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ブレイブ・フェザー!  作者: 斬空狼
第Ⅰ章 ~進道永路、始動~
20/35

第十六翔 〜最近の特撮映画は、大人だって、独り身だって見に行きたい程魅力的〜

いやあ、本当にすみません。



人手が足りなくて週6のシフトを朝から晩まで強いられたり、就活で福岡まで日帰りした結果、かなり遅くなりました。


それではごゆっくりご覧下さい。



『リリリリリリリ』


「う、ん?」


目覚まし時計のベルが鳴り響く。

もう7時か…。

いつの間にか寝てしまったみたいだ。


時計のベルを止め、大きく体を伸ばし、意識を一気に覚醒させる。


「ッ痛!?」


ズキリと頭に鋭い痛みが走った。

まるでアルコール度指数高めのウイスキーをウォッカで割って飲んだみたいな気分だ。


…飲んだことないけど。

あくまで気分の話。


と言うかそもそも何でこんな状態に陥ってるんだ?


痛む頭を抑えながらファムに連絡を入れてみる。


昨日の夜、意味深な言葉を言ってたし、もしかしたらアイツなら何か知ってるかも…。

と言うか知っておいてもらわないと困る。


時間帯は少し早いけど、今日は祝日で学校も休みだし、会う約束くらいは出来るだろう。


携帯電話を操作し、ファムに電話をかける。



『ハロ〜…』


ほどなくして凄く眠そうな声をしたファムが電話に出た。

休日の朝に弱い彼女らしい。


「おはようファム。早速で悪いけど、今日は暇?」


『ん〜…今日は溜め撮りしてた仮面ストライカーを一気に消化する予定〜…』


仮面ストライカーとは毎週日曜日の夜6時から放送されている子ども向けの番組『仮面英雄』シリーズの56作目。

子ども向けのハズなのに、老若男女様々な層に支持されている作品だ。


かく言う僕も大好きなのだが、特に『ストライカー』はまだ放送されて3ヶ月しか経っていないのにそのクォリティーの高さから既に過去最高と言われている。


「ストライカーってそういえば劇場版が公開されてたっけ?」


『んにゃ、確か今日からだったハズ〜…』


お、それならちょうどいい。


「じゃあ僕も今日は暇だし、ファムさえ良ければ見に行かない?」


『マジで!!?』


おおう!

予想以上に食い付いて来た。

眠そうだった声が一気に覚醒し、いつものハイテンションモードにチェンジしたみたいである。



フッ…!

狙い通りだ…!


ファムは基本的に開けっぴろげな性格をしているが、その反面隠し事となるとトコトンまで隠し通す二面性がある。


ならばここは一つ、映画に誘いつつ、さりげなくこの頭痛の原因を聞き出してみよう。

どっちみち、昨日の晩にファムも話すつもりでいたみたいだけど、僕の方から切り出せば彼女も話しやすいだろうし。



……念の為言っておくが、別に一人で特撮映画を見に行くのが恥ずかしいからとかそう言うことじゃないからね!!



『ね、ねぇ!どうせならさ、その後ご飯とか買い物とかどう?』


と、これは流石に予想外。

いつもは僕が誘うことがあってもファムの方からはあまりないので少し驚いた。


「うん、別にいいよ」


特に断る理由もないし、それに僕も生活用品とか色々買いたい物があるし、取り敢えずそのくらいは付き合ってやるか。


とかそのぐらいに思っていた時である。



『イヤッホォォォォォウ!!』


電話越しに聞こえてきたのは、いつもの三倍近いテンションのファムの声。


しまった。

眠れる獅子を起こしてたようだ。


ファムのテンションは、彼女の中ではいつものアレが標準らしい。

そんな彼女が、最高にハイな気分になってしまったら?


答えは簡単。

ファムは今までとは比べモノにならない程の、さしずめエクステンションとでも言うべき状態に陥ってしまうのである。


こうなってしまったら一度目的を達するまで彼女は止まらないし、止められない。


例えるなら、修学旅行の夜のテンションが四六時中続くのだ。


常人ならそんな人物の隣に居ればこう呟くだろう。


「勘弁してくれよ…」


と。


『なんか言ったァ?』


そんな常人のツイートが聞こえたのか、もの凄いトーンの声音が携帯を通して耳に入ってきた。


「な、何でもありません!」


思わず敬語になってしまう。


うーん…。

いくら年上だからって、女性に畏れをなす僕って、もしかして相当なヘタレ?


『それじゃあ9時に校門の前に集合ね』


「ん、了解〜」


ファムの提示した集合時間と場所の案に同意し通話を切る。


電話ってかけてきた方が切るのがマナーだって叔母さんから教わったし。


「さってと」


出かける事になった訳だし、着替えて朝ご飯食べにいこう。


腹が減っては戦は出来ぬって昔の偉い人も言ってた。


「よっと」


クリーム色の七分袖のアウターの下に黒いロングTシャツに着替える。

これが僕の私服スタイルだ。


「っと?あれ、委員長?」


部屋を出ると、ちょうど同じタイミングで委員長こと御上穂が通りかかった。


「おや、おはよう進道君。休日なのに早いな」


「委員長こそ、こんな朝からこんなところで何やってんの?」



ここ男子区画なんだけど…。

まさか昨日のことがバレたのか?



「いや、実はその…旭川君に用があるのだけど、彼の部屋が見つからなくてな…」


ああ、何だそう言うことか。


「麻火の部屋は308号室だから、三階に上がってすぐ左に曲がったところだよ」


アイツも早起きだから、今頃古島を巻き込んで朝の筋トレ中だと思うけど。

麻火は、おじいさんが空手の師範代をやってる影響で、子どもの頃から体を鍛えるのが日課になっている。

そのせいか、アイツは腕っぷしと度胸が滅茶苦茶強い。

小学校の頃、二人で近所の迷惑不良高校生三人を相手取ってフルボッコにしたのはいい思い出。


父さんが死んで、叔父さんに引き取られて長崎に引っ越すまでは、よく『特訓』とか言って組み手とか一緒にやってたっけ。


「308号室…あ。208号室と思ってた」


委員長が一人ごちる。


って208号は隣の部屋。

なるほど、それでここの前を通りかかったってわけか。


「わざわざ教えてくれてありがとう。この礼はいつか必ず」


「ああ、気にしないで」


去り際に謝礼の言葉を残し、階段がある方向へと歩き出す委員長。



「よし」


委員長が階段を上る姿を見送ってから、僕も食堂へ向かった。





学生寮食堂。


「今日の朝ご飯は、っと」


Aセットはご飯に味噌汁、鰤の照り焼きとひじきと、いかにも和食って感じの献立だ。

Bセットはサンドイッチにフルーツサラダ、コーンスープとヨーグルト、とこちらはいかにも洋食と言ったメニューになっている。


僕はどちらかと言うと朝は和食派なので、Aセットを注文する事にした。


「おばちゃん、おはよう。Aセットお願い」


「あら、おはよう、永ちゃん。今朝はみんな早いね」


食堂のおばちゃんが話しかけてくる。

ん?みんな?


「さっきは七ちゃんが食べてったろ」


『七ちゃん』というのは僕の従姉で義姉の進道七海。

この学院の警備員をやってる女性だ。


「それに管理人の柏さん、あとはほら、あの子」言っておばちゃんが示した先にいたのは。


「…四季?」


昨日知り合ったばかりの式町四季その人だった。

窓際の席に座ってぼんやりBセットのコーンスープをすすっているその様はとても似合っていて、『深窓の乙女』とか勝手に名付けていいような雰囲気を醸し出している。


「あの子、四季ちゃんだっけ?いつもこの時間帯に来てあそこの席で一人で食べていくのよ」


「へぇ…」


同学年の友達とかいないのかな?

亜季子とか仲良くなれそうな気もするけど。


「ほい、お待たせ!」


考えているとおばちゃんがAセットのお盆を寄越してくれた。

ご飯はいつも通り、大盛である。


「ありがとう」


盆を受け取って礼を言い、カウンターを離れる。

向かった先は勿論、四季の座ってるテーブルだ。


「あ、永路さん。おはようございます」


僕に気付いたのか、四季が頭を下げる。


「おはよう、四季。そこ座って良いかな?」


「は、はい。どうぞ…」


挨拶を返し、向かいの椅子 (どちらかと言えば簡易ソファー) に座って良いか確認をとると、快諾してもらえた。


「いただきます」


合掌。

僕に言わせれば、この『いただきます』ほど素晴らしい言葉は他にないと思う。

農家や漁師の皆さん、作ってくれた食堂のおばちゃん、犠牲となった稲や魚、その他諸々全てに感謝の意を示すことが出来る究極の一言、それが『いただきます』。


魅力的な言葉なので是非食事の際は言って欲しい。


…まあ僕一人が力説しても仕方がないけどね。

アホなこと抜かしてないでさっさと食べよう。


そんなこんなでmy箸を動かし始めると。


「永路さん、朝からそんなに食べるんですか?」


僕の朝食の量に驚いたように四季が尋ねてきた。


「まあね、僕って朝からガッツリ食べないと調子出ないんだ」



朝ご飯を抜くと一日不調になる、と昔から言われているが僕の場合はそれが特に顕著で、酷いときには授業に全く集中出来ない位だ。


「でも僕としては四季の方こそそれくらいで足りるのかって感じだよ」


見た感じ、メニューの種類は多いものの、サラダやスープの量があまり多くはないというのが四季の朝食だ。


「わ、私はその、子どもの頃から小食な方なので…」


「へぇ、そうなのか。燃費いいのな、四季って」


低燃費なのは良いことだ。

地球にとっても、自分にとってもな。


ちなみにかなり今更かつ何故に今頃だが、FGの動力のエナジーは太陽光や風力が精製元で、環境に配慮された代物である。


「あ、ありがとうございます」


低燃費に反応してか、礼を言う四季。


それきり、後は二人とも食べることに専念して、しばらく無言の時間が流れた。



次に会話が再開されたのは僕がメインの鰤の照り焼きを平らげ、一通り食事を済ませた時のことだった。


「あ、あの…永路さん、今日は何かご予定がおありですか?」


先に口火を切ったのは四季。

嫌に改まった口調で、今日の僕の日程について尋ねてくる。


「ん?今日はファムと出掛けるつもりだけど?」


先程約束したばかりだけど。


口が裂けても特撮映画を見に行くなんて言えない。


何故かって?

…お察しください。


「そう、なんですか…」


どうしたんだろう?

僕の予定を聞くなり、四季はシュンとへこたれてしまった。


僕ってば何か悪い事言ってしまったか?


そう思って彼女に尋ねてみると。


「あ、いえ!そういうわけじゃなくて!その…もしお暇だったら雀羽の操縦についてご教授してもらおうかな…なんて思ったり…」


しどろもどろながらに説明する四季。


「わ、私、雀羽が量産型の中で一番しっくり来るんですけど、このままじゃ進級検定に合格出来ない気がして…」


進級検定とは、読んで字の如く、生徒が次の学年に進級するに足る実力の持ち主かを判定する試験の事だ。

一年の内に何回でも受ける事が可能で、一度でも合格すれば進級が認定される。


検定内容は学年や学科毎に異なっており、競翔科一年生は『量産型FGで検定レース三位以内でゴールする事』とか、技術科二年生は『自力でFGを設計をする事』と言った具合だ。


「だ、だから、専用仕様FG持ちの永路さんにアドバイスをもらえればと思っちゃったんですけど…」


成程、そういうことか。


「ゴメンな。お詫びと言っちゃ何だけど、僕よりも雀羽の扱いが上手い奴を紹介するよ?」


「え、えぇ?」


僕の提案に凄く残念そうな声を出す四季。


まあ、それもそうか。

見ず知らずの人に物事を教わるのは普通誰でも抵抗あるもんな。


「大丈夫大丈夫。ソイツはすっげえ面倒見がいいし、教官以上に分かり易く教えてくれるから」


彼女の不安を和らげるとかそういうのではなく、掛け値なしにコレは本音である。


「……そうじゃなくて……」


「ん?何か言った?」


四季がボソリと呟いた気がしたので、聞いてみる。


「!何でもありません!」


そうか?

何でもないって顔してないけど、まあ、本人がそう言うならそうなんだろう。

こういうのはあまり深追いはしないほうが、無難だ。


「じゃ、ソイツに頼んでみるけどいい?」


「はい…お願いします…」


四季の承諾も得て携帯を取り出し電話を掛ける。

コールすること約五秒。


『永路ィィィィィ!ヘルプミィィィィィィ!』


「えぇ!?」


何でいきなり絶体絶命コール!?


『うわ、ちょっ待てお茶漬けじゃなくて餅突けでもなくて落ち着け!落ち着いて俺の話を聞け聞いてくれ聞いてください!お前は何か勘違いをギャアアア!!』


「お、おい麻火?どうしたんだ麻火!」


ツーツーツー………。


……切られた。


一体何だったんだ…。


『ピピピピピピ』


三分後。

麻火からの折り返しだ。


「もしもし、麻火?大丈夫?」


『大丈夫な訳ねえだろうが!こちとら一瞬三途の川が見えたわ!』



まさかの臨死体験!?

本当に一体何があったんだよ!


「相変わらず修羅場だね…」


『その台詞、そっくりそのまま返してやりてえ気分だ…。で?何か用かよ?』


「あ、うん。実は…」







『なるへそな。いいぜ、やってやんよ』


詳細を聞いて、麻火はあっさり快諾してくれた。


「サンキュー!恩に着るよ」


集合時間と場所を聞いて、携帯をしまう。


「OKだって」


「そうですか…良かった…」


安心したように胸をなで下ろす四季。



「10時にスタジアムの一般格納庫に来てくれだって」



一般格納庫には量産型FGが待機しており、装着許可が出れば雀羽やその他のFGが使用可能になる。


「あの…どんな人なんですか、その麻火さんって」


気になるのか四季が尋ねてきた。


「うーん…一言で言うなら、茶髪ショートカットなお人好し」


「……?」


僕の説明にイマイチピンと来ないのか、首を傾げる四季。


このくらいじゃ普通誰だってそんな反応するよね。


「会えば何となく分かるよ。『こういう人なんだな〜』って」


「そ、そうなんですか?」


そうなんです。


と、しばらく四季と雑談をしている間に、食堂に結構な数の人が入ってきていた。


それもそのはず、時計を見るともう8時近くになっている。

休日のこの時間帯は生徒の数がいつもピークになるっておばちゃんも言ってたっけ。


「それじゃ、僕はそろそろお暇しますかね」


ここは、混み合う前にさっさと退散した方が吉と見た。


「あ、私も」


四季と一緒に席を立って食器を乗せたお盆を返却用の棚に置き(『ごちそうさま』を言うのは勿論忘れない)、食堂を後にする。



約束の時間までまだ少しあるし、エントランスで新聞でも読もう。


「四季は今からどうすんの?」


何となく予定を聞いてみた。


「えっと、先に格納庫に行って許可もらって来ようと思います」


「そっか」


まだ約束まで時間があるのに、律儀なことで。

そういえば麻火も性格的にかなり律儀だ。

何だか意外と麻火と四季って気が合いそうな感じがする。


「じゃあ、頑張ってね」


格納庫があるスタジアムに行くには寮の北口から出る必要があるため、四季とはここで別れることにした。


「は、はい。朝から色々迷惑掛けてすみませんでした」


本当に済まなさそうに謝る四季。

こういうとこ、まだネガティブな素の性格が抜け切れてないみたいだ。


「四季?こういう時は謝罪じゃなくて?」


「ひぅっ!そうでした…」


『ふぅ』と一呼吸置いてから。


「えっと、あ、ありがとうございました!」


改めてお礼を言う四季。


「ん!どういたしまして!」


少しずつでもいいから、この子には前向きになって欲しい。

いつか困難に直面した時に、それから逃げ出すような事はしてほしくないから。



「じゃ、グッドラック」


「はい、永路さんも」


互いに挨拶を交わし、四季は北口へ、僕はエントランスへと歩き出す。


窓から見えた空は、雲一つない快晴。


今日はいい1日になりそうだ。




如何だったでしょうか?


最近の特撮って、昔のヒーローとのコラボが多くて、見に行きたくても年齢的に見に行けないんですよね。


ちなみに斬鉄犬は昭和なら◯3、平成ならファ◯ズが好きです。


毎回読んで下さっている皆様にこの場をお借りして感謝を申し上げます。


本当にありがとうございました。


それでは駄犬めはこれにて失礼致します。



 鉄

  犬

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