第十三翔 〜おでん定食、海老天そば定食〜
だいぶお久しぶりです。
しばらく更新が滞っていたことをお詫び申し上げます。
今回は永路と麻火。
この二人が馬鹿やってるだけでございます。
それではごゆっくりご覧下さい。
学院寮食堂。
立ち話もなんだったので夕食ついでにここで麻火の話を聞くことにした。
「…と言うワケだ」
麻火が、自分の身に降りかかった災難を語り終える。
うわぁ…。
何て言うか、シュールだ。
麻火の親父さんがとんでもなくフリーダムな人だと言うことは昔から知ってたけど、しばらく会わない内に更に磨きが掛かっている。
老いてなお盛ん、と言うヤツだろうか?
「お前も色々苦労してるのな」
ポンッとテーブル越しに麻火の肩に手を置く。
「そう思うのなら卵よこせ」
麻火が僕の晩ご飯のおでん定食のメイン、TAMAGOに箸を伸ばす。
「それは断る!」
が僕も箸 (my箸だ)で応戦し、TAMAGOの防衛に成功した。
「代わりにたくあんをやろう」
美味いぞ、食堂のおばちゃん特製のたくあん。
ポイッと麻火の海老天そば定食のそばの中にたくあんを放り込む。
「いらねぇよ!つーかそばの中に入れてんじゃねえ!!」
むぅ。
この絶品たくあんを無下にするとは。
食べ物を粗末にすると罰が当たるぞ。
「ならばお前にはこれをくれてやろう!」
そう言って麻火が僕のおでんの皿に放り込んだのは。
「ぬおわぁぁぁ!!」
椎茸だぁぁああ!!
「ふはははは!遠慮はいらん!どんどん食べるがいい!!」
や、やめろー!!
椎茸は………!!
椎茸だけは駄目なんだぁぁぁ!
「さあさあさあさあ!!!YOU食べちゃいなよ!!」
ぐぬぬ!
やってくれる!
だが!
「負けるものかぁ!!」
昔の偉い人は言っていた。気がする。
苦手な物、嫌いな物に限って、それを乗り越える時が必ず、しかも唐突にやってくるのだと。
ならば、今がその時だ!!
「うおぉぉぉぉぉ!!」
箸で一切れ椎茸をつまみ、一気に口の中へ運ぶ。
そのまま噛む!
何故なら、そのまま飲み込んでも意味がないから!
しっかり味わってこそ真の意味で克服したことになるのだ!
一回、二回、三回、四か……。
「………う」
むせた。
椎茸の匂い、食感、滲み出る液体が口の中を侵食し。
「…やっぱ無理!」
戻しそうになった椎茸をお茶で流し込む。
くそぅ、やはり僕には荷が重すぎる。
まだ椎茸を超える事は出来ないのだ。
「と言うワケでコレは返す」
麻火の皿に椎茸を投げ入れる。
「食べ物を粗末にしたら罰が当たるんじゃないのか?」
そういう揚げ足を取る発言、よくないと思う。
「はぁ〜、死ぬかと思った…」
まだ口の中に残っている椎茸の風味を、つゆの染みた大根で中和しながら、僕は溜め息をついた。
「ハハッ、椎茸くらいで大袈裟だな」
誰のせいだと思ってる。
「大袈裟って言えばお前もだろ。親父さんの再婚くらいであそこまで取り乱すなんてお前らしくもない」
コイツはきっと目の前に隕石が落ちて来ても眉一つ動かさずに『セ◯ィロス!』とか言う奴だと思っていたからな。
「椎茸と一緒にすんなよ。つか誰だって驚くだろ、いきなり再婚したなんて言われたら」
「フーン、そんなモンかな」
イマイチピンと来ない。
「そんなモンさ。お前、考えてもみろよ。もしお前の親父さんが……あ」
?
…あ。
ああ、そういうこと。
いきなりフリーズしたから何かと思ったら。
「気にするな。僕は父さんの事、完全に吹っ切れてるから」
「……すまん」
面目なさそうに謝る麻火。
「だから気にすんなって」
それよりもさ、と話題を戻す。
「結局、どうすんの?親父さんの再婚相手、まあつまるところお前の新しいお袋さん。会ってあげるのか?」
「ああ…。正直まだ迷ってるんだよな」
おや、珍しい。
「麻火でも迷うことってあるんだな」
「そりゃあ俺も人間だからな。迷いもするし間違いもするっての」
どうすっかな〜。と頭を抱える麻火。
…本当は、こういう問題に部外者の僕が口出ししちゃいけないんだろうけど。
『悩みってのはその人だけのモノだがな、一人じゃそれを乗り越えられない時もある』
そういう時に、背中を押してやるのが友ってもの。
だろ、父さん。
「会っちゃいなよ」
「え?」
僕の突然の言葉に耳を疑うような声を上げる麻火。
「どうせ、いつかは何とかしなくちゃいけない事だろ?だったら早い内に何とかしたほうがいいに決まってる」
「…永路」
「やれることはやれる時にやれるだけやっとけよ。でないと、きっといつか後悔する事になるぜ」
そう。
僕みたいに、ね。
「…ああ、そうだな。お前の言う通りだ永路。迷うよりもまず行動だな」
決意したかのように顔を上げる麻火。
「よし!取り敢えず会ってみる!新しい母さんと、新しい妹に!話はそれからだな!」
「お、それでこそ麻火だよ!」
迷いが吹っ切れたようだ。
旭川麻火、完全復活ってところかな。
すると。
「阿!」
グッと拳を前に出す麻火。
「吽!」
同じように拳を出し、二回突き合わせて親指を立てる。
これは僕らの間の親愛の証みたいなものだ。
互いに互いを助け合ったら自然とこれをやるようになっている。
「サンキュな永路」
改めて礼を言う。
と麻火。
「気にすんなよ。何事も早め早めにしといた方がいいと思ったまでだしね」
そう。
「その海老天のようにな!!」
この瞬間を待っていた。
麻火の意識が海老天から離れるこの瞬間を!
目にも留まらぬ速さで麻火の海老天に箸を伸ばす!
これぞ、進道流奥義!!超速・主食奪取箸!!
「その海老、もらったぁ!」
だが。
「やらせん!!」
僕の箸と同等、いやそれ以上のスピードで空の皿を楯代わりに使いこちらの攻撃を止める麻火。
「…旭川流奥義、神速・箸防空皿楯!」
な、何ィ!!
僕の主食奪取箸を防いだだと!?
「甘い!甘いぞぉ!永路!」
今度はこっちの番だ!
と更に速度を上げて僕のおでんに迫る。
「食らえ、いや喰らわせて貰う!旭川流秘奥義!瞬速・全膳我餓喰!」
刹那。
僕のおでんの皿から、卵だけではなく、ちくわやこんにゃく、餅巾着と全ての具材がなくなった。
「ぬおわぁぁぁぁ!!」
僕のおでんがぁぁぁ!!
「ふっふっふっ。ふぁふぁふぁふぁふぁふぁひふぁふぇひひ」
食べながらしゃべるな。
何て言ってるかわからねえよ。
「モグモグモグモグ、ゴクリ。ぷはぁ!いや〜美味い」
って本当に全部食べたのか!?
おのれ、何てことを!!
「いや、先に仕掛けてきたのお前じゃん」
くっ!
なまじ正論なだけに一切反論出来ない!
「安心しな。お前にもちゃんと何かやるからよ」
「マジ!?」
「ああ。ほれ」
ポイ。
皿の中に椎茸が投入された。
ポイ。
皿の中に椎茸が投入された。
ポイ。
皿の中に以下略。
「雌雄を決する時が来たようだな親友よ!」
「ふっ、良いだろう!かかって来い盟友よ!」
「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」
今、互いのプライドを賭けた、熱き男たちの闘いの火蓋が切って落とされ…
「あんたら五月蝿い!!!!」
「「おごあああ!!?」」
…ようとした途端に、見事に鋭いアッパーが僕らの顎を直撃した。
「全く、夕飯くらい静かに食べなさいよ」
「ファ、ファム…」
そこにいたのは我らが天才ギアニック、ファム=ジルサンダー。
「永路、アンタに渡すモノがあるわ」
『ん』
とファムが取り出したものは。
「…錠剤?」
というよりカプセルだ。
「食事が終わったら必ず飲みなさい。多分今夜は地獄よ」
「へ?」
いやいきなり何を言い出すんですかファムさん。
「…アンタ、S.B.W.Mを起動させたでしょ」
…?しぶうぇむ?
「……まさか無意識で起動させたって言うの…?そんな馬鹿な…」
考え込むように眉間に指を当てるファム。
一体どうしたんだんだろう。
「…まあいいわ。それについては明日また詳しく話すから。ともかく今日はちゃんとその薬飲んでしっかり休むのよ」
??
ますます訳が分からない。
「おい、待てよファム。せめてその…」
「の・む・の・よ?」
ギラリ、と鋭い眼光でこちらを睨む。
…コイツ、こうなったら意地でもこちらの話は聞かなくなるんだよな…。
「…わかったよ。飲めばいいんだろ飲めば」
ここはおとなしく従うとしよう。
「さて、じゃあ僕らは部屋に戻るとするよ」
これ以上ここにいても面倒臭いことになるだけな気がするし。
僕は、アッパーを受けてダウンしている麻火を抱え起こして(その前に麻火の海老天そばを全部頂いたのは内緒だ)、食堂を後にする事にした。
と。
「…ごめん」
…あれ?今…。
「何か言った?」
ファムが小声で何か呟いた気がして振り向く。
「な!何でもないわよ!」
慌てて僕の言葉を否定する。
…まあ、コイツが何でもないと言うなら何でもないのだろう。
「じゃあまた明日な」
取り敢えず、別れの挨拶だけしておこう。
「ん。ちゃんと薬飲みなさいよ」
最後にもう一度念を押すファム。
「解ってるって」
それだけ言うと、僕は麻火を担ぎ直して食堂を出た。
そう。
この時、僕はまだ知らなかったんだ。
この夜が、一つのターニングポイントとなるという事に。
続
く
いかがだったでしょうか。
本当はもっと早く投稿するはずだったのですが、携帯が行方不明になりまして、書くに書けない状況に陥ってしまいました。
次回こそ早めに投稿します!
ここまで読んで下さった皆様に心より御礼申し上げます。
本当にありがとうございます!
それでは。