24.カレーピザ?
『旧語を話されるそうですが、私の言葉はわかりますか?』
そういって、美女は小首をかしげる。
大人っぽい美人なのに、仕草はどことなく可愛らしい。
『え、ええ。大丈夫です。わかります』
突然入ってきた美人に圧倒されて、質問に答えるのも一拍遅れてしまう。
こんなに綺麗な人は、雑誌や映画でしか見たことがない。
美女は私の答えを聞くと、安心したようにホッと息を漏らして、優しく微笑んだ。
つい、つられて私まで微笑んでしまう。美人の笑顔、恐るべし。
『よかった。では早速ですけれど、いくつか質問させてくださいね』
……質問?
『あなたのお名前は?』
戸惑う私に構わず、美女は懐から小さな手帳と黒い万年筆を取り出すと、真剣な顔つきで聞いてきた。
『エリカです。長谷川エリカ』
突然のことに驚くが、条件反射で答えてしまう。
『おいくつですか?』
『17歳です』
『家族は何人ですか?』
『3人です。両親と妹、それに犬が1匹』
一体何のつもりなんだろう。
戸惑う私に構わず、美女は手帳に答えを素早く控えていく。
でも速記できたのはそこまでで、話は出身地、親の職業、通った神殿などに及んできた。
もちろん素直に答えられず、『覚えていません』の一言で会話は終了してしまう。
短時間で尋問は終わり、美女は手帳を見ながら何か考え込んでしまった。
和んだ気持ちは消えて、焦燥感が込み上げてくる。
これでは不審者だと思われるだけだ。シドの時と変わらない。
「いかがですか、カリーティザ様。なにかお分かりで?」
扉のそばに控えたシドが、皮肉っぽい声で美女に訪ねた。
用心深く隠しているけれど、瞳には美女への敵意が溢れている。
「……そうですね。この子自身の情報は、ほとんど得られませんでした」
手帳を見ながら、カリーティザさんはどこか物憂げに返事をした。
顔を上げ、何かを迷っているような表情で私を見つめてくる。
どうしよう。自分の身元を明かしたほうがいいんだろうか。
でも、もしも迫害されたら?
迷いに揺れて決心がつかず、唇をそっと噛んでしまう。
息を止めて視線に耐える私を見て、美女は決心したように手帳を勢いよく閉じた。
「神官補佐殿。少しの間、私と彼女だけにしてくれますか?」
柔らかい口調で、美女はシドに向かって声をかけた。
シドは一瞬不快そうに口元を引きつらせたけれど、すぐに一礼して部屋から出て行った。
『エリカさん。身元を明かしたくない理由があるなら、無理に詮索はしません』
カリーティザさんは2人きりになると、優しい微笑みを浮かべて私に向き直った。
『ですが、魔女連盟にも規則があります。万人を受け入れるわけではありません』
口調が優しいから、余計に聞くのがつらい。
好きで不審者になったわけじゃないのに。
邪険に扱われるのは、とても悲しい。
いっそ身元を明かしてしまおう、と口を開いた瞬間、驚くような一言が聞こえてきた。
『なので、エリカさんには一つ試験を受けていただきます。合格すれば、魔女連盟の一員として迎えましょう』




