嘘でも言わないと
特に大阪?
とりあえず、止まる事なく店内を歩き続ける。本当は、客に「どれにいたしましょうか?」なんて、三オクターブ位上げた声で話し掛けなければならないのだが、腹黒い客に話し掛けるなんて真っ平だ。
「すみません。ちょっといいですか?」
まだ若い二十代中頃かと思われる男に声を掛けられた。
「はい! どうされましたか?」
客の機嫌を損ねてはいけない。だから、嫌々ながらも最高のスマイルで答える。
「こっちなんだけど……。ちょっと、来てくれる?」
やっぱり客は客だ。身勝手な奴らで、こちらの都合なんてお構いなしに進んでいく。
つれていかれたのは、オーディオコーナー。男の足が緩やかに止まると、そこには、また男と同年程の女が立っていた。
「あのさ、このDVDデッキなんだけど……、他の奴に比べて結構高いけど、何が違うの?」
男の指さす先には、今一番売り上げを伸ばしたいDVD商品があった。僕は、自分のもてるだけ全ての知識を導入し、男に説明をした。
「ふ〜ん。でさ、どこまで下がる?」
きた!! これだ!! これだから、客の対応は嫌いなんだ。「そうですねぇ……」と、とりあえず電卓を叩きながら考える。
「これくらいで如何ですか?」
電卓の表示を見せたが、男は顔色一つ変えず、首を横に振っただけだった。
もう一度、電卓を叩く。更に値下げして、電卓の値段を見せる。すると、男は女に小声で相談し始めた。
「なぁ、今日これだけ持ってる?」
「そんなに持ってるわけないでしょ!」
「そっかぁ。じゃあ、諦める?」
「これで、最安値なのかしら?」
いくら小声で話しても、これだけ近かったら聞こえているんだが。と思っていると
「今さあ、持ち合わせが、そんなにないんだよね。だからさ、もう少しってか、この金額以下にならないかなぁ?」
提示された額を見て、僕はア然とした。これでは、赤字スレスレじゃないか……。
「これが限界ですね」
そう言って電卓の数字を見せると、男と女は顔を見合わせて、僕から回れ右をしたと思うと、入口に向かって一直線に進んでいった。
こんな状況でも言わないといけないんだよな。やるせない思いのまま、僕は頭を下げながら、大きな声で叫んだ。
決まり文句だから、仕方ないよね。