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エリカ  作者: 笙子
ラカン女王国ー神殿編
13/36

13.鳩がいれば完璧

『エリカ、-----------』

優しく私の名前を呼んで、ジーナさんが土に塗れた私の手をさすってくれる。

人の手はなんて暖かいんだろう。

自然に震えが止まり、気持ちが安らいでくる。


落ち着いた私の様子を見て、マルスさんとジーナさんは数語話し合い、私の手を引いて森の中へと歩き出した。


森の中の獣道を通り抜けていく。

人と一緒にいるだけで、あれほど怖かった森が別物のようだ。

腰に大きなナイフを下げて、周りを警戒しながらマルスさんが先頭を進む。

私も今まで同じように用心しながら歩いていたが、マルスさんはこのあたりの道をよくわかっているらしい。

足運びに迷いがなく、進むスピードが段違いに早い。

ジーナさんは時折私に声をかけながら、手を引いてくれる。

言葉は通じないが、ありがとうと精一杯気持ちを込めて返事をし、つないだ手をそっと握り返した。

なんだか安心する。

ふと、両親に連れられて歩いていた、小さいころに帰ったような気がした。


30分ほど歩いただろうか。急に森が開け、木々がまばらになってきた。

歩いてきた獣道は、今では幅が大きくなって平坦になり、長年多くの人が歩いているようだ。

太陽は完全に登って、木々に遮られることもない。

数日ぶりにまともに浴びる日光に目が眩みそうだ。


急にマルスさんの姿が見えなくなった。

どうやら少し先が下り坂になっているらしい。

これから山を下っていくのだろうかと考えたが、それは違った。

下り坂に差し掛かった瞬間、下方に広がる小さな町に目を奪われる。

可愛い石造りの家が広い庭を隔てて立ち並び、数軒からは煙突からもくもくと煙が出ている。


まさかこんなに近くに人が住んでいたなんて。


ジーナさんは町を見て驚く私を振り返ると、町のはずれにある白い建物を指さして、首をかしげた。

あれが何かわかるか、ということだろうか。

目を細めてよく見てみる。

白い石造りの建物で、とても大きい。

他の家の周りには小さな柵しかないのに比べ、太い柱を使った立派な塀に囲まれていて、いかにも重要そうだ。

塀の上に見える尖塔には、金色に鈍く光る大きな鐘がついている。

その鐘を見るとなんとなく、ウェディングベルを想像してしまった。


私はジーナさんに向かって大きく頷いた。多分あれは教会だろう。

ジーナさんはなぜか安心したような顔になると、少し急ぎ気味に坂を下りきったマルスさんを追った。



町へ入っても、ジーナさんは私の手を引いたまま、止まらずにどこかへ向かって歩いていく。

今まで見たことがない街のつくりが珍しくて、私は辺りを見渡しながら2人についていった。

ほとんどの家は黄色い石の壁と屋根の赤い瓦を持っていて、絵本に出てくるヨーロッパの街並みのようだ。

遠くからは家同士の間には広い庭があるように見えたが、近づくと実際には畑があり、朝早くなのに水やりをしている人もいる。

すれ違う人が物珍しそうに私を見たり、マルスさんやジーナさんに声をかけたりしたが、2人は軽くやり取りをするだけで道を急いでいった。


だんだんと民家が少なくなり、牧草地のようなところが広がってくる。

一本道が続き、先に見えるのは白い教会だけだ。

ここまで来ると教会が、町を見下ろすようにしてそびえているのがよくわかる。

高い塀に囲まれた教会は、小さな町には不釣り合いなほど大きくて、威圧感を感じるほどだ。



道は教会の塀に沿って進み、正門へ続いている。

木製の大きな両開きの扉にたどり着くと、マルスさんは凝った装飾がされたノッカーを大きく2回鳴らした。

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