第二十四翔 〜海の上、机の上、空の上〜
お久しぶりです。
今回から研修編が本格的♂にスタートします(アッー!。
少しだけ永路以外の視点も混じってます。
それでは、本編をどうぞ〜!
「お〜!見えた〜!」
「すげーッス!マジで海の上にあるッス!」
学院生用に手配されたホバー船の上で、例によって例の如く、阿久原姉弟が興奮した声を上げる。
長崎オーシャンスタジアム。
元々は一世紀以上前に海洋資源収集の為に作られ、廃棄されていた人工島を、FG協会が買い取り改修工事を施したモノだ。
今日から3日間、ここに世界各国のFG選手を志す養成学院生が集められ、研修が行われる。
「じゃ、技術科はこっちみたいだから」
「うん、また後で落ち合おう」
どうやらこの研修、競翔科、技術科、管理科でそれぞれカリキュラムが異なるらしい。
ファムやルシーヌさん達と別れ、僕と久宝さんはスタジアム内にある第2研修室に向かった。
「「おお…」」
思わず声を上げてしまう。
大学の講義室みたいなそれなりの大きさがある部屋の中で、各国の学院生(パッと見200人ちょっと位)がコミュニケーションを取っている。
「お?もしかして、日本の代表?」
座る席を探していると、近くを通りすがった頭に迷彩柄のバンダナをしたガタイのごっつい人に声を掛けられた。
「そうですけど、あなたは?」
「俺はダミアン=ベルヘリッグ。ブラジルの学院生だ」
ダミアンと呼んでくれ。とダミアンさんが右手を差し出す。
こちらも自己紹介をした後、握手を交わす。
「エイジとアユムだな!よろしくな!」
ニカッと並びのいい白い歯を見せて、なんとも暑苦し…ナイスガイな笑顔を浮かべるダミアンさん。
「何や、暑っ苦しいやっちゃのう」
「ちょ!!」
おい!
いくらなんでもそれはストレートすぎるでしょ、久宝さん!
「ハッハッハ!いきなりナイスジョークだNA、アユム!」
が、僕の心配をよそに豪放磊落に笑うダミアンさん。
…なんか、もうこの人の性格が分かってしまった気がする。
しばらくダミアンさんと談笑し、近くに空いてる席があるらしいのでご一緒させてもらうことにした。
「そういえばブラジルの学院生って、ダミアンだけなん?」
席に向かう途中、ふと久宝さんが尋ねた。
「いや、もう一人いるんだが…」
と、少し怪訝そうな表情を浮かべるダミアンさん。
「まあ何というか、放浪癖のある奴でな…。実は一週間くらい前から姿が見えんのだ」
「「ええぇぇ!!?」」
思わず久宝さんと声がハモってしまった。
「ゆ、行方不明っちゅう事か!?」
「あ、いや、FGのGPS機能で居場所だけは分かってる。今日も一応ここに来てるみたいだしな」
心配しなさんな、と補足するダミアンさんだったが、さっきと違って若干目が笑ってない気がする。
「でも…一週間も何やってたんですかね、その人」
「観光と観戦とアナタをひっぱたいてたわ」
…あれ?
聞き覚えのある声がして振り向いてみると。
「あ、あああああ!!き、君は!!」
そこに居たのは一週間前、突然僕に平手打ちを浴びせた女の子。
「ティス=A=ランバーズよ。今後ともよろしく」
「諸君、はじめまして!私が今回の研修講師、レックス=テンジである!」
坊主頭にカールした口髭。
如何にも『鬼教官』とか『軍曹』とかいう渾名が似合いそうなオッサンが教壇から声を張り上げる。
「何や、やかましいおっさんやのう…渾名は『鬼軍曹』で決まりやな」
「ハッハッハ!そいつぁいい!確かにグリーンベレーとか海兵隊にでも居そうだもんな、あの教官!」
鬱陶しそうに苦笑しながら呟く久宝さんと、それを聞き同意するダミアンさん。
けど、今の僕はレックス講師の話はもちろん、すぐ近くにいる二人の会話すらまともに耳に入ってこない。
その原因は―――。
「…何かしら?」
「あ、いや、なんでも…」
「…そう」
―――僕の隣にいるティス=A=ランバーズその人の存在である。
つーか何でこの子が隣にいるんだよおお!!
色々気になっちゃって、講義にちっとも集中出来ないじゃないか!!
因みに席の配列は左からダミアンさん➝久宝さん➝僕➝ランバーズ女史。
麻火の奴なら『両手に花じゃんヒャッホオオオオゥ!!』とか言って狂喜しそうな絵面だけど、残念ながらそんな元気と気楽さは僕は持ち合わせていない。
僕の頭の中は、講義そっちのけで一週間前の様に「何故」と言う疑問詞で埋め尽くされていた。
「ええ!どういう事やそれ!!」
が、久宝さんの怒鳴り声で一気に思考が現実へ引き戻された。
どうやら僕が唸っている間に何やらレックス講師がトンデモ発言をしたらしい。
部屋のあちこちでどよめきが起こっている。
「どうもこうもない、そのままの意味だ!本日諸君らがこなす課題はレースでもスタート訓練でもない!安全確実な飛行技術、CPUに頼らない出力調整、レース中の事故への対応の仕方その他諸々!それを身に付けるために、諸君らがやらなければいけないことは一つ!!」
バンッ!!と机の上に大量のプリントが載せられた。
「座学である!!」
その瞬間、久宝さんの目から光が消えた。
「うへえ…ありえへんてこんなん…」
一日目の講義がすべて終了。
帰りのホバー船を待つ間に、何で長崎くんだりまで来てこないなことせなあかんねん、とぼやく久宝さん。
ひどい言い種ですねコノヤロー。
同意見ではありますけど。
「まあまあ、座学も立派な訓練さ」
そうぼやきなさんなって、とダミアンさんが苦笑しながらなだめる。
「せやかて…ってあれ?ダミアン、ランバーズさん何処行きなはったんや?」
「ん?そういや、見かけねえな。まあ大丈夫だろ、いつもこんな感じだし」
軽っ!!
どうやらこの様子を見る限り、いつもの事過ぎてもう慣れちゃっている感じだな…。
それか、ダミアンさんが放任主義者過ぎるか。
まあどちらにしても。
「僕、捜してきます」
放っておくわけにはいかないよな。
「ん?いいのか、エイジ?」
「ええ、迷子になったのかもしれませんし」
もしそうなら、ここの構造は僕は熟知しているし、ミイラ盗りがミイラになることもないだろう。
それに、彼女には聞きたいことが山ほどあるしね。
「そっか!じゃあ頼むぜ!」
「頼まれました!!」
暑っ苦しい…もとい、ナイスガイな笑顔を浮かべるダミアンさんと、『アンタもお人好しやな』とでも言いたげな表情を浮かべる久宝さんを残し、僕はその場を離れた。
「エイジっていい奴だな」
進道が走り去った後、ダミアンが暑っ苦しいことこの上ない笑顔を浮かべながら、満足そうに呟く。
「ウチからしたら、ただのお人好しやあんなん」
いい奴すぎんのや、アイツは。
あとラッキースケベ。
風呂場でウチの全裸見られたこととウチを男扱いしたことは忘れとらんからな。
「なっはっは!確かにあんなヤツはいつか損するかもしれないけどな」
でも、とダミアンは続ける。
「絶対に後悔しないんだよな、そういう生き方するヤツ」
「…同感や」
案外、コイツとは気が合うかもしれへんな。
「ところで、アユムは何でインストーラーになろうって思ったんだ?」
「何や、唐突に」
「いや、お前さん今日の座学すっげえ嫌がってたから、『なんでこんな奴がインストーラー目指してたんだろうな』って思ってな」
うおい!
コイツ今めっちゃ失礼なこと言ったで!!
『こんな奴』って何やねん『こんな奴』って!!
「ン」
腹立ったし少し恥ずかしかったんで、声には出さず上を指差す。
「ん?」
「ん!」
よくわからんと言いたげな面しとるダミアンに対し、再び無言でさっきより強く空を指で示す。
「ん~?あっ!もしかして、宇宙か!?」
「ちょ!アンタ、声に出…」
「じゃあ俺と同じだな!」
…え?
同じ?
「ああ!FSPAに入団するのが俺の夢だ!まさかアユムも同じとはな!!」
FG宇宙開拓連合―――通称『FSPA』は、文字通りFGの本来の用途であった宇宙開発、他惑星、外宇宙探索を目的として結成された団体だ。
昔から宇宙飛行士に憧れていたウチは、5年前にこのFSPAが結成された時、歓喜した。
元々FGも好きやったし、これを目指さない手はないと思った。
しかし、まさかコイツもF.S.P.Aを目指しとるとは…。
ライバル出現ってか?
「そういや、エイジはどうなんだ?アイツは何でインストーラー志望なんだ?」
「ん~、ファム―――ああ、進道のギアニックの子な―――に聞いたんやけど、アイツ、親父さんを超えるのが目標らしいで」
詳しくはあんま教えてくれへんやったが。
「親父さん?…もしかしてとは思っていたんだけど、エイジの親父さんって、『セイジ=シンドウ』なのか!?」
「ん?ああ、そうらしいけど…」
何や、途端にダミアンの顔色が悪うなっていきよるで。
どないしたんや?
「あちゃあ…、ティスの奴が気にするわけだ…」
え?ランバーズさん?
意外な人物が出てきたことに少し面喰ってしまう。
「ランバーズさんが何か関係あるんか?」
ウチの質問に、渋い顔でう~むと唸るダミアン。
しかし、やがて思い切った顔で、声を潜めて話し始めた。
「実は、ティスはな…」
「あ、いた」
船着き場からちょうど半周(といっても、800メートルぐらいは走った)した休憩スペースのテラスにランバーズさんは居た。
「あら、どうしたのかしらジュニア君?」
僕に気付き、挑発的な口調で話しかけてくるランバーズさん。
少しムッと来たけど、これではっきりしたことが一つだけある。
「この前言ってた『あの人』って言うのは、父さんの事なんですね」
「ええ、その通りよ」
やっぱり…。
「教えてください、ランバースさん。あなたと父さんはどんな関係なんですか?」
きっとこれは、僕が知るべきこと。
どんなに残酷な現実を突き付けられても、知らなきゃいけないんだ。
「そうね…。いいわ、教えてあげる。あなたには知る権利があるもの、ね」
言うなり僕の方へ歩みを進め。
「あなたのお父様、『セイジ=シンドウ』は―――」
僕との距離があと一歩と言うところで彼女は立ち止まり。
「私の命の恩人よ」
「ちゅう」
僕の唇に、柔らかい感触が触れた。
やがて3歩程後退し、凛とした面持ちと姿勢になるランバーズさん。
夕日に映える彼女は、あまりにも美しすぎた。
そう、それこそ―――。
「私はあなたのお父様を殺してしまったの」
―――残酷なくらいに。
続
く
デェェェェェェェェェェェェン!
トキ「…え?もう始まってる?久し振り過ぎてちょっとタイミング外しちゃいましたね!」
トキ「改めましてはお久し振りです〜、『教えて!答えて!トキコ先生!』のコーナー!」
トキ「一回休みは何にでも良くあること!ですから私は気にしません!MCの加賀山トキコです!」
トキ「今回は本編に登場した『FSPA』―――FG宇宙開拓連合(英語名:Feather gear Space Pioneer Association)について説明致します!」
トキ「まず始めに、『FSPA』、これは『フェスパ』と読みます。…そこ、無理があるとか言わない!」
トキ「FSPAはもともと引退したFG選手やギアニック、NASAの有志数名が立ち上げた団体で、その目的は劇中にも上げられたように、惑星・外宇宙調査、ISSでのより精密な船外活動、スペースデブリ除去など、ありとあらゆる宇宙開発です」
トキ「前回ちょこっとだけ触れたインストーラーの宇宙飛行士選抜試験には彼らも大きく関わっています。って言うか主催です」
トキ「さて、久し振りだったので、先生少し疲れました。今回はここまでにしましょう」
トキ「次回はFG史に残る最大最悪の事件、『鮮血のガルーダ事件』について教えて差し上げます!」
トキ「それでは皆様さようなら〜」