第二十翔 ~知らないし、解らないし、教えてもらっていない、では済まされないこともある~
犬「早めに投稿出来たよ!」
コロ「やったね!斬鉄犬ちゃん!!」
…はい、すいません。
今回はお姉ちゃん大活躍回です。
いろんな意味で際どいんだよな…。
それではどうぞ!
「ただいまー…」
ごっそりメンタルを持って行かれた後で部屋に戻った僕は、誰ともなしにひとりごちる。
「お帰りー」
ごちたはずなのに、なんで答えが返ってきてるのかと問われれば、もちろんそれは誰かが部屋にいるからで、そしてそれが誰だかもう僕には見当がついているので、あえてスルーしてシャワーを浴びることにした。
夕食までまだ時間があるし、とにかくなんだかさっぱりしておきたい気分だったから。
「ふぅ…」
部屋に備え付けられているバスルームで熱いお湯を頭からかぶり、目を閉じると、あの子が脳裏に浮かんだ。
「くっそ…」
わけが分からない…!
何で僕はあの子にぶたれたんだ?
何であの子は僕にあんなことを言ったんだ?
あの人って父さんの事か?
それなら何故あの子は僕の事を知っていた?
何故?何で?どうして?
そればかりが頭の中を占めている。
わからない。
何も、わからない…!
ガラッ。
「お邪魔するよ」
「?…のわぁぁぁぁぁ!!!」
戸の開く音と声に振り向くと、七海姐さんがバスルームに入ってきていた。
「なななななな七海姐さん!?何やってんだよ!?」
慌てて前を隠しながら姐さんに向かって叫ぶ。
「いいじゃない、私達、義姉弟なんだし。昔はよく一緒にお風呂入ってたのに、何を今更恥ずかしがってるの?」
「恥ずかしがらないアンタの方こそ何なんだ!?大体、一緒に風呂入ってたのだって僕が小3の頃ぐらいまでの話だろ!」
何年前の事を言ってるんだ、この人は!
「つーかまずその恰好をどうにかしてくれ!!」
姐さんは現在タオル一枚を巻いてるのみ。
何と言うか、目のやり場に困る…!
「?ああ、タオル外せばいいのね?」
「ちげーよその反対だよ服着ろっつってんだよ!!!」
「え?スク水?それともビキニ?」
「誰も水着なんてリクエストしてねえよ!普通に服を着ろって言ってんだ!」
「ん?濡れた服からうっすらと見える…ってヤツ?」
あ、それはちょっと憧れるかも。
「ってそうじゃなくて!!」
何考えてんだ!僕の馬鹿!!
「まぁまぁ。遠慮は要らないよ?お義姉ちゃんが義弟の発育具合をチェックしてあげよう」
「アウトだから!その発言、ギリギリアウトだからな!!」
ん!?
なんかこんな展開、前にもなかったか!?
「ちょ、ちょっと!姐さん落ち着いてってなんだその手つき!?」
わきわきしてるというか、ムズムズしているというか、とにかくなんだかいやらしい手つきで僕に近づいてくる七海姐さん。
い、いや!何を呑気に解説気取ってるんだ僕は!!
「フフフフフフフフフフ!!えーちゃん、覚悟!!」
あ、やばい。
僕を『えーちゃん』と呼ぶときの七海姐さんの脳内は母性本能(姉性本能?)が全開になっていて、こうなったら僕を弄くり倒すことしか考えられなくなってしまう。
…ん?
待てよ。
現状を把握してみろ、進道永路。
僕➝全裸。
七海姐さん➝タオル一丁&母性本能(略してボンノウ)全開。
…あれ?
これって、かなりやばい状況じゃね?
「ちょちょちょちょちょちょ!姐さんストップ、マジでストップ!これ以上は僕らの関係的にも描写的に危ない!規制を入れざるを得ない!!一応言っとくけどこの小説、R指定とか入れてな――――――」
「問答無用!!えーちゃーん!!」
何で…。
何で僕の周りの女性は、僕を襲うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「ぎゃああああああああああああ!!」
「ハッ!!!」
目が覚めると、そこに見慣れた天井と七海姐さんの顔が見えた。
「あ、えーちゃん、気が付いた?」
七海姐さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「ねえ、さん?」
あれ?僕、どうしたんだ?
確か、部屋に帰ってきて服を脱いでシャワーを浴びてて…。
駄目だ。そこで記憶が飛んでいる。
「びっくりしたよ。突然倒れるんだもん、お姉ちゃん心配しちゃった」
そ、そうか。
僕ってば、バスルームで気を失っていたのか。
で、どういう経緯かは知らないけど、七海姐さんがそんな僕を介抱してくれたってことなんだろう。
「ごめんね、姐さん。手間をかけさせちゃったみたいで…」
「気にしないで、いいもの見れたし。ふふっ」
…なんでだろう。
心なしか、姐さんの顔がツヤツヤしているような気がする…。
…まあ、気のせいだろう。
気のせいだと思いたい。
気のせいであってくれ。
「そう言えば姐さん、どうして僕の部屋に?」
頭に浮かんだ嫌な考えを振り払うべく、話題を変えてみる。
すると姐さんは思い出したかのように腰に掛けたポーチから自分のマツホを取り出すと。
「コレ」
と、スクリーン投射機能をONにした。
壁に映像が投影され、叔父さんと叔母さんがの姿が映し出される。
「コレってビデオメール?」
コクリと頷く姐さん。
動画に収めたメッセージを相手に送信するのが、ビデオメール。
パソコンやマツホなら再生は可能だけど、僕の携帯電話では結構古い型番なので、コレの再生機能がついていない。
『七海、永路。元気にしてるかー?父さんはこの前のゴルフで全ホールバーディを決めるくらい元気だぞー!』
まず叔父さんが口を開く。
って全ホールバーディ!?
それって滅茶苦茶すごいんじゃないのか!?
『早速だけど、二人とも来週のゴールデンウィークはこっちに帰ってくるのかい?』
ホントに早速だね、叔父さん。
『帰ってくるなら部屋の掃除くらいはやっておくね』
と、叔母さんが笑顔を浮かべる。
笑った顔は姐さんそっくりだ。って逆か。
『まあ、そんなわけだから返事は出来るだけ早く送ってくれよー』
『それじゃ、二人とも、バイバーイ』
最後は二人仲良く手を振りながらの挨拶。
メッセージはここで終わっていた。
…何と言うか、相変わらず要点だけをズバッとまとめる、小ざっぱりした夫婦だな~。
「で、どうするの、えーちゃん?」
マツホをポーチにしまい、姐さんが尋ねる。
うーん…。
ゴールデンウィークか~。
本当は帰らずに残ってFGの訓練をやりたかったんだけど…。
どうしたものかな…。
悩んでいると。
『ピンポンパンポーン』
アナウンス音だ。
この時間帯にこの音が鳴るっていうことは、誰かが呼び出されるということなんだろうけど。
『競翔科2年生・進道永路君。至急、一階ロビーへ来てください』
あ、僕だった。
あれ?
何か僕悪いこととかしたっけ?
…。
昨日の夜、亜季子がここに来たこと以外は、全く思い当たる節がない。
まあ呼び出されたんなら応じるだけだ。
無視して後で大事にでもなろうものなら、それこそ面倒だし。
「じゃあ、僕ちょっといってくるよ、ってうわ!?」
立ち上がって部屋を出ようとすると、おもむろに腕を掴まれ、バランスを崩して床に倒れてしまった。
「いてて…ね、姐さん!?」
「…えーちゃん、お姉ちゃんを置いてっちゃうの?」
倒れた僕の上に馬乗りしてくる七海姐さん。
って、またこんなんかい!
「ちょ、姐さん!なんでそんな切なそうな目つきしてるの!?」
いいいいいいいいいいいいいかん!
そんな目をされたら、僕の中の何かが揺らいでしまう!
「だって…えーちゃん、またお姉ちゃんから離れていっちゃいそうなんだもん…。切なくもなるよ…」
「ま、また?」
僕が姐さんを置き去りにしたことなんて―――
「えーちゃんは知らないかもしれないけど、お姉ちゃんがここで働こうと決めたのは、えーちゃんがここにいるからなんだよ?」
「…え?」
僕が、いるから…?
「えーちゃんが高校はこの学院に行くって父さんたちに話した時、お姉ちゃんだけが猛反対したの、覚えてる?」
「え?う、うん」
忘れるわけがない。
いつも僕のことを応援してくれる、優しい姐さん。
その姐さんが初めて僕に面と向かって反対し続けたんだから。
「あれもね、えーちゃんがもう二度とうちに帰ってこないんじゃないか、そしたらもう会えない、置いて行かれるって思ったからなの」
な、なんだそりゃ?
「二度とってそんな大袈裟な…」
「大袈裟じゃないよ!えーちゃんにとってはそうかもしれないけど、お姉ちゃんは本気だったんだから!」
ずいっと顔を近づけ、語気を強くする姐さん。
「だからお姉ちゃん、学院の警備員の採用試験に受かった時、またえーちゃんと一緒にいられるってスッゴく嬉しかった。でもえーちゃんはこっちに来てから'も'女の子にモテモテで、だけどそれもえーちゃんの為だと思ってずっとガマンして冷静な振りをしてたんだよ?」
衝撃的告白だった。
確かに姐さんは学院に来てからかなり変わった。
昔は僕に対してはデレデレだったのに、こっちに来てからこの方、何と言うか、クールビューティーになったというか。
それに、僕の個人情報を言いふらすは、夕飯に誘っても手厳しく断るは、その他諸々、そんなわけで僕は姐さんから嫌われたんだと、そう思っていたんだ。
「でも…でももう耐えられないよ!このままじゃえーちゃんが誰かに盗られちゃう!」
!?
い、いきなりを何言い出すんだ、この人は!
「ね、姐さん?取り敢えずひとまず落ち着いて…」
「昨日は亜季子ちゃんを部屋に入れてたし、朝ご飯は一年の子と食べて、その上お昼からはファムちゃんと出掛けてたでしょ!?これが落ち着いていられないよ!!」
!!??
何でそこまで知ってんだよ!
今日の朝昼はともかく、昨晩の亜季子については誰にもバレないように気をつけてたはずだぞ!?
「昨日の消灯時間の見回り中にえーちゃんの部屋からメイド服姿の亜季子ちゃんが出て行くの、バッチリ見てたもん」
ちっくしょー!
そりゃ幾ら僕が気を付けててもバレるわけだよ!
亜季子の方が警戒してないんだから!!
「違うんだ姐さん!あれは僕がやらせたんじゃなくて性悪な双子がってちょっと姐さん!?何で目を閉じてゆっくりと顔を近づけて来てんの!?」
いかんいかんいかん!!!
これは本格的にいかん!!
「誰かに盗られちゃうぐらいなら、いっそのことこの場で…」
うおおおおおいぃぃぃ!!!
「駄目だよ姐さん!!義理とはいえ僕らは姉弟で…」
「えーちゃんは、お姉ちゃんの事、嫌い?」
潤んだ瞳でこちらを見つめる姐さんに、一瞬言葉が詰まってしまう。
その目は反則だって!
「き、嫌いってわけじゃないけど…」
気圧されたわけでは断じてないけど、ついそう答えてしまう。
「じゃあ問題ないよね!」
「わあああ!?」
言質を取られた!?
やばいって!!さっきよりドンドン姉さんの顔が近くなってる!!
このままじゃ(最早残っているかどうかはわからないが)僕の純情と貞操が本当に危険だ!!
誰か!誰か!HELP ME!!!
「えーちゃん、往生際悪いよ。安心してお姉ちゃんに身を委ねて…ね?」
「うわああああああ!!!」
も、もう駄目だぁぁぁ!!
と。
ガチャ。
「永路~?呼ばれてるよ?アンタいつまで…」
「「あ」」
「…あぁ?」
幸か不幸か、貞操の危機に現れたのは、もう一人の貞操ブレイカー、ファム=ジルサンダーその人だった。
ああ、いや。
幸か不幸かとか言ったけど、訂正しよう。
不幸でしかねえよ、この状況。
最悪と言っても過言ではないどころか、それ以上だ。
ファムが纏っているオーラがこれまでにないくらいどす黒くなっている…ッ!!!
「ちちちちちちちちちち違うんだファムこうなったのは一言では表しきれない深い事情があって…」
「…し」
「…し?」
「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「えーっと、進道…君?」
「はい…」
何とか地獄から這い戻ってロビーへ向かった僕の顔を見るなり、トキコ先生がすごく怪訝そうな表情を浮かべた。
それもそのはず、多分今の僕は地雷原を裸足で歩き切ったような顔をしているのだろうから。
「大丈夫?なんだか地雷原を裸足で歩き切ったような顔をしてるみたいだけど…?」
ほらね。
「ええ、まあ。気にしないでください…」
正直、さっきまでの出来事は知るも恐怖、語るも恐怖だし。
「そ、そう?じゃあ取り敢えず本題に入るわね」
ハイこれ、とトキコ先生が僕に手渡したのは。
「…合同研修資料?」
「ええ」
ニコッと笑みを浮かべる先生。
「進道永路君、貴方にはこのGW中、競翔科二年生を代表して、長崎オーシャンスタジアムで開催される合同研修に参加してもらいたいの」
こうして。
僕は長崎の実家に帰ることになり。
今までの人生の中で、最も刺激的かつハードなGWを送ることになるのであった。
続
く
!
パンパカパーン!
トキ「加賀山トキコプレゼンツ~!『教えて!答えて!トキコ先生!!』」
ドンドンドンパフパフー!!
トキ「このコーナーではTGSの世界観やFGに関する知識と言う名の設定を、読者の皆様から寄せられた質問にお答えしたり、作者の斬鉄犬の補足に従ったりしながらお送りしていきます~」
トキ「いや~久しぶりに本編に出れました!MCの加賀山トキコです~!」
トキ「今回も先生張り切っちゃいますよー!今回はFGの構造についてでも説明しましょうか」
トキ「FGは基本的に頭部、側・背面部、両腕部、腰部、脚部、そして翼部の六箇所のパーツで構成されています」
トキ「これらのパーツを身に纏い、実際にレーサーとして飛ぶ人たちをインストーラーと呼称します。本編では進道君や旭川君がこれに該当しますね」
トキ「ギアの装甲パーツには次世代新素材である形状記憶金属「データメタル|(以下DM)」と呼ばれるものが使用されています。コレに専用のコネクターを用いてデータを打ち込めば、パーツの出来上がりと言うわけです。もちろん、DMはあくまでデータ通りに変形するだけですので、内部の電子機器の配線や細部の調整などはギアニックがいじらなければならないのですが。前に話したと思いますが、FGの前身は宇宙開発用のパワードスーツです。開発計画自体もまだ進行中で、FG技術は元々はその計画のために実験的に組み込まれているものが多数です」
トキ「ふう…動力についてはまたの機会と言うことで、今回はこの辺で失礼いたします~。引き続き、ご意見ご質問ご感想、お待ちしておりま~すそれでは皆様~」
斬鉄犬&トキ「ありがとうございました!!」
斬
鉄
犬