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貴方に誓いを僕に光を  作者: 穂高絢乃(こむぎこ)
怪我人と森番さん
11/11

10 人殺しってどう思う?

「エマさんお帰りなさい、あの……アステルどうかしたんですか?」

「ごめんねカーラ君、全部このおじさんが悪いの」

「おじさんっておま……おにいさんだよ! エマの夫のジャンおにいさんだよ! ねぇ!」

「分かったからちょっと黙って」

「すみません」


 カーラとエマとそれからジャンおにいさんの3人は、玄関口で声をひそめて話し合う。

 玄関のすぐ隣の客間にいたカーラが「お帰り」と声をかけるより早く、借りている寝室にさっさと籠もってしまったアステルについて。


「ジャンがいい歳してアステル君に喧嘩ふっかけたのよ。ごめんね」


 申し訳なさそうに眉を下げるエマにカーラは、


「ケンカってどっちの方ですか? こう、悪口言ったりとか……それともこういう……」


 と小さくファイティングポーズをとってみせた。


「ジャン、あれどっちなの?」

「……どっちも……かな」

「どっちもだそうよ」


 どっちも。

 そのどっちもの結果は、一体どうだったのだろうか。

 落ち込んでいるのか怒っているのか少し判断がつきづらいものの、あれだけまっしぐらに部屋に向かってしまったのだ、恐らく――


「俺ちょっと行ってきます」


 そう言うや否やカーラは早足で部屋に向かっていってしまった。

 まだ僅かに右足を引きずりながら。


「……俺も行ってきたほうがいいかな……」


 遠い目でカーラの去った廊下を眺めながらぼそりと呟く。

 そんなジャンに「さあね」と首をすくめて見せてから、


「大丈夫じゃないかしら。少し時間置いてから、仲直りしてね」


と微笑むエマ。

 が、不意に「あ」と小さく呟いた。

 考え込むように顎に手をあて、


「そうだ……すっかり忘れてたわ。ジャン、一度しか言わないからよく聞いて」

「え? はい! え? 何? すいません……?」


 頭上にクエスチョンマークを並べつつおたおたと謝るジャンの瞳を、真剣な面持ちで見つめる。

 それから、ふわりと溶けたように微笑んだ。


「おかえりなさい」


  ▼


「アステル……?」


 コンコンと乾いた音をたて合図を送る。

 返事はない。

 部屋の中からは、物音ひとつ聞こえない。


「入るよ」


 蝶番(ちょうつがい)が小さく軋んで音を立てる。

 廊下と部屋を隔てる木製の扉の向こう側で、紅茶色の髪の少年は窓際に座り外を眺めていた。

 名前を呼んでも返事がない。

 近付いて、肩を叩いて、そこでようやく彼はカーラの方へゆっくりと顔を向けた。


「……どうもカーラさん」


 へらりと笑ってアステルは席を立ち、そのまま少し乱暴にベッドに腰掛けた。

 かけ布団が反動でぼふっと膨らみ、そしてゆっくりとしぼんでいく。


「ただいまー」


 へろへろと微笑むアステルの正面、窓際の椅子に、カーラは心配そうに座る。


「だ……大丈夫……?」

「なにがー?」

「ん……」


 ――もしかして触れないほうが良かったのか、それとも俺は別に気にしなくていいことを気にしてしまったのか。


 カーラは今更のように思う。無神経だっただろうか、と。

 やむを得ず、窓ごしにかすかに聞こえる小鳥のさえずりや森が発する静かな環境音に耳を傾ける。

 じんわりと拡散していく安心。

 なるほど、この場所が心地良い訳だ。


「あのさぁ……カーラさぁ」


 ぼそりと、アステルが口を開く。


「ん?」

「人殺しってどう思う?」


 何でもないことのように呟かれた言の葉。

 それは、カーラを絶句させるに等しい重さを持っていた。


「……なんでそんなこと言うんだよ」


 やっとの思いでそれだけ聞き返す。

 相変わらず掴みどころのない笑みを浮かべるアステルは「剣って危ないなーって思ってさー」と小さく首を傾げて言った。


「オレ、あと一歩で人殺しになってたかも」


 沈黙。


 カーラは困惑した。

 どう言えばいいのか、どう返してほしいのか、解らないのだ。


 ただ黙ってアステルを見つめる。

 自分がどういう表情をしているのかもよく解らなかった。


「でも……」


 ぽつりとアステルは呟き、そして――ぷっとふき出した。

 そのままクスクスと笑いだす。


「でもねー、エマさんすごい強かったよー。きっとジャンさんもだよね? あの2人相手に俺なんかが殺人出来るわけないよねえ。ははは」

「え、ちょ、ちょっとアステルお前、え?」

「あーごめん、うん、大丈夫だよ。いきなり笑ったりしてごめんね、オレ思いっきり変人だよね! 話聞いてもらったらなんかよくわかんないけどスッキリしたから、たぶん大丈夫」


 おいてけぼりをくらうカーラに笑いかけ、自己完結するアステル。

 納得いかない。

 無論カーラは納得いかない。


「え……っと、何があったんだ? 俺全然わかんねーんだけど……」

「あのねー、ジャンさんに12歳に見えるって言われてねー、言い合いになってかっとして剣振り回しちゃったんだよね。だけどエマさんが止めてくれたんだ」

「……確かにそれは危ないな」

「だよね? エマさんで良かったー」


 先ほどまでとは違うすっきりとした笑みを浮かべて、アステルは言う。


「やっぱ素人が武器なんか持っちゃ駄目だねえ。オレに剣は早いねー」



いつも章の流れだけ決めてあとは勢いに任せて書いているんですが(他の連載もです;)、今までで一番訳の分からない展開になってびっくりしてます。

主人公が剣捨てちゃだめでしょ…('ω')



更新が最近滞りまくっていて本当にすみません。

頑張るのでよろしくお願い致します。

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