1/36
01.三大欲求の一つ、睡眠
目の前に広がるのは、色とりどりの綺麗な花々だった。
私は虫が嫌いだから土とも相性が悪いけれど、目の前の花畑には蝶々一匹飛んではいない。
まるで作り物のように美しい。でも漂ってくる花々の香りはまぎれもなく本物だ。
こんなに沢山の花は見たことがなくて圧倒される。花の中に飲み込まれそうだ。
驚いて周りを見渡していると、ふと正面に置かれた花瓶に気付いた。さまざまな色や高さの花の中に埋もれているが、木製の小さな台の上に何の変哲もない花瓶が置かれ、太陽の光を反射している。
花を踏まないように気を付けながら近寄ると、花瓶に活けられた花が目に入る。同じ種類の花ばかりを活けているようだ。
どうせ活けるのならもっといろんな種類を使って花束にすればいいのに、と考えながら気づく。
壺のような形の花。白い根元からだんだん色が濃くなり、ピンクを経て紅色になっていく花。
この花の名前は。
「エリカ」
思わず口にした瞬間、急速に意識が浮上する。
花瓶も台も花畑も、目の前にあるすべてがかき消えていく。
自分と同じ名前の花を遠くに残して、私は久しぶりに見たいい夢から目覚めた。




