03.悩んだときには場合分け
最初に気付いたのは、顔の半分が押し付けられている、乾いた土の感覚だった。
うっすらと目を開けると、明るい茶色の地面が目の前に広がる。
どうして地べたで眠っているのだろう、とぼんやりした頭で疑問に思う。
その瞬間、全身が浸かった水の感覚を思い出して、私は一気に覚醒した。
はっと身を起こすと、周囲の景色は一変している。川岸の土手の、あの冬ながらのどかだった風景がどこにもない。
周りに広がっているのは、乾いた土の地面と黒っぽい幹をした木々ばかりだ。
自分の置かれた状況が理解できずに、ぽかんと間抜けな顔をしたまま辺りを見渡す。
きょろきょろと見渡しても景色は変わらず、どこか陰気な森が目の前に広がっている。
次第にあっけにとられていた気分は去り、じわじわと恐怖が浮かんできた。
状況を整理しようと、必死で頭を働かせる。
確か私は、図書館に本を返しに行く途中だった。
で、強風にあおられて川に落ちた。
記憶がないところを見ると、その後は気絶したらしい。
目が覚めたら、見覚えのない森の中。
ここまで振り返って、私は3つの可能性を考える。
①誰かが私を川から引っ張り上げた後、森の中に運んで放置した。
②単純に、私は夢を見ている。
③溺れ死んで今は天国にいる。
……①、だろうか?
冷えた空気の中に混じる木の匂い、乾いてひびが入った土、日差しを遮っているしなびた沢山の葉。
周囲の景色は夢にしては精巧で広大すぎ、天国にしては禍々しすぎる。
呆然と座り込んでそんなことを考えていると、どこかで鳥が大きな声で鳴いた。
はじかれたように立ち上がり、周囲を見渡しながらショルダーバッグの紐をぎゅっとつかむ。
怖い。いったいここはどこなんだろう。
恐怖に駆られてやみくもに走り出しそうな自分を必死で抑える。
落ち着け。パニックになって逃げたところで、まともな場所に出られるかはわからない。
私は深呼吸をして、腕時計を見た。
愛用の黒ベルトの時計は、午後2時を指している。
家を出たのが大体午前9時過ぎだったから、今は気絶してから約4~5時間後だろう。
もし今日中に帰れなくても、いずれ家族も心配して探してくれるはずだ。
そう言い聞かせて自分を納得させようとしても、恐怖はなかなか去ってくれない。
とてもじっとしていられなくて、何かに急かされるように、私は暗い森の中をゆっくりと歩きだした。