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ブレイブ・フェザー!  作者: 斬空狼
第Ⅰ章 ~進道永路、始動~
23/35

番外編PART3 ~来訪・来襲・要指導~

約一ヶ月ぶりの更新です。


某よく休載する漫画家先生の気持ちが何となくわかる気がします。


それでは番外編、スタートです。



「216……あさ…217…ひかわ、先輩……」


「218……何だ…219…古島……」


「220…そろそろ…221…キツい……222…んじゃ……ないん……223…ですか……?」


「224……225…馬鹿言うな……226……まだまだ楽勝……だぜ…227…」


…あ。

いきなり済まない。

朝食を賭けて、腕立て伏せでバトル中なんだ。

あと470行くらい待ってくれないか?

…え?そんなに待てない?

わかったよ。

じゃあちょっとオーバースキルを使うぞ。


♪♪♪(キン◯ゲイナーのOP)


はい、オーバースキル終了。


「クッソ〜!これで18連敗〜!」


423回目でとうとうギヴアップした古島が、心底悔しそうに叫ぶ。


「甘えよ、古島。そんな体力で俺に勝とうなんざ七光年早ぇぜ」


ふっ、決まった。

先輩の威厳というものを存分に見せつけることが―――


「…先輩」


「ん?どした?」


「あの、光年は時間じゃなくて、距離の単位です」


…………。


「し、知ってんだよぉぉぉぉぉ!理科の先生かテメェはぁぁぁぁぁ!」


知ってたよ!

本当だよ!


「え…。まさか旭川先輩、マジで知らなかったんスか?こんなの今時、小学生でも知ってますよ…?」


マジか!?

今の小学生ってそんなレベル高い教育受けてんの!?

俺、そんなの習ってないよ!!


「え〜、先輩マジないッスわ〜。例え習ってなくてもこんくらい一般常識ッスよ?」


とても冷ややかな声で、俺を責める(攻める?)古島。

先輩の威厳もへったくれもあったもんじゃない。

形無しである。


…と言うか何で光年如きでここまでボロクソ言われなきゃならんのだ…。

そりゃ、俺は昔からそんなに頭はいい方ではない。

実際、一月前までSFをSpace Fantasyの略かと思ってたり、『一寸法師』の『法師』を『帽子』と思ってたり、子どもの頃飼ってたクワガタを、バ◯サン焚いてた家の中に放置して死なせたりした事もあったけどさ。

だからってここまでコケにされる事はないんじゃねーの!?


ぐっ……、このままでは旭川先輩(笑)みたいな扱いになってしまう。

一体どうすりゃこの窮地を脱出できるのだ…。


俺は無神論者だが、この時ばかりはマジで神様とやらに救援を要請したい気分だった。

これぞまさしくご都合主義。

困った時の神頼みもいいところ。


と。


『コンコン』


部屋の戸がノックされ。


「失礼するよ」


言いつつ御上が入ってきた。

神様!マジでありがとう!

これで多少なりとも古島からの侮蔑の視線を逸らすことができる!


「よう、どうした御上。こんな朝早くから」


できるだけ自然体な感じで話しかける。

まあ、朝早いといってもまだ七時十分ぐらいだけどな。


「いや、その…」


俺の問いかけに、若干言葉に詰まる御上。

一体何だ?


「…先輩、何かしたんスか?」


気を遣ってか、俺の耳に手を当て古島がささやく。

うーん?

そう言われても全く覚えがない。

特に御上の手を煩わせるようなことはしていないはずだが…。


「あ、旭川君」


「んあ?」


必死こいて脳内検索していたところにいきなり話しかけられたもんだから、つい変な声が出てしまった。


「き、昨日の約束を覚えているかい」


「昨日?」


えっと…そう言えば、何か約束していたようなしていなかったような…。

ウムムムム…。


「駄目だ、思い出せん」


呟いた瞬間。


ヒュン!


「ぐあっ!」


「!?」


何かがすごいスピードで俺の顔を掠めたと思ったら、後ろにいた古島の顔面にボールペンが直撃していた。


幸いにして芯は出ていない状態だったが、超スピードでそんなものが眉間にヒットした古島は、北斗○拳を食らった雑魚敵よろしく、白目をむいてその場に崩れ落ちた。


って、ボールペン!?

誰が、何処からそんなもんを―――


「旭川君?」


俺の頭の中に浮かんだ疑問は、しかし、一瞬で打ち消されるとともに解決されることになる。


その、あまりにも恐ろしい声色のおかげで。


「えっと、なんでしょう、御上さん?」


完全にのびてしまった古島から視線を外し、恐る恐る御上の方を向くと。


「人との約束を忘れるだなんて、人間としてどうなのかな…?」


閻魔大王様が立っていらっしゃった。


人に向かってボールペン投げつける行為も、人間としてどうなのよ。とか突っ込む気力も失せるほどに、御上の纏うオーラは桁違い、否、桁外れだ。


もうね、立ってるのが精一杯って感じ。

これがいわゆる、蛇に睨まれた蛙というやつなのだろう。

まさか身をもって知る羽目になるなんて、思ってもみなかったが。


って、何センメンタルになってんだ俺は!

そんなこと考えてる暇があるなら、何とかこの場を凌ぐための知恵を振り絞れや!


「天誅!」


「ひいいいいい!」


と、正に俺の脳天に弾丸と化したボールペンが撃ち込まれんとしたその瞬間。


『リリリリリリリ』


机の上の、俺の携帯から着信音が響き渡る。

突然の出来事に、閻魔、もとい御上の注意が逸れた。

今だ!


「逃走!!」


携帯を素早く掴み、踵を返す。

当然、扉は御上が立ちふさがっている。

ならば、脱出ルートは唯一つ。


「な!まさか!」


そう!

ドアが駄目なら、窓から逃げればいいじゃない!!

これぞ名付けて、マリー・アントワネット脱出術!!


「ふははははは!さーらばー!」


「ま、待ちなさい旭川君!!」


俺を捕まえんと手を伸ばす御上。

まあ、待てと言われて待つ輩はそうそういない。

このまま俺はあの青い大空へ、I can fly!するのさ!

そうあの青い大空へ…。

大空へ…って、へ?


気になって下を見てみると、俺の居る地点(空中だからこの表現は間違っているかも知れないが、ともかく地点)から地面までは、パッと見で5~6メートルはある。


……あ。

忘れてた。


ここ、三階だわ。


「いぃぃぃぃぃってきまぁぁぁぁぁぁす!!!!」


悲しいかな、如何に科学技術が進歩したからとて、生身の体では人間は物理法則にはどうやっても抗えない。

したがって俺の体は重力に逆らえず、そのまま落下の一途を辿る事になった。


…。


「おーい、大丈夫?」


頭上から聞こえてくる御上の声にハッとする。

いかん。一瞬、完全に意識が飛んでいた。


「いててて…」


幸いにも植え込みに突っ込んだらしく、あちこちが痛いものの、ケガらしいケガは特にしていないようだ。


「旭川くーん?」


再度御上が声をかけてきた。

心配そうに俺の方を見ている様からは、先ほどの閻魔大王の気配が嘘のようである。


「んー。取り敢えずは問題ねえ」


まだ少し痛みは残るものの、こんなもので音を上げるほどヤワじゃない。

そういう風に俺は出来てるからな。


「そう、それなら…」


ここで一呼吸置くと共に、キラン、と御上の眼鏡が逆光で光る。

…何だろう。すごく嫌な予感が―――


「天誅、partⅡ!!!」


やっぱりかー!!!


直後、俺目掛けて大量のボールペンが飛んできた。


「のわああああ!!」


慌てて植え込みから抜け出し、ペンを回避する。


あ、危ねぇ!

もうちょいで標本みたいになっちまうところだったぜ…。


とか何とか言ってる間にも、頭上からはボールペンの雨が降り注いでくる。


ヤバい、本格的にヤバいぞ!


一体どうすればこの窮地を脱出できる―――


と。


『リリリリリリリリリ』


ポケットから鳴り響く着信音。

こんな時に、一体どこのどいつが―――


『着信 進道永路』


お前かぁぁぁぁぁぁ!!

畜生、タイミング良いんだか悪いんだか!!

ええい、ままよ!

思い切って通話ボタンを押し。


「永路ィィィィィ!ヘルプミィィィィィィ!」


『えぇ!?』


俺が今置かれた状況を非常に端的に叫ぶ。

が、それがよくなかった。


「うわ!」


いかんせん携帯に気を取られ過ぎたせいか、足元がお留守になり、俺は派手にすっ転んでしまったのだ。


当然、悪鬼と化した御上がそれを逃す筈がなかった。


「隙有りィ!」


まるで某サイコミュ兵器の様にペンを投げつける御上。

流石にコレは避けきれない…!


「ちょっ待てお茶漬けじゃなくて餅突けでもなくて落ち着け!落ち着いて俺の話を聞け聞いてくれ聞いてください!お前は何か勘違いを…」


必死に暴走した御上を止めるために説得を試みるも。


「HELL 2 YOU!」


俺の努力も空しく。


「ぎゃあああああああ!!」


無数のペンが降り注ぎ、俺の目の前が真っ暗になった。





「じゃ、今夜ね♪」


「…へーい」


…まあ、考えてみれば?

確かに食事の約束はしてたわけだし、今回は俺に非がある。

あるけどさ…。

お花畑見えるまで追い詰めるって、それこそ人としてどうなのよ?

そんなこと言ってたらまた死にそうな目に遭いかねないので、口には出さない(出せない)が。


「…っと」


御上がご機嫌そうに去った後、そう言えば永路の奴から電話があったことを思い出した。

どさくさに紛れていつの間にか切断されていたようだったし、気分転換を兼ねて折り返してみよう。


『もしもし、麻火?大丈夫?』


「大丈夫な訳ねえだろうが!こちとら一瞬三途の川が見えたわ!」


地獄を見たせいか、語気が思った以上に強くなってしまった。

ま、どうせ永路の事だから『まさかの臨死体験かよ!』とか腹ン中でツッコんでんだろうけど。


『相変わらず修羅場だね…』


「その台詞、そっくりそのまま返してやりてえ気分だ…」


修羅場の数(女性関係的な意味で)なら、お前だってそんなに変わらない癖に。


「で、何か用かよ?」


これ以上話がこじれない内に、用件を聞いておこう。


『あ、うん。実は…』







「あ、あの子か?」


三時間後。

俺は学院スタジアム・訓練用FG格納庫に足を運んでいた。

それと言うのも永路の、後輩の面倒を見てくれとの依頼を引き受けたから。


幸い今日は代表決定戦のレースを観戦する連中が多いようで、いつもなら人で賑わうこの場所も、先客の、雀羽をいじっている女生徒と俺の貸切みたいな状況。

練習にはもってこいと言うわけだ。


「あ、あの」


と女子の方も俺に気付いたらしく、おずおずと話しかけてきた。


「ひ、ひょっとして、え、永路さんのお知り合いの方ですか?」


「ん、そうだけど。っと、じゃあアンタが式町さんか?」


名前くらいは永路から聞いていたが。


「ひうっ!は、はい。き、競翔科一年の、し、式町四季です!」


しどろもどろに自己紹介する式町。

…何ていうか、人見知りっつーか、ネガティブそうな奴。

第一印象はそんな感じだ。


「えっと、強張んなくていいぜ?もっとリラックスして」


「は、はい…。すみません…」


前言撤回。

『そうな』どころじゃない。

この子、絶対ネガティブだ。






「うし、一旦休憩入れとくか」


「は、はい」


挨拶もそこそこに済ませた後、取り敢えずどの程度FGを動かせるかを視て、そのまま一緒に一時間程飛んでみた。

正直に言おう。

この子、滅茶苦茶操縦上手い…!


雀羽は安定性と生産性を重視した、言わば量産機で、それ故にインストーラーの技術が反映されやすいのだが、式町は、スタート・加速・コーナリングのどれを見ても、とても一ヶ月そこいらの素人とは思えない丁寧さと実力を持っていた。


ぶっちゃけると、永路より扱い上手いんじゃないか?とか思ったが。

ただ…。


「なあ、式町」


「は、はい?」


俺は無茶を承知で、式町に尋ねてみる。


「お前のその、ネガティブ、どうにかならない?」


「ひ、ひうっ!」


一緒に飛んでみて気付いた、もう一つの点。

コイツのネガティブさは、飛び方にも反映されてる。

さっきは確かに絶賛したものの、二者同時旋回(二人同時にターンを決める項目)の際、式町は衝突を恐れてわずかに減速、ターンした時のマークとの幅も、一人で飛んでいた時と比べて少し余計に膨らんでしまっていた。

今の時点では問題ないが、レースともなると、コイツの性格は確実に裏目に出ちまう。

ネガティブってのは、要は遠慮や心配、その他もろもろのマイナス要素が前面に押し出されてしまった結果、形成される性格だ。


競争、特に妨害レースであるFGにおいては、そんな性格は欠点以外の何物でもない。

厳しいことを言うようだが、このままだとコイツ、レーサーとしてやっていけないかもしれない。


こういう時、永路なら優しい言葉で諭すんだろうが、残念ながら俺はそんな器用さを持ち合わせていない。


だから、俺がその旨を伝えた時、きっとこのネガティブ少女は泣き出してしまうんじゃなかろうかと懸念したのだが。


「わ、わかりました!!何とかやってみます!」


と、まさかの奮起。

…どうやら俺はこの子、式町四季と言う女性を侮っていたようだ。

休憩終了後、そのまま使用規定時間までぶっ続けで訓練飛行を行ったが、前半のネガティブさは影を潜め(まあギリギリの場面ではちょくちょく見られたが)、式町は俺の指導を瞬く間に吸収していったのだ。


簡単に言ってしまうと。

式町四季。

主人公体質の持ち主だ。




「き、今日はありがとうございました」


飛行練習とクールダウンを終え、式町が礼を言う。


「ああ、気にすんなって」


正直、本物の主人公体質を目の当たりにした俺の心境は複雑だったが。

まあ、女の子に感謝されるってのは、男にとっちゃ大なり小なりにうれしいものだ。


「あ。そういえばまだお名前、聞いてませんでした」


「あ?永路から聞いてなかったのか?」


俺はてっきりアイツから教えてもらってるものとばかり思っていたのだが、言われてみれば確かに、式町から名前を呼ばれた記憶がない。


ネガティブ故に話しかけ辛いのかと思っていたが、そういうわけではなかったようだ。


つーか、永路の奴、相変わらず変なところがヌけてるっつーか、なんっつーか…。


「あ、あの…?」


「旭川」


「…………え?」


「旭川麻火。俺の名前だ。皆からは『紛らわしい』から『麻火』って呼ばれてる」


よろしく、と挨拶代わりに手を差し出してみるも。


「……………」


まじまじと俺の顔を見るばかりで握手に応じようとしない。

な、何だ?

俺の顔に何かついてんのか?


「…まさか…そんな…」


とうとうブツブツ独り言を漏らし始めた式町。

…本当にどうしたというのだろう?


と。


「す、すいません!旭川さん!急用が出来ましたので、わ、私はこれにて失礼いたします!」


言うなり式町は急ぎ足で格納庫を後にした。


「あ、ああ…」


俺は呆気にとられ、その背中を見送るしかなく、伸ばした右手は空しく空を掴むばかりであった。






俺がこの挙動不審の理由を知るのは、このおよそ一週間後。

永路たちが長崎へ初巡業へ出ていった、少し後の話になる。




如何だったでしょうか。


今回書いてて、正直ニヤニヤが止まりませんでした。

はい、皆様の予想通りでございます。


それにしたって更新遅くなってしまって本当に申し訳ない。

次回は二週間以内をめどに、何とか頑張ります。


毎回読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


それでは駄犬めはこれにて失礼致します。


斬             鉄

      (∪^ω^) 

        犬                    

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