っていった。

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