ゴミかな
ゴミかそうでないかの境目は、ある意味認識の差でしかない。
今日もそう思い知らされる、モノに埋もれた俺の部屋。
集めたのだから、ゴミではない。集めるという目的は果たしのだから、もはやゴミなのかもしれない。
そんなゴミかそうでないかをうずたかく詰み上げたこの部屋で、俺は排泄以外の全ての生活をこなす。
飯。飯は勝手に運ばれてくる。たまにこちらのご機嫌をうかがうメモがついてくるが、こちらはゴミ以外の何ものでもないのでそのまま突き返す。
今日もそうだった。
お盆を回収にきた気配がすると、俺はドアを思いっきり蹴ってやった。ドアの向こうからは、卑屈に謝る声が途端に聞こえてきた。
メモなど余計なことをするからだ。飯だけ運んでくればいいんだ。何年やってると思っているんだ。分かるだろ。
俺はその苛立ちを込めてドアを蹴ってやった。
必要なものは差し入れさせる。飯を突き返す時に、一緒にメモを渡すのだ。
会話などない。ここ数年人と話していない。この部屋で俺の耳に入ってくるのは、モニターの唸る音か、ゴミかそうでないかのものが立てる物音だけだ。
ゴミかそうでないかの境目を渡りいくそれら。俺は今日もそれらに埋もれ、自分の世界に没頭した。
そのゴミかそうでないかの認識の山が作り出す谷間を今日もいくと、何かが足が引っかかった。
そんなものは集めた覚えがない。だがゴミの類いが迷い込む余地など元よりない。
ここにはゴミかそうでないかのものが多いが、それは元は集めたものがやがてゴミとして認識されるからだ。
元から集めていないものは、ゴミでしかないが、そもそもこんなものは集めた覚えがない。
これは一体なんだろう。
ゴミかそうでないかと訊かれれば、間違いなくゴミだと答えるだろう。
こんなもの頼んだ覚えがないからだ。何より見窄らしいぼろぼろの塊だったからだ。
だがこのゴミかそうでないかのそのものは、間違いなくこの部屋にある。
かなりの大きさだ。場所を食っている。まるで我が物顔だ。
だがしかし、やはりこんなものを頼んだ覚えがない。
元はゴミでなかったのかもしれない。何よりこの部屋に入り込んでいるからだ。元はゴミではなく、ゴミかそうでないかの境目を通って、ゴミになったのかもしれない。
俺はつまずいた足下を見た。
なるほどな――
俺の足がない。代わりに白い線みたいなものが伸びている。短くか細いそれは、元の俺の肉体に微かに繋がっていた。
ああ、やっと得心がいった。俺はこの代わり映えのしない世界に、少々嫌気がさしていたのだ。
何処までもうずたかく積まれたゴミかそうでないかのものの山に埋もれ、ゴミかそうでないか分からない日々に流されることに、ゴミかそうでないか分からない不毛なルーチンワークに熱中することに、いい加減嫌気がさしていたのだ。
手首を切ったような気がするが、もう一つよく覚えていない。血がだいぶ流れ出てすっと意識が遠退くや、大きな物音を立てて倒れたのは何となく覚えている。
ドアが打ち破られた。鍵の架けられていたそれは、レスキューのような格好をした人間に機材で打ち破られた。
まず飛び込んできたのも、そのレスキューらしき人達だ。
レスキューとしかと断定できないのは、俺があまりに外界と接触を断っていたせいだろう。
その多分レスキューの人達はゴミかそうでないかの山をかき分け、俺の体に近づくやとっさに揺すった。
その衝撃で、俺の白い線みたいなものは切れてしまう。
俺はフワフワと天井に漂っていった。
下界を、まあまだただの部屋だが、それを俺は見下ろした。
あれは俺かな? それともゴミかな?
ゴミかそうでないかの山に塗れ、ゴミかそうでないかの境目を少しゴミよりによった俺の体は、俺にもゴミかそうでないかはよく分からなかった。