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ブレイブ・フェザー!  作者: 斬空狼
第Ⅱ章 ~そうだ、長崎、行こう~
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番外編 第四翔 〜旭川麻火の家族関係〜

番外編第4回目〜!


それではどぞ〜!

ゴールデンウィーク1日目。

永路たちが長崎へ研修に行っているのと時を同じくして実家への帰路についた俺だったが…。


「は〜…」


モノレールを降車してから、溜め息を洩らす。

というか朝起きてからこのかた、溜め息しか吐いて無い気がする。



原因は勿論、親父の再婚相手とその娘―――つまり新しい家族との顔合わせだ。


永路にはああ言ったものの、いざ会うとなるとやっぱり躊躇ってしまう。


今更俺がとやかく言ったところで最早どうしようもないことではあることは分かっているんだが。


「はあ〜…」


おっと、また溜め息が出てしまった。

うーむ、いかんいかん。

溜め息をつくとその度に幸せが逃げて行くって、

よく死んだじいさんが言ってたっけ。

せめてこっから家に着くまでは、新しい家族の為にも幸せが漏れないようにせねば。





駅から歩いて早数分。

それなりの大きさの道場に隣接する、昔ながらの屋敷が俺の実家だ。


俺も詳しくは知らないんだが、結構由緒正しい空手の流派と道場らしい。


そう言えば春休みには入学説明会とかの手伝いで結局家に帰れてなかったし、帰省するのは正月以来と言うことになるのか。


『ピンポーン』


堂々とした門に似つかわしくない、小さな呼び鈴を押す。


どうでもいいけど、古いタイプのピンポンって押したら『ピン』って鳴って、離すと『ポーン』って鳴るんだよな。


『はーい、今出まーす』


おっとりとした女性の声がインターホンから聞こえ、少し間をおいて見知らぬ女性が家の中から姿を現した。


「こ、こんにちは」


「はい、こんにちは」


互いにしどろもどろながらも何とか挨拶を交わす。


「えっと、お、俺、壮一の息子で麻火っていいます」


俺が名乗った途端、女性は満面の笑みを浮かべた。


「まあ、あなたが麻火くん!壮一さんからお話は聞いてるわ!壮一さん、麻火くんが帰って来ましたよ〜!」


女性が家の中へ向かって叫ぶと同時に俺は荷物を投げ出し、防御の姿勢をとった。


何故かって?

それはだな―――


「帰ってきおったな、バカ息子おぉぉぉ!!」



ッ!しまった!

今回は二階からか!?


ハッとして見上げると綺麗に脚を上げて飛び降りてくる親父の姿が。


「クッ!」


「遅い!」


慌てて上段に構え直すも時既に遅し。


「ガッ!?」


俺の後頭部に踵落としが炸裂し、意識がトびそうになる。

が、ダウン寸前に親父のしたりっ面が見えた。


(相変わらずふてぶてしいドヤ顔してやがる…)


…何か段々腹立ってきた。


「こっ…ンなくそぉ!」


気合と根性で、朦朧としていた意識を叩き起こし、親父の顔面目掛けて上段足刀を放った。


命中!完璧だよーッ!

蹴りは親父の横っ面を捉え―――



「…ちったぁ成長してるみたいじゃねえか」


な、何ッ!

あんだけ綺麗に顔面に入ったのに効いてないだと!?



俺の渾身の蹴りを受けてなお、仁王立ちで不敵な笑みを浮かべる親父。


…足が当たっていて顔がとんでもないくらい歪んでいるため、全く格好はついていなかったが。


「ちっ!」


反撃を受ける前に足を戻し、三歩ほど距離を置き、いつでも親父を迎え撃てるように構えを取る。


「それなりに様になってきたようだが、まだまだ未熟だなオイ」


「うるせえよ。親父こそ、キレが悪くなってんじゃねえのか?」


お互いに構えを解くことも、動く事もなく憎まれ口を叩き合う。

この状況は、まるで俺と親父の仲を表しているようだった。


「…まあいい、今回はこれぐらいにしておいてやる」


そう呟いて構えを解くと、


「春子さん、ごめんね、驚かしちゃって」


と新しい母さんを気遣って、親父は家の中へ入っていった。


「……ったく」


親父の姿が視界から消えると一気に力が抜けて、俺はその場にへたり込んでしまった。


今のは、何というか、親父なりの『おかえり』みたいなモンだ。


俺も親父も素直じゃないからな。

帰宅の挨拶一つするのにもこんなにアホらしい苦労をする羽目になる。


変な意地張らずに、普通に『おかえり』と言えばいいものを。

って、それは俺もか…。


「痛たた…」




それにしても後頭部がズキズキ痛む。

どうにも踵落としのダメージが残っているみたいだ。


「…大丈夫?」


状況に付いていけずにオロオロしていた春子さんだったが、しばらくしておずおずと手をさしのべてくれた。


「あ、はい。何とか」


少し躊躇ったけど、俺はその手に捕まり、立ち上がる。



コレが、俺と新しい母さんの初めての親子間コミュニケーションとなった。






「ふぃ〜…」


極楽極楽。

やっぱりアレだな。

実家の風呂って何だか落ち着くよな。


「麻火くん、タオル置いときますね」


「あ、ありがとうございます」

「それと、これから壮一さんとお買い物に行って来ますので、お留守番よろしくお願いします」


「分かりました」


ドア越しの春子さんの声に、思わず姿勢を正してしまう。


別に浴室に入って来る訳じゃないし緊張する必要も無いはずなのだが、結局春子さんが脱衣場兼洗面所から出て行くまで、俺はずっと浴槽の中で正座していた。


「…なーにやってんだか、俺は」


春子さんが居なくなったのを感じ、思わず独りごちる。


…こんなんでこれから先、良好な親子関係を築いていけるのだろうか?


そう言や春子さんの連れ子、即ち俺の妹にあたる人にもまだ会ってない。

家の中にはいなかったみたいだけど、まだ学院から帰って来てないのか?


……うーむ。

考えてても仕方ないか。



頭ん中は未だに?マークで溢れかえってるけど、考え過ぎんのは俺の性分じゃねえし、取り敢えずは春子さんの事を『母さん』と呼ぶところから始めてみよう。


全てはそっからだ。


「…よし」


勢い込んで浴室を出る。


この時の俺は、春子さんのことを『母さん』と呼ぶので頭の中が一杯だった。


だからだろうか。


脱衣場に入って来た人影に全く気付かず、結構思い切り風呂場の扉を開けてしまった。


「「…ん?」」


そして、目の前にいたのは―――


「し、式町!?」


「あ、旭川先輩!?って―――」



俺の姿を見た瞬間、式町がフリーズした。


いや、俺も今まで考えてたアレコレが月まで吹っ飛ぶ程の衝撃を受けたのだが、式町のソレは俺とは違うモノのようだ。


例えるなら、そう。

まるで珍獣を見つけたかのような――――あ。



ふと自分の格好を見直す。

うん、一糸纏わねえ、生まれたときと同じ姿。


俺は温泉だろうと実家だろうと、風呂に入る時はタオルを腰に巻かない派だし、大体、自分ちの風呂に入る時にタオル巻くヤツなんてそうそういないだろ。


まあ、つまり、平たく言ってしまえば、俺は今。


全裸だ。



「イヤァァァァァァァ!!」


親父の踵落としに耐えた俺の体はしかし、式町のスナップの利いたビンタによって、強制的に再び浴槽に飛び込む羽目になったのだった。







「えーと、つまりアレか?式町が春子さんの連れ子で、春子さんの再婚相手が俺の親父。イコール俺はお前の義理の兄貴で、お前は俺の義理の妹になる、と?」


うん、我ながらまとまっているようで、その実全くまとまってない解説だな。


「ひぅっ!」


「いや、『ひぅっ!』じゃなくて」


「す、すいません…」


「いや謝られても…ええい…」


先程のビンタの勢いはどこへやら、目の前にはすっかり萎縮した式町が座っていた。


式町の悲鳴が2人には聞こえていなかったが、不幸中の幸いか。


…それにしても、出来過ぎだ。

いや、猫型ロボットが出て来る漫画の主人公のクラスメイトではなく。


この状況が出来過ぎだ。

永路のヤロー、これがわかってて―――ってそんなわけねえか。

もしこれが神様か運命のイタズラなら、マジで悪質だぞ。


俺は本来、神様も運命も信じないはずなんだけどな…。


式町はこの事知ってたのか?


「は、はい、一応」


尋ねてみると一応義理の兄として俺の名前は知っていたらしい。


なるほど、あの時のおかしな反応はそういう事だったのか。


「つーか、知ってたんなら教えてくれよ」


「ご、ごめんなさい…その、お義父さんに口止めされていて…」


あのアホ親父…。


「ったく、冗談じゃねぇっての…」


思わず親父への愚痴が零れた。


が。


「ひぅっ!や、やっぱり迷惑ですよね…私みたいなのが妹だなんて…」


どうにも、今の呟きが自分へ向けられたモノだと勘違いしてしまったらしい。


見ると、式町の顔は今にも泣き出しそうになっていた。


「あ、いや!今のは式町に言った訳じゃなくて…」


「いいんです、気を遣わなくても…どうせ私なんて只のネガティブですし…」


「…何かその物言いだとお前が『ネガティブ』と言う新人類か何かに聞こえるぞ」


「新人類…そうですね…いっそのこと、それもいいかも…」


「言葉のあやだ!本気にするな!」


お前は人間を辞めるな、式町ィィィィッ!ってそうじゃなくて!


ああもう、コイツ超面倒臭い!


こう言うヤツにはギャーギャー理屈こねるより、単刀直入にテメーの気持ちぶつけた方が早い!


思い立ったが吉日、善は急げ!!


「しきま…いや、四季!」


「ひ、ひぅぅぅっ!?」


心なしか、驚くリアクションが少し長かった気がする。

初めて俺から名前を呼ばれた事に戸惑ったかもしれないが、敢えてそれを無視して俺は話し始めた。



「あのな…何と言うか、そりゃ確かに俺だって驚いたぜ?お前のネガティブっぷりにも、そんな子が妹だったって事にも」


けどな、と俺は言葉を続ける。


「だからって俺はお前を嫌ったり、拒絶したりはしない!ネガティブだろうが何だろうが、そんな面倒くせーところも全部ひっくるめて、俺はお前を受け入れてやる!」


「…ッ!」



血の繋がりもない、ほんの少し前までは只の赤の他人だった俺が四季にしてやれることはその位だから。


これが俺なりの、新しい家族への覚悟だ。






しばらく無言だった四季がゆっくりと口を開いた。


「…優しいね…永路さんも、お義父さんも」


それに、と涙まじりに四季は俺に初めて笑顔を見せて言った。


「お兄、ちゃんも…」



「…え?」



四季、今、俺のこと、『お兄ちゃん』って呼んだのか?


決して『鬼井ちゃん』とか、『鬼威=張』とか、そんな時代が時代なら番長として君臨出来そうな名前じゃなくて、その、一般的な兄の呼称で、俺のことを呼んでくれた、ってことだよな…?


「どうしたの、お兄ちゃん?」



う、おおおお!

その時麻火に電流走る!

これはなかなかに、効くッ!


やべえ、三分前まで妹なんてただ面倒なだけだと思ってたけど、これはヤバい!



変な方向に目覚めてしまいそうだ!


「大丈夫ですかお兄ちゃん?何だか顔が赤いですよお兄ちゃん。何か飲み物持って来ましょうかお兄ちゃん?」


こ、コイツ!

俺を萌え殺す気か!?


誰か、誰か助けてくれ!


「ただいま〜」


「戻ったぞ〜」



ナイスタイミングゥ!

毎度の事ながら、俺ってばタイミングの神様に愛されてんじゃねえのか!?



こうして親父たちが帰宅したこともあり、四季の『お兄ちゃん連呼攻撃』から俺の理性は崩壊を免れる事が出来た。


だが…。






「ふぅ…」


自室のベッドに寝転がる。


それにしても、つっかれたー!

今日1日で色んな事が起こった…いや、起こり過ぎだろ明らかに。

一昔前の、美少女ゲームか…何か…よ…。


あ、いかん…。

気を抜いたら…一気…に…眠気…が…。


『ガチャ』


あれ…。

誰か…入って……き………。

駄…意識……。






ん…あり?

いつの間にか寝ちまってたみたいだ。

今何時だろ…。


寝ぼけ眼で携帯を探すと。


『ムニッ』


…ムニッ?

俺の携帯ってこんな肉まんみたいな音が出る程柔らかかったっけ?


「んッ…!」


「ん?」


今度は女の子みたいな声が出た。


…何だろう。

嫌な予感がする。

眠たい目をこすって、俺が触れているモノを凝視すると。


「!?!?!?!?!?」


あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ!


俺は携帯を見つけたと思ったら、四季の胸を触っていた!


な…何を言っているのかわからねーとは思うが(以下略)


「あ、お兄ちゃん…おはよーございます…」


「おはよう、じゃねえよ!」


今確認したけどまだ夜中の1時だよ!ってそっちじゃなくて。


「何でお前が俺の部屋で、俺のベッドで、俺の隣で寝てるんだよ!」


「……スキンシップ?」

いやいやいやいや!

スキンシップってレベルじゃねえぞ!

R指定なゲームのイベント一歩手前じゃねえか!!


「だってお兄ちゃん言ったじゃないですか、四季の全部を受け入れてくれるって」


「いや、確かに言ったけど…」


「だったら、今日はたっぷり甘えさせて下さい、お兄ちゃん♪」


にししっと今までにない愉快そうな笑顔を浮かべる四季。


あ〜…何となく分かった。

コイツはこれまでずっとネガティブな性格してたから、良くも悪くも誰かに対して甘えることが無かった、否、出来なかったんだろう。


恐らくその反動が来たのだ。


俺という、兄という存在が出来た事によって。



…いやまあ。


何か感慨深そうに口上並べてっけど、だからと言ってR指定イベントに突入する気はさらさら無いんだけどな。


「四季」


「はい?」


「取り敢えず、のいてくんない?」


「だが断ります」


ですよね〜。






拝啓、親友・進道永路。

お前が紹介した後輩は、どうやら高レベルの妹属性持ちであることが発覚したぞコノヤロー。



番外編・終わり。


多分しばらく番外編書くことはないと思いますが、書くとしたら麻火くんの専用機を出したいと思います。



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