04.ウォーキングは計画的に
歩き続けても、景色はほとんど変わらない。
途中で、もしかしてきた道をぐるぐる回っているのではと疑い、それからは木が作る影の位置を注意深く見て、同じ方向へ歩き続けたぐらいだ。
行けども行けども続く、陰気くさい枯れた森にいい加減うんざりする。
足の痛みが限界になり、倒れた幹に座り込んだのは午後6時ごろで、歩き始めてから4時間もたっていた。
日も暮れかかってきたらしく、夕焼けの直前だろう赤っぽい光が森の中にも差し込んできている。
どうやら今日中にこの森を出るのは無理そうだ。
疲れのせいで恐怖はほとんど感じず、私は一晩を森で過ごす覚悟を決める。
野宿の覚悟を決めたのと同時に、なんで私がこんな目に、と怒りが湧き上がってくる。
私はただ、図書館へ行こうとしただけなのに。
どこかの誰かにさらわれて、結果的に遭難している。こんなわけのわからない場所で。
犯人を見つけたら絶対にただでは置かない。
復讐のためにも死ぬもんかと決意して、私は野宿の準備を雄々しく始めた。
長時間歩き続けたせいでのどが渇いて仕方なかったが、持っている水は出掛けに持ち出したペットボトル一本分しかない。
できるだけ水は温存することに決めて、3口ほど加減しながら水を飲む。
考えたくないけれど、もし遭難が長引くなら、何とかして水を見つけなきゃ…。
明日はできるだけ水を探してみよう、と決心してペットボトルをバッグに戻す。
野宿は当たり前だけど初めてで、勝手が全く分からない。
水の次に必要なのは食べ物だろう、と考えてバッグの中を引っ掻き回すと、先日コンビニで買ったチョコレートの袋が一つ出てきた。
迷った末に少しだけ食べて、水もまた1口のんでおいた。
そうしているうちに日はどんどん弱っていき、風も冷たさを増していく。
不意に寒さを感じて、取り出したマフラーをぐるぐると巻き付ける。
歩き続けているときはそれほど寒いとは思わなかったが、よく考えなくても今は冬だ。
夜になればもっと寒くなるだろう。
テレビでやっていたサバイバル番組ではどうしてたっけ、と必死で考える。
暗い場所で火おこしをした経験なんて、あるわけがない。
適当に乾いた細い枝と、板のようなものを拾ってきて、必死でこすり合わせて火を起こそうとしたが、煙ひとつでない。
懸命に頑張ってみたが、掌に豆がいっぱいできて、この調子ではとても続けられない。
あきらめの良い私は、寒い中我慢するしかないな、と役に立たない枝と板を投げ出した。
今着ている冬用のコートは羽毛が入っているタイプで、かなり暖かいから最悪でも凍死はしないだろう。
マフラーもあるし。……たぶん。
地面もだんだん冷たくなってきていて、とても寝転がる気分にはなれない。
私は倒れた幹に背中を預けると、座り込んで今日起きたことを考えようとする。
でも、私はひどく疲れていたらしい。
いい夢で始まった日は、あの花畑とは似ても似つかない、最悪な森の中で終わろうとしている。
最後に感じたのはそれだけで、あっという間に私の意識は眠りに沈んでいった。