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エリカ  作者: 笙子
ラカン女王国ー魔女試験編
28/36

28.文化祭で十分

カリーティザさんから多くのことを聞き、自分がどうしてここに来たのか理解した私は、部屋で一人になった後、呆然としながら横になった。

瞳を閉じ、どうやら大変なことに巻き込まれたらしいと実感する。

同時に、今後のことを考えないと、と理性が言うのに構わず、ひどい疲労感が襲ってきた。


慣れない魔法の試験を受けたことや、魔女や悪魔の話が効いたらしい。

ほとんどすぐに眠ってしまった。



夢も見ずに爆睡している私の部屋に、カリーティザさんが来たのはまだ星が出ている時間だった。

この世界には電気なんて便利なものはないらしい。カリーティザさんは蝋燭が揺らめく銀の燭台をデスクに置くと、私に森に行く準備をするように言った。


私に拒否権があるはずもない。

しぶしぶ渡された服に着替えたが、コートと靴だけは元の世界のものを身に着けた。朝は寒くて、とても防寒具なしでは出られない。


ティザさんは簡易な白シャツと紺色のパンツ、それに膝まである黒いブーツを履いていた。

でもファッションで一番目を引いたのは、腰に下げた二本の剣だ。

両方とも長さはないが、とても使い込まれていることは一目でわかった。

ああ、嫌な予感がする。



神殿を正門から抜け、マルスさんやジーナさんと歩いた道を逆にたどって森へ向かう。

まだ時間が早すぎるせいだろう、人っ子一人見えず、村も神殿もまるでゴーストタウンだ。

久しぶりに外へ出たのに、周りがさみしすぎて嬉しさは全く感じない。

この調子では、私たちが出会うのは幽霊だけだろう。



夜明けを迎えたばかりの森は、まだ光が十分に差し込んでこない。

前に揺れる長い、柔らかそうなカリーティザさんの金髪だけが、ほの暗い中で控えめに輝いている。

その光を目印にして、驚くほど薄着のカリーティザさんを追う。

森の中で迷子になるのは、二度とごめんだ。


「あの、カリーティザさん。今日終わらせる仕事って、魔物の退治ですよね?」

腰の剣を見て諦めはついたけれど、万が一そうでなければいいな、という気持ちを込めて聞いてみる。


「ええ。今回の相手はさほど手強くはありませんが、油断は禁物です」

やっぱり私の甘い期待はすぐに終わった。

カリーティザさんは、今日は昨日の穏やかな様子と違い、仕事前のせいかどこかピリピリした口調だ。


「それとエリカさん、試験に合格した以上、あなたはもう魔女の一員です。

よろしければ、私のことはティザとだけ呼んでください」

丁寧な言い方だが、どこか声に緊張が混じるせいで硬く聞こえる。


年上の人を呼び捨てにするのは抵抗がある。

でも、相手はこれから大変な仕事をする人だ。

邪魔をしたくない一心で、分かりましたと返してその後は無言で後を追った。



私がマルスさんとジーナさんに拾われた川辺を超え、森の奥へと向かう。

太陽が段々と顔を表し、周りは日の光で満たされていくのに、なぜか次第に森の雰囲気が暗くなっていく。

不思議に思ってほどなく、木が水源から離れ、黒っぽく乾燥し始めているためだと気付いた。


陰気な森を進み行くうちに、妙なものが目に付く。

倒れている木の様子がおかしい。自然に腐って倒れたというより、まるで重機に根元をへし折られたかのようだ。


「魔物はこの辺りを根城にしているようですね。

大きな音を立てず、私から離れないようにしてください」

ティザさんは無残な大木を見て、私を振り返って厳しい声で言った。

こんな怪物に襲われたらたまったものじゃない。

私は黙って頷き、傍へぴったり引っ付いて歩き出した。



魔物にどんどん近づいているのだろう。明らかに痕跡が増え始めた。

木の幹には鋭いかぎ爪の跡がつき、異様に大きな足跡が地面に残っている。

中には獲物が食い散らかされた跡があったりして、私にはほとんどお化け屋敷だ。

ティザさんの背中に顔をうずめるようにして耐えるが、正直言って今すぐ帰りたい。



「この木に登ってください。何が起ころうと、降りてはいけませんよ」

しばらく歩いた後、ティザさんは古い大きな木の真下で真剣に命じた。


「あ、はい。大丈夫です、絶対に降りません」

やった。これで恐ろしい森の中を歩かなくて済む。

目の前の恐ろしい光景と比べて、太くて丈夫そうな木は私に安心感を与えた。


でも間抜けなことに、登り切った直後に魔物は大きな木を倒せるのだから、別に木の上が安全ではないと気付いてしまった。


パニックになって木から降りようとした私に向かい、地面に立つティザさんが掌を向ける。

ストップと言っているのかと思って動作を止めると、ティザさんの掌の前に青い光が集まっていく。


「防御膜を張ります。これで貴方に害が及ぶことはないので、安心してください」

野球ボールぐらいになった光は、ティザさんの掌から離れ、樹上の私に絡みついた。

光の玉はすぐに大きい膜になって私を包み込む。

膜はうすい青色をしているが、周囲の光景は問題なく見える。薄い色のサングラスをかけた時のようだ。


お礼を言おうと口を開いた瞬間、地震のように低い地響きが聞こえてきた。

ティザさんは腰の剣を抜き、強い目で森の奥を見据える。


瞬間、銀の鉤爪を閃かせ、一つ目の化け物が森の奥から現れた。

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