14.でもなんで梅?
ノッカーの年代物らしい重厚な音が響いてすぐに、一人の男性が門を開いた。
30代前半くらいで、薄茶色の髪と水色の目をした男性だ。
修道士なんだろう。引きずるほど長い、黒いローブを着ている。
男性はマルスさんと軽く挨拶を交わした後、いぶかしげに私を見つめた。
マルスさんは男性に向かって帽子を取り、丁重な態度で話し始める。
内容は私のことだろう。話の流れの中で、私を胡散臭そうに見る回数が増えていく。
普段ならむっとするほど不躾な視線だったけれど、今はなんだかいたたまれなくて、私は地面に目をそらした。
いくら若い女でも、森の中から出てきてしかも言葉の通じない外国人じゃ、不審者扱いで当然だ。
それでも話が終わると、男性は軽く頷いた後、私たちを通してくれた。
門前払いされなかったことに少しほっとしてしまう。
ジーナさんに続いて門をくぐると、白い小石を敷き詰めた小路が教会に続いていた。
泥だらけの靴で踏むのがためらわれるほど綺麗な道だ。でももっと綺麗なのは、周りを囲んだ中庭にある花壇だった。
教会のイメージに合わせたのだろうか、雪と見間違うほど白い花が沢山咲いている。
花の色こそ白で統一されているが、種類は多様らしい。茎の長さや葉の形もそれぞれ違っているのが遠目からでもわかる。
一色だけの花壇なんて珍しくて、歩きながらつい見とれてしまう。
ふと教会のそばに立つ背の高い植物に気付いた。
あの植物だけ、なんだか雰囲気が違う。
そう思ってよく見ると、その植物は白い小さな花を沢山つけた、立派な梅だった。
どう見ても外国なのに、なんで梅?
不思議に思ったが、これ以上疑問が増えるのが嫌で無視をする。
普通に考えて教会に梅はミスマッチだけれど、ここでは不思議に調和していた。
この協会は柱が多くて、とても開放的な造りをしている。
そのおかげで梅とも合うんだろう。鐘を除けば教会というよりギリシャの神殿のようだ。
梅のそばを通って手すりのない階段を上り、大きな扉をくぐって室内に入る。
ガラスを使った大きな窓に囲まれた、広いホールだ。
花で飾られた庭に比べて、内装はずっと地味に整えられていた。教会に多く見られるステンドグラスさえない。
私たちをここまで案内した男性は、ジーナさんに向かって数語話しかける。
ジーナさんはほっとした様子で男性の言葉に頷き、私に向かって微笑みかけると、手でついてくるように合図をして歩き出した。
ジーナさんは教会に詳しいらしい。
迷わず通路を進んでいき、小さな扉がずらっと並んだ廊下へたどり着くと、私に部屋へ入るように促した。
扉を開けると、大きな楕円形の窓が目に入る。家具は白いシーツのかかったベッドと、木製のデスクとイス、あとは小さなチェストだけだ。
数日ぶりに見るまともな寝床に感動する。ああ、今日はここで眠りたい。
ベッドの誘惑に屈しそうになった瞬間、ジーナさんがチェストから数枚服を取り出し、渡してくれた。
黒い長袖の刺繍の入った上着、白いシンプルなチュニック、黒いぴったりしたズボン、下着までそろっている。
お礼を言いながら慌てて受け取ると、最後に小さな籠を渡してから数語私に話しかけ、ジーナさんは部屋の外へ出て行ってしまう。
一瞬ぽかんとしてしまったが、多分これに着替えるよう言ったのだろう。
森の中で駆けずり回ったせいでドロドロになった服を籠に入れ、清潔な服に着替えると生まれ変わったような気がした。




