19.おひとり様の勇気
とても静かだ。
人がやってくるどころか、物音一つしない。
最初はおとなしく座っていたが、だんだん誰も来ない部屋で行儀よくしているのが馬鹿らしくなってきた。
後ろへひっくり返り、ぽすんと音を立ててベッドへ背中を預ける。
このベッドはちょっと硬いけれど、野宿を経験した身には極楽だ。
頭の後ろで手を組み合わせ、枕にしながら考える。
ベルフェゴール。あの人は結局何者だったのだろう。
発言を思い返してみても、ベルフェゴールは私のことを異様によく知っているようだった。
言葉が違っていること、監禁されていること、なによりここが異世界であること。
大切な情報をいくつもくれたが、結局帰る方法を教えてはくれなかった。
その代りに言った言葉が、「とにかく生き残れ」だ。
それにメッセージカードに書いてあった、『あまり泣いてはいけないよ』という言葉。
あれが妙に引っかかる。
あの言葉はまるで、私が泣くところを実際に見ていたようだ。
つまり、私の勘が正しいならば。
ベルフェゴールは私のことを、森にいた時から観察していたのかもしれない。
そんなわけないと理性は否定するけど、でもここは魔法がある世界だ。
何があってもおかしくない。
「うっわあ……」
思わずうめき声が出る。
森の中でパニックになって泣き叫んでいた姿を見られていたなんて、もし本当だったら死ぬほど恥ずかしい。
そこまで考えて赤面すると同時に、ぞっとするような事実に気が付く。
もしこの考えが正しければベルフェゴールは、私が狼に襲われた時や化け物に出くわした時に、見ていながら助けなかったということになる。
ということは、今後また命の危険が迫っても、ベルフェゴールの助けは期待できないってことだ。
「……考えすぎだ」
認めるのが恐ろしくてそう声に出してみたけれど、力が入らず弱弱しい声が出てしまう。
たしかに考えすぎだろう。
でも、見知らぬ世界で一人きりなのは事実。
それが今本当の意味で理解できた。
今までなんて甘えた勘違いをしていたんだろう。
泣いて誰かに助けを求めるだけだった自分を思い出して、顔から火が出そうになる。
誰も私を知らない。誰もあてにできない。自分一人で解決するしかない。
「…絶対に生き残ってやる」
こんなところで死んでたまるもんか。
そう決心して起き上がった瞬間、かちゃりと音がしてドアが開く。
白い頭巾をかぶって、お盆を手に持ったジーナさんが顔をのぞかせた。




