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エリカ  作者: 笙子
ラカン女王国ー魔女試験編
29/36

29.観戦はこりごり

獰猛に光る一つ目、ざらつく黒い毛皮、突き出して見るからに危険な牙。

間違いない、森の中で私が対峙した化け物だ。


見慣れぬ人間がいることに、武骨な魔物は一目で気付いた。

ティザさんに向かって恐ろしい唸り声をあげ、無礼な侵入者を排除しようと走り出す。

巨体に似合わず四足で素早く走り、あっという間に距離は詰まっていく。



ティザさんが危ない、と焦って見下ろした私は思わず絶句した。

驚いたことにティザさんも、魔物に向かってまっしぐらに駆けていく。

魔物は目の前に迫るティザさんに、凶暴な牙を突き刺そうと口を大きく開けて迫った。


赤く光る舌、歓喜の鳴き声、象牙色の大きな牙。

私なら、面前に広がる光景だけで失神しそうだ。

でもティザさんは違った。紙一重で牙を避け、鋭い剣で切り込みながら側面へ回り込む。


魔物の慟哭が響く。そこには先ほどの歓喜はなく、思わぬ怪我をさせられたことへの怒りで満ちていた。

魔物は長い尻尾を、鞭のように振りかざして周囲の木々をなぎ倒す。


ティザさんは魔物の尾を警戒したらしい。

なぎ倒された木を目くらましに使いつつ、魔物から素早く距離を取る。

足場が悪いにもかかわらず、蝶のように軽やかだ。


怒りに燃える魔物は、優美な蝶を見逃す気はないらしい。

ティザさんを追いつめようと、爪と牙を使って派手に攻撃する。

でもティザさんは攻撃の軌道を読んでいるかのように、ギリギリのところで全てかわしていく。

魔物の攻撃は、派手に木を倒し地面をえぐっているだけだ。



でも、逃げるばかりで反撃を一切しないなんて、劣勢なんだろうか。

心配でたまらず、ハラハラしながら見つめていると、妙なことに気付いた。

ティザさんはただ逃げているわけではなく、見通しのいい岩場へ魔物を誘導しているようだ。


あんなところへ逃げ込んでも、目くらましに使えるものがなくなって余計に不利になるだけだ。

そう思って口を手で押さえるが、あっという間にティザさんと魔物は岩に囲まれて開けた場所に出てしまう。


一瞬、ティザさんと魔物が見つめ合った。

魔物は勝利を確信したように一声高く鳴くと、ティザさんに向かってワニのようになった恐ろしい口を開いた。


負けた、と吐きそうな思いで確信した瞬間、ティザさんの持つ剣が青い光に包まれる。

突然の眩い光に、魔物は怯んだように立ちすくんだ。


刹那、魔物の形が崩れる。


ティザさんの前に立ちはだかっていた巨体は、真っ二つになって剣の持ち主の足元に転がっていた。

魔物の背後にあった巨大な岩までが砕かれているのを見て、私はやっとティザさんが強力な斬撃で魔物を狩ったことを理解した。




ふと光景が滲み、歪んで見えた。

目が眩んだのかと思い、両目をこすってもう一度見つめる。

でも見え方は変わらず、魔物の輪郭がぶれて歪んでいく。


一瞬恐怖に包まれるが、私の目が変なのではなく、魔物の亡骸から黒い煙が幾筋も立ち上がっているのだと気付いた。

あっという間に全身から煙が上り、氷が解けるように魔物の亡骸が小さくなっていく。


目の前で亡骸は全て煙に成り代わり、それすらも風で流され散らばっていく。

黒い煙がはれた後、地面には骨すら残っていなかった。

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