18.理想の睡眠は8時間
今後、異世界で一般的に使われている言葉は「」で、日本語や書き言葉は『』で表示します。
見知らぬ天井が、目の前に広がっている。
カーテンの隙間から光が入って、一筋淡い光が走っている部分が特に眩しい。
丹念に磨かれた白い石の天井は、清潔そうだけれどどこか冷たい印象だ。
ゆっくりと身を起こす。
周囲は天井と同じ材質の壁に囲まれた、さほど広くない部屋だ。
「いたた……」
辺りを見渡していると、ふいに目の奥に鈍い痛みが走る。
朝に弱いのはいつものことだけど、これは低血圧のせいじゃなくて、寝すぎた時に感じる鈍痛だろう。
腕時計を見ると午前6時で、ほとんど半日気絶していたことが分かった。
気を失ってから覚醒するのは2度目だけれど、もうだいぶ慣れたらしい。
さほど戸惑う時間は長くなく、すぐにここがどこだったか思い出す。
ここは異世界。ラカン女王国。小さな神殿の一室。
私の知らないものが山のようにある世界。
ベルフェゴールから聞かされた話は、不思議なほど覚えていた。
まるで記憶に焼き付けられたかのようだ。
記憶が鮮明であればあるほど、夢であってほしいという気持ちが強くなっていく。
とにかくこの部屋から出たい。外の空気を吸って考えをまとめたい。
それだけを思って立ち上がり戸口に近づくと、扉にメッセージカードが張り付けられているのに気付いた。
『おはよう。昨夜はよく眠れた?
これから大変だと思うけど、あまり泣いてはいけないよ。
悲観しすぎず頑張ってね。------ベルフェゴール』
見たこともない文字なのに、なぜかすんなり意味が理解できる。
多分アルファベットに近いんだろう。同じ文字が何度も文中にあるのが見て取れた。
ああ、本当に魔法が存在するらしい。
外国語が一瞬で理解できるようになる魔法。できれば元の世界でかけてほしかった。
「うあ!?」
もっとよく見ようと触れた瞬間、カードが緑色の炎に包まれる。
絶句する私に構わずカードはメラメラと燃え上がり、あっという間に燃え尽きた。
灰すら残っていない。
扉にも私の指にも、一切痕跡を残さずカードは消えてしまった。
……すごい。
まさかこの目で、本物の魔法が見れるなんて。
ベルフェゴールは怪しかったけれど、本当に魔法使いだったんだ。
衝撃が覚めないまま半ば無意識にドアノブを回すけど、びくともしない。
鍵はかかったままのようだ。
仕方なく部屋へ引き返し、カーテンを開ける。
窓ははめ殺しだし、換気口もごく小さなものしか見当たらない。せいぜいこぶし大といったところだろう。
どうやら脱出は無理そうだ。
私はベッドに座って、誰かがやってくるのをおとなしく待つことにした。




