第十七翔 〜デートにはナツメヤシって意味もあるらしい〜
サブタイトルにある『ナツメヤシ』はヤシ科の植物のことです。
それでは本編をお楽しみ下さい。
「………………………………」
いきなりだが、僕は待ち合わせというモノは、男は待つ側、女は待たせる側が理想だって思ってる。
んで、
『ごめんね、待った?』
『ううん、僕も今来たところ』
ってありきたりな会話が一番いい流れで、且つお約束だとも思っている。
思っているけどさ…。
「ゴッメ〜ン!待った〜?」
「うん待った超待ったすげー待った具体的には一時間三十二分四十三秒待った」
流石にここまで待たされると、そんなお約束なんて知らねえよ!
しかもファムのヤツ、遅れたことに対して罪悪感の欠片も無い、この上なく清々しい登場してくれやがったよ!!
「いやあ、なかなか着る服が決まんなくてさ〜」
「服って……そういえばお前、制服と作業服以外、持ってないんじゃなかったっけ…?」
空色のブラウスに紺色のスカートと言う出で立ちのファムだが、彼女は以前
『作業服があれば何とかなる』
とか、女の子としてあるまじき発言をしており、その際に制服と作業服以外には服を持っていない事が判明しているのだ。
え?寝るとき?
知らねえよ。僕が知るわけないだろ。
…まあ、学院一の情報通に因れば、制服のYシャツと体育の短パンで寝てるらしいが…。
本当に女子としてどうなんだ、ソレ。
「あ、コレ?ルシーヌに借りた。どう?似合うっしょ?」
『ルシーヌ』と言うのはファムの相部屋の『ルシーヌ=アビー』、技術科三年生だ。
イタリア人で、由緒正しい貴族の家系なのだとか。
なるほど、確かに、シンプルなデザインながら気品溢れる感じの格好だ。窓辺で読書とかしてたら絵になりそう。
しかも、意外にファムがそれを着こなしている。
普段は作業服か制服のどちらかしか着ていないから、コイツのこういう服装は新鮮だ。
「うん、似合ってる。可愛いよ、ファム」
「はぅむっ!?」
僕の賞賛の言葉に突拍子もない声で反応するファム。
?どうしたんだろう?
「か、可愛いって!?何、白昼堂々いきなりこっ恥ずかしい事言ってんのよ!」
「似合ってるか聞いたのはそっちだろ。それに本当に可愛いし」
「だ、だからってそんな…あー、もう!」
後頭部をかきながら、いきなり歩き出すファム。
「ほら、行くわよ!もうすぐ二回目の上映時間でしょ!急がなきゃ間に合わないじゃない!」
「あ、おい!ちょっと待てよ!」
ったく、待ち合わせに遅れたかと思えば、いつもと違う格好で現れたり、その癖、それを褒めたらいきなりそっぽ向いたり。
女の子ってのは、一生かかっても僕には理解出来そうにないな…。
―――――――――――――――
sideーF
わー、わー!
か、可愛いって!
朴念仁で唐変木で鈍感な永路が、
アタシに可愛いって言った!
『服装一つで印象は段違いだよ』
アタシが制服で待ち合わせ場所に行こうとしたのを引き止めたルシーヌの言葉を思い出す。
このブラウスとスカートもルシーヌから半ば強引に着せられた物だが、その強引さが功を奏したと言うわけみたい。
ありがとう、ルシーヌ!
「ねぇ、ファム」
さあ、今日は遊び倒すわよ!
映画見た後はランチでしょ!その後はショッピングでしょ!それからその後は…!
「ファムってば」
そうよ!
公園でまったり和みながら、ボートに乗ったり、散歩したり、それでいいムードになったところで二人きり、夜景の見える丘で永遠の愛を―――
「ファム!」
「ひゃい!?」
急に大声で呼ばれた所為でまたしても変な声が出てしまった。
「大丈夫か?何かボーっとしてたみたいだけど」
心配そうにこちらを尋ねる永路。
「あ、うん!だ、大丈夫!少し考え事してただけ!」
慌てて誤魔化す。
だって、この朴念仁とラブラブな妄想をしていたなんて口が裂けても言えないじゃない…。
アタシだって、こう見えて花も恥じらう乙女なの。
「ならいいんだけどさ…。気分が悪くなったりしたら、早めに言えよな?」
「う、うん。わかってる…」
全く。
野暮ったいような、それでいて誰にでも自然と優しく出来る、こういうとこ昔から変わってないな。…って、そういうところがあるから、こんな女誑しの朴念仁になったのか!?
「ところでさ、映画見終わって買い物した後で、ちょっと行きたいところあるんだけど、付き合ってくれないか?」
……ゑ?
「ごめん、もっかい言って?」
念の為、もう一度永路に確認をとる。
こうして、二人きりでデートしていると言うだけでも奇跡のようだもの。
幸せ過ぎて、耳がおかしくなっちゃった可能性だってある。
落ち着け、アタシ。
幻聴と現状を履き違えるな…!
「?いや、だからちょっと行きたいところがあるから、付き合ってって…」
えー。
あー。
うん!
幻聴じゃあ、ない。
と言うことは……。
アタシの中で、ケ◯ディ大統領が「行ったれ!」と親指を突っ立てた。
行っていいんですか、大統領!?
いやでも、下手に期待して、痛い目見るのも嫌だし……。
「駄目かな?きっとファムも喜ぶと思うんだけど」
「行く!」
痛い目に合うことを恐れてちゃ、恋愛なんて到底出来ないよね!
「え、いいの?何か渋ってたみたいだけど?」
悩んでた割に勢い良く返事をしたことを訝しげに思ったのか、永路が尋ねる。
「べ、別にアタシが喜ぶって言葉に反応したワケじゃないんだからね!永路があんまりしつこく頼むから、仕方なくなんだからね!勘違いしないでよね!」
……あ。
つい、きつめの口調になってしてしまった。
アタシの悪いクセだ。
今みたいに、何かをごまかそうとすると、つい変な喋り方になっちゃう。
コレ、何とかしないとな〜。
「そうか?なら良いんだけどさ」
しかし、流石は朴念仁の唐変木。
もう慣れたと言わんばかりに、アタシの言を軽く受け流した。
むぅ…。
ここまでさらっと流されると、逆に何か腹立つなー。
「っと、それよりもうすぐ映画始まっちゃうし、少し急ごう」
歩きながら喋っていたので時間を忘れていたけど、ふと時計を確認すると次の上映まで後15分位しかない。
学院は市街地から離れたところにあるので、街へ行くには数分おきに出ているモノレールを使った方が早い。
えっと確かここからだと駅までは大体2分、更にモノレールで3分。
街に着いて映画館までは5分くらいかかるから、永路の言う通り、上映ギリギリの到着になっちゃいそうだ。
「そうね、じゃあ駅まで競争!負けた方がポップコーン奢りね!」
「お?いいよ、受けて立ってやるぜ!」
よーいドン!
どちらともなくスタートの合図を切り、駅に向かって走り出す。
こうやってると、なんだか子どもの頃を思い出すなあ。
昔もこんな風に何かにつけて、競争してたっけ。
アタシと永路と、それから麻火。麻火なんて、今でこそ他人行儀に『ジルサンダー先輩』なんて呼んでるけど、実はアイツが一番やんちゃ坊主だったっけ?
「お先に失礼!」
なんて、ガラにもなく昔の事を思い出していると、永路がアタシより前を走り出した。
「あ、ちょっと!アンタ、レディファーストって知らないの!?」
「人を一時間近く待たせといて、今更それはないだろ!」
ぐむむ、まだそれを引っ張る!?
過ぎた事をネチネチと、男らしくないなあ!
「ほらほら、置いてくぞ」
「ま、負けるもんですか!」
技術科の意地、見せつけてやる!
負けじと永路に食らいつく。
「やるな!ファム!」
「まだまだぁ!」
こんな事をしたせいか、駅に着く頃には二人して息も絶え絶えだったよ……。
―――――――――――――――
SIDE-E
「ちぇ〜…」
結局入場料1500円+150円支払ってポップコーンおごらされる羽目になるとは…。
「惜しかったね〜」
満足げにポップコーンを口に放り込むファム。
くっそ〜。
あの時、茂みから寮長が僕に突撃して来なければ、今頃そのポップコーンは僕の物だったのに…。
「そんなことより、早く座んないと、入れなくなっちゃうよ?」
頬張りながら指摘するファム。
確かに、映画館の中は、親子連れや友達連れ、カップルなど、様々な層の客で溢れかえっている。
本当に人気なんだな、『仮面ストライカー』。
それもそのはず、アクションシーンは勿論、ストーリーも面白い上に、主演俳優や女優さんの演技力の高さもその人気に拍車を掛けている。
主演俳優に至っては、ルックスもイケメンだ。
「あ、あそこの席空いてるよ?」
目聡くも、場内のちょうど真ん中の座席に誰も座って居ないのを発見するファム。
幸いにも、周囲の客が座る気配もないし、他には悪いが、レッツ着席だ。
「ラッキーラッキー!これも日頃の行いが良いからだね〜」
誰ともなしに、席に座りながら呟くファム。
「日頃の行い、ね」
はて、神様。
人の部屋を半壊させたり、電流喰らわせたり、待ち合わせに一時間以上遅れるヤツを、果たして日頃の行いが良い人と呼ぶんですか?
「今なんか変な事考えたでしょ」
「否、気の所為也」
「分かった。後で処刑ね」
また見抜かれた!?
何故だ!?
「アンタ、学習能力がないの?口調がエセ古文になってんのよ」
あれ〜?
亜季子に嘘ついた時は、キチンと標準語、喋ってたのにな?
何でだろ?
「全く、十年来の付き合いのアタシを騙そうなんて、まだまだ甘いわね」
半ば呆れながら、『やれやれ』と言わんばかりに肩をすくめるファム。
いや、十年来って言っても、別に十年間ずっと一緒にいたわけじゃないだろうに…。
「あ、始まった」
スクリーンに大きく映し出される製作会社のロゴ。
それから二時間弱。
二人して特撮映画に見はまっていた。
…もう高校生なのに。
―――――――――――――――
SIDE-F
「面白かった〜!」
映画館を出た後の、アタシの第一声。
色々と感想は言いたいところでもあるけど、全部を言ってたら、それこそ丸一日延々と感想を述べるだけの簡単なお仕事になりかねないので、敢えて『面白かった』の一言でまとめてみた。
ところで、『面白い』って、なんか不思議な言葉だよね。
だって『面』が『白い』んだよ?
この言葉を考えた人って、顔面蒼白になってて、もはや笑うしかない状況だったのかな?
まあ、こんな取り留めもない言葉遊びはさておき。
「確かに、1500円も払った価値はあったな」
アタシの言葉に頷く永路。
「で、これからどうするの?」
永路の方に向き直り、これからの予定を尋ねる。
「そうだな…。取り敢えず、昼飯にしないか?」
言いつつ時計を確認する永路。
それに倣って、アタシも自分の携帯をポケットから取り出す。
「あれ?ファム、携帯、マツホに代えたのか?」
アタシの携帯を見ながら、永路が首を傾げる。
『マツホ』とは、『マルチツールフォン』の略称で、つい先週に発売されたばかりの超便利ツール。
これ一台で電話にメール、カメラやテレビにネットと、あらゆる使い道がある。
え?
それじゃあ、今までの普通の携帯と変わらないだろうって?
フッフッフ。聞いて驚くなかれ。
実はこのマツホ、3D投影機能付きなのだ!
え?分かりにくい?
もう、質問が多いな〜。
ざっくばらんに言っちゃえば、撮影した写真やダウンロードした画像とかを読み取って、3D映像として投影するシステムが内蔵されているのだ。
しかも3D投影したモノは、タッチし上下左右にスライドさせて様々な角度から鑑賞が可能な仕様になっている。
…今、いやらしい使い道を考えた人、怒らないから出てきなさい。
首を横に270度回転させてあげるから。
アンタらの業界じゃ、ご褒美なんでしょ?
「いいな〜、新型。僕なんて未だに二つ折り型なのに」
自分の携帯を恨めしげに眺めながら呟く永路。
「…でも新型には新型なりの欠点もあるよ」
アンタの風迅みたいに、ね。
思わずボソリと呟いてから、『しまった』と心の中で後悔する。
き、聞こえてないよね?
「?何か言ったか?」
幸いにもアタシの呟きは、きちんとは聞こえなかったようだ。
「あ、いや何でもない!」
「…ならいいけど」
ちょっとだけ訝しんだみたいだけど、それ以上の追及はない。
あ、危なかった…。
まだ永路には『アレ』の詳しい情報を教えるわけにはいかない。
しっかりと永路が風迅を使いこなせるようになるまでは、絶対に。
…って言っても、昨日はどういうわけか、リミッターが勝手に解除されたから、永路にも少なからずバレてるみたいなんだけど。
あれ?
そういえば、『アレ』の副作用はどうだったんだろう?
起動させた以上は、永路の体に何らかのリバウンド作用が起こるはずなんだけど、まだ何も言ってこないところを見ると、特には無かったのかな?
それとも…うーん………。
『グゥゥ』
「「…」」
物凄い腹の虫の鳴き声に互いに顔を見合わせる。
そして。
「…プッ」
「…クッ」
「「アッハッハッハッハ!」」
どちらとも無しに、盛大に吹き出してしまった。
因みに鳴ったのは、アタシのお腹だ。
やっちゃった♪テヘペロ☆
まあ今にしてみれば、アタシ、朝ご飯食べて無かったからな〜。
そりゃあ、腹の虫も不機嫌になるわけだ。
「アハハハハ…じ、時間帯も時間帯だし、お昼ご飯にしよう?」
照れ隠しも兼ねて(全然隠れてないけど)、昼食を提案する。
「そうだ。それなら、さっき言ってた所に、色々と店があるんだけど、まずそこに行ってみない?」
さっき言ってた…。
ああ、朝言ってた『行きたい所』か。
…それってもしかして。
行きたい所。
↓
色々店がある。
↓
アタシも喜ぶ。
↓
…遊園地?
「ん、いいよ!」
いいじゃん、遊園地!
すごく『デートしてる』って感じがするし。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
と言っても、具体的にどこに行くのかは分からないので、ひとまず永路についていくことにした。
…今思えば、あの朴念仁に色恋沙汰を期待したアタシが馬鹿だったよ……。
続
く
如何だったでしょうか?
最近は雨ばかりで少し憂鬱な気分です。
ご意見ご感想お待ちしております。
それでは駄犬めはこれにて失礼致します。
斬
鉄
犬