頭割ってもよろしくて?
失禁シーンがあるのでご注意ください。
伯爵令嬢ハーラナーナ・ヤンザはため息をつく。
婚約者のエゼッタ・アバグ伯爵令息から、またもデートの約束を取り消されたのだ。
これで何回目になるだろうか。十回目を越えてからは、もう数えるのをやめてしまった。
「ディナが体調を崩して……」
“ディナ”とはエゼッタの義妹、モルディナのことだ。
半年前に兄夫婦が相次いで亡くなったため、アバグ伯爵家に引き取られたモルディナは、柔らかな栗色の髪にハシバミ色のつぶらな瞳を持つ。庇護欲をそそる顔立ちにきゃしゃな身体をしており、幼い頃から病弱だという。
ならばサナトリウムに入院させた方がいいと考え、エゼッタに進言したら悪魔か邪神かみたいなことを吐かれた。
余談になるが、ハーラナーナは色合いがはっきりした濃紺の髪で、同じ色の瞳は切れ長で目尻がつり上がっている。
ブラウンヘアに黒い目で、全体的に穏やかな面差しのエゼッタよりきつい印象を与えるのは自覚している。モルディナと比べたらなおさらだ。
そんなに体調が悪いのならば、しかるべき施設に入れ、しかるべき処置を受けるべき。ハーラナーナはそう考えているが、エゼッタいわく“ディナが可哀想だと思わないのか!? 君みたいに身体を鍛えられる状態じゃないんだぞ!”。
じゃあ。わたくしは可哀想ではないのですか!? と叫びたい衝動を、長年の淑女教育でねじふせたのは、二十は軽く上を行く。ちなみに、“身体を鍛えられる状態”と吠えられたが、武道家として切磋琢磨してはいない。令嬢の範囲をはみ出ない域の、護身術を少々かじっているぐらいだ。
彼も前はああじゃなかった。ハーラナーナをしっかり見てくれたのに……
またも口唇から出る感情の発露。もし吐息が思いで色を変えるなら、灰色に違いない。
「君はディナに冷たすぎる」
蘇る婚約者の台詞。
――だったら早く婚約解消すればいいじゃありませんか!
両親が決めた婚約だとは理解しているが、こちらにも限界があるのだ。
今度何かあったらこちらから切り出すと、ハーラナーナは決意した。
「お兄様、どれも美味しそうで目移りしちゃいますね」
小柄な少女は、蕾がほころんだ風情で笑う。
「そうだな、ディナ」
長身の青年は目を細めていた。
――さて、どうしましょうか……
義兄弟の関係性をはみ出した距離感で、それも婚約者とのデートだというのに、ハーラナーナそっちのけで、エゼッタはモルディナと二人だけの世界を形成している。
久しぶりのデートに少し高揚し、気合いを入れて、でも空回りしない程度にめかしこんだヤンザ伯爵令嬢、しかしその心持ちはしぼんだ。
やたら飾り立てたモルディナの姿が映って。
凝ったネックレスやブローチは、あからさまに病人の装いとはかけ離れている。
でも黙っていた。婚約者様が聞く耳を持ってくれるかなんて、容易に想像がつく。
「せっかくだから仲良く三人でと思って」
絶対モルディナにねだられたのは、お見通しだ。
上辺は平穏な三人が向かったのは、今話題の喫茶店。遠方から仕入れた果実を使ったパフェが目玉とのこと。
つり目女子は自らの双眸に神経を配る。
今回の出来事次第で、婚約を維持するか解消するかの正念場だが、鵜の目鷹の目で凝視していたら不信の極みだ。二人に焦点を合わせすぎないよう、注意する。
当然のように、義兄妹は頬を寄せ合ってメニューを確認した。頼む品が決まったのか、エゼッタはお品書きをぞんざいにハーラナーナに渡す。
「僕たちは季節の果物パフェダブルを。ナナはどれにするんだい?」
勝手にウェイトレスを呼んで注文する婚約者に、ため息をこらえて、
「わたくしはピーチパイを」
もしディナがいなければパフェ系統を頼んでいた。いたのがエゼッタだけなら。
パフェならば完成するのに差はさほどなかろうが、焼き菓子はどうしても時間がかかる。この不届きな義兄妹、待望のデザートが先に来たら、こちらを気にせず食べそうだと確信できて。
「――ところでモルディナ様、ずいぶん重そうなアクセサリーですけど、無理なさってません? 病を患っているお身体ではおつらいのでは?」
ウェイトレスが去ったところで、ヤンザ伯爵令嬢は婚約者の義妹に切り込んでみせる。
「そんなことはないですよ」
モルディナは手を振って否定する。
「それはよかった。よくなるのは少しずつですけれど、悪くなるのはあっという間ですものね。注意しないと」
ハーラナーナは店の厨房に視線を外す。
「ナナ、さっきから一体なんだ? ディナに嫌味ばかり言って恥ずかしくないのか?」
顔を正面に向けたら、苦々しい表情の婚約者と目が合った。
「ごめんなさい、お義兄様、私が悪いの。せっかくのデートを邪魔したから」
モルディナが割り込んでくる。目にうっすらと涙を浮かべて。
「何を言ってるんだ。ディナは悪くない。ナナ、お前がそこまで冷たいとは思わなかったぞ」
「別にそのようなつもりはありませんが」
アバグ伯爵家義兄妹は“申し訳ありません”を期待しているだろうが、ヤンザ伯爵令嬢が沿ういわれはない。
こちらは今回を最後にすると決めたのだから。
いや、すでに決まっていたか。
――ハーラナーナにも矜持はある。好き好んで、積極的に粗を探す仕打ちをしたくなかった。自分が卑しい人間に堕ちた証。
婚約者としては絆を繕うのが正しいのだろう。なれど、もう断ち切りたくて辛抱できない。
締めたコルセットは深呼吸の妨げ。スムーズに肺に空気が入らないが、いざとなったら苦しさを離席の理由にできる。
思考を巡らせていると、女給が注文の品を持ってきた。義兄妹の分だけを。
やけに大きなサイズの甘味に、用意された二人分のカトラリー。どうやら二人で一個を食べるデザートのようだ。
案の定、ハーラナーナがいることを忘れた態度で、エゼッタとモルディナは念願の品にスプーンを伸ばす。
「わあ! これすごく美味しいです!」
「そう言ってくれると嬉しいよ!」
華やかな顏で歓声を上げる義妹に、蕩けそうな面持ちで返す義兄。それを眺める婚約者。
――この光景、周りからはどう見えるかしら……
“三人”ではなく“二人+一人”だと悟るハーラナーナ。もちろん“一人”は己だと。
白けた眼差しを送らないように、つり目女子は注意を払っていたが、動きがあった。
「お義兄様、このシャーベットも美味しいですよ」
目を疑うことに、モルディナはスプーンですくったピンクの氷菓を、エゼッタの口に入れたのだ。
「うん、そうだな」
答えた義兄も、銀食器で白のシャーベットを一口分取った。流れる動きで、義妹に食べさせる。
「どうだ、ディナ?」
「こっちも美味しいです」
ハーラナーナは身体が痒くなった。二人のやり取りをこれ以上観察できない。
おそらく普通なら、婚約者と過剰に仲が親密な義妹と、それをよしとする彼に抗議するだろう。
「ふざけないで!」「わたしを馬鹿にしているの!?」「破廉恥だと思わないの!?」などと、声を荒らげて。
育んできた結びつきを踏みにじられ、胸奥に息づいたほのかな想いを、せせら笑われたと把握したならば。
あえて主張するならば、愛があれば嫉妬にコメカミを痙攣させる。
なれど、ハーラナーナはさにあらず。眼前の義兄妹を跳ねのけたいし、避けたい。
自分に問いかけても明瞭な原因は探せないが、肉体と精神は結論にせかされていた。
「エゼッタ様、モルディナ様。不躾は承知ですが、体調がすぐれないので帰らせてもらいます」
ヤンザ伯爵令嬢は立ち上がって一礼した。
「ナナ、まだ君は食べていないじゃないか」
眉を寄せてアバグ伯爵は告げる。
「せっかくなのでお二人で召し上がってくださいな。あ、お金は置いていくのでご安心を」
ハーラナーナは代金を取り出し、卓上に置く。
「では、わたくしはこれで」
踵を返し、彼女は席を後にした。
自宅に着くや、ハーラナーナは父グランガルと母ミュイラに婚約解消の意を述べた。
「わたくしの一存では無理なのはわかっております。ですが、一刻も早く婚約の解消を望んでいるのです」
これまでの出来事を述べてはみたが、不安は膨らむばかり。もっと説得力のある論理を組めなかったろうか、と。
直後、全身の血の気が引く。もし関係の継続を、懇願通り越して強制されたら……
「わたくし考えたのですけれども、もし結婚ということになっても、エゼッタ様はモルディナ様を優先するのは目に見えてますわ。想像するだけで耐え難いのに、下手をするとわたくしたちにたかる可能性もありますのよ。それを婚約者としての義務とばかりに。財産を食い潰される可能性をみすみす見逃せとおっしゃいますの?」
自己保身は長口上に走らせた。
「それに……モルディナ様のお召しになっていたドレスは、百歩譲って華美なだけで済ませられますが、ネックレスやブローチは病気を患っているにしては重そうでして、それをエゼッタ様がつけさせていたら無神経の極みですし、何よりモルディナ様が仮病を使っている可能性も捨てきれません。それに、モルディナ様の唾液を摂取したエゼッタ様が倒れたら、看病をわたくしがするのは当然だとお思いになり、させるでしょうが、わたくしが罹患したらあの方は遠ざかると思います。それどころか、わたくしをお父様とお母様たちに押しつけて、利益だけをむさぼって離縁、なんて未来も考えられますのよ」
娘の主張を、父も母も神妙な顔つきで一言一句捕らえていた。
「……正直、前々から周りでも噂になっていたんだ。“アバグ伯爵家次期当主は義妹とただならぬ関係を築いている”と。病弱と聴いていたから、大袈裟に吹聴しているだけと考えていたが……アバグ伯爵家に話した方がよさそうだな」
「そうね、始めに顔を合わせたときは真面目そうで、ラナを任せられると思ったけど、状況が変わったから考えるべきね」
グランガルが重々しく意見を口にすれば、ミュイラも賛成する。
「ありがとうございます」
感謝と安堵をこめて、ハーラナーナは礼を送った。
「婚約解消を告げるのも大事だが、モルディナ嬢についても警告しておくべきだな。エゼッタ君は無視するやもしれぬが、アバグ伯爵や伯爵夫人は心に留めておくだろう」
「それはいい考えね。アバグ伯爵家の斜陽までは望まないから」
「そこまでのことになりますか?」
夫婦のやり取りは平常通りだが、内容はハーラナーナの想像より大きくなった。故に、つい口を突っ込んでしまう。
「ラナ、病人の看護と寄生虫を肥らせるのは違うんだぞ」
「ええ、支援を求められれば答えていたかもしれないけど、それが詐欺師の餌になるのはごめんだわ」
「で、でも、そうと決まったわけではありませんし……」
「なら、このまま婚約を続けるのか?」
「嫌です」
父の尋ねに、娘は瞬時に断った。
「決まりね」
母が短く述べた。
ハーラナーナはこれからのことを構想する。
もし渡りに船とばかりにエゼッタが乗ってくれたら助かるが、そうでないこともありうる。
世の中、自分は相手をないがしろにしておいて、相手が自分を愛していると疑わない輩がいるそうだ。舞い込んでいた与太話にチラホラ混じっていた。
まさかエゼッタはそこまで馬鹿じゃないだろう。だが、何にしても、人の目が届かない場所での行動は避けるべき。つり目女子はそう認識した。
「えっ! エゼッタ様が病気!?」
数日後、学園から帰宅したハーラナーナに一報が入った。
何でも、ヤンザ伯爵令嬢が一人去ったあとも、仲睦まじく二人だけの時間を過ごしていたアバグ伯爵家義兄妹だが、夜になってエゼッタが体調を崩したのだとか。
あり得ない程の高熱を出し、今も寝台に伏せっているとのこと。
ハーラナーナとエゼッタは同じ学園に通っているが、組は違う。さらにアバグ伯爵家でモルディナを引き取ってからは、エゼッタが接触を拒んできた。
故に、知らせが来るまで彼の窮状を知らなかった。
常識で計れば、ハーラナーナがお見舞いに行くなり手紙を送るなり、心配りを形にして表すところだが、現在は婚約解消を願い出ている立場だ。当座逃れのやり口は、自らだけでなく家にも影響する。
遠くから静観に徹する選択肢を握りしめたが、眉を寄せていた。
「――モルディナ様はどうしておりますの?」
家令によると、彼女も病気を訴えているが、周りの振る舞いがおざなりになっているらしい。
成程、と、ヤンザ伯爵令嬢は腑に落ちる。
いくら病人だとしても、義理の娘と実の息子、それも跡取りならば後者を優先するのもうなずけた。
「ねぇ、サヴィー、手紙を送った方がいいかしら?」
家令に尋ねながら、ハーラナーナは内心自嘲する。質問の体を成しているが、実際は“否”を欲しているから。
「お嬢様、当然のように約束を取り消し続けた方に、それは必要ありませんよ。今まで放っておいて、いざ自分がつらくなったらすがるなんて、都合がいいにも程があります」
家令の発言はハーラナーナの意を多分に汲んでいたが、やや相違点が。
「まだすがられておりませんわ」
微かに頬を上げて、つり目女子は言の葉を唱えた。
「ハーラナーナ! ハーラナーナ!」
さらに数日後、学園の校舎でハーラナーナを呼ぶ声が。
通路を歩いていた彼女は歯牙にもかけない。己の名前を喚く友人も知己もいない。
「待ちなさいよハーラナーナ! あんた私がどうなってもいいの!?」
鼓膜を突き刺す尖り声に、しかたなく、心底しかたなく足を止め、振り返る。
「あら、モルディナ様。どうか致しまして? それ以前に、あなた学園に所属しておりますの?」
いたのはモルディナであった。ハーラナーナがエゼッタから聞いた限り、彼の義妹は療養に専念するため、学園に籍を置いていないはず。
わざわざハーラナーナに会いに来たのか?
「“どうか致しまして?”じゃないわよ! あんたのせいでこのままじゃ私は修道院行きになるのよ! どうしてくれんのよ!」
まくし立てるモルディナは、さながら興奮剤を投与された馬だ。
「別にどうもしませんわ。こちらに危害を与えられない限り」
つり目としては純正の口述であったが、つぶら瞳は柳眉を直角にする。そして、隠し持っていた何かを構えた。
銀色に輝く刃。ナイフだ。
「お前のせいだ、お前の……」
血走った目でハーラナーナをねめつける。
「わたくしのせいにしても意味がないでしょう」
逆上を絵に描いた風情のモルディナ。そんな彼女にハーラナーナは視線を注いでいた。
次の瞬間、
「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
教会の鐘も真っ青な大音声をほとばしらせて、突進してくる。
停止したハーラナーナに凶器が近づき――
あと数センチのところで、ヤンザ伯爵令嬢はしゃがみこんだ。
「――!?」
どこからどう見てもうろたえ、たたらを踏むモルディナ。
そこを狙い、ハーラナーナは瞬時に脚を払う。
「きゃっ……」
小さく悲鳴を漏らし、アバグ伯爵令嬢はうつ伏せに倒れた。
間髪入れず、ヤンザ伯爵令嬢はその背中に乗る。状況を掴めないでいる犯人の手からナイフを外した。
「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か! 誰か来てえええええええええぇぇぇ!!」
手足をバタつかせ、泣き叫ぶモルディナの声波。
秒でハーラナーナの脳全域に血が上った。
「はぁっ!」
裂帛の気合いをこめ、つり目女子は殺人未遂犯の右側頭部狙って額を振り下ろす。確か格闘家もやっていたはずだ。
初めてなのでこちらもクラクラするが、あちらにもしっかり効果はあった模様。石像の如く硬直した。
「らぁっ!」
もう一回。
寒くもないのに震える愚か者の耳に、唇を寄せる。
「頭割ってもよろしくて?」
転瞬、後ろから水音と妙な臭いが。
これが終わったら……と意識の片隅に押さえ、最後の一撃を繰り出す。
「せぇのっ……ったぁっ!」
上半身をしならせた一撃は、モルディナに見事吸い込まれた。
獲物の顔を点検すると、涙と鼻水で顏を汚し、白目を剥いて泡を吹いていた。
抵抗できそうにない、と決定づけ、改めて身体ごと異臭の源に向ける。
自称病弱少女の下半身部分に、水溜まりができていた。
あのあと――
失神したモルディナを警備員に渡したところ、身柄は一端警邏隊に拘束された。
なぜハーラナーナを襲うなんて暴挙に走ったか尋ねたら、次のような答えが返ってきたそうだ。
エゼッタが病気になってから、それまで自分を甘やかしてくれた伯爵夫妻や使用人たちが、彼ばかりを贔屓するようになった。おまけに、モルディナをサナトリウムに入居させる目論見を聞いてしまった。
涙ながらに、アバグ伯爵家にいたいと訴えても、病人二人を抱えるのは無理と言われる始末。このままではまずいと導いたモルディナは、宣言した。
自分は健康だから、サナトリウムに入寮するのはエゼッタだと。
義父母の対応が芳しくなかったため、さらに加えた。
実はアバグ伯爵家に来る前から、体調は全快していた、と。
清聴するや否や、義父も義母は義娘を怒鳴りつけ、さらに義兄からは汚物扱いの視線が注がれた。
下された判断は――修道院行き。
こうなったのはすべてハーラナーナが元凶と判じ、彼女を殺そうとした――
以上が犯行までのいきさつだそうだ。
返り討ちに遭ったモルディナは、好色で特殊嗜癖のある中年貴族の愛人に迎え入れられたそうだ。
ハーラナーナも噂だけは知っている。正妻にできない分、愛人には苛烈な行為を強要し、精神を病むのはまだマシで中には自殺を図った女性もいるとか。
自分の末路が読めた仮病令嬢は、王国一厳しい修道院行きを願ったが、アバグ伯爵夫婦は切り捨てたのだ。嘆願も、彼女自体も。
ヤンザ伯爵令嬢としては厳しすぎる気もするが、そこは口出しできない。
さて、家令を通じて聞いたところ、愛しい義妹を失ったエゼッタだが、回復に向かっているそうだ。
病気の原因は喫茶店のパフェに乗っていた、ピンクの氷菓。似たような事故が頻発したので、保健所が検査したところ、判明した。
二ヶ月後――
すっかり健康を取り戻したエゼッタだが、ハーラナーナと元サヤに収まる気は欠片もないそうだ。
モルディナに対する攻撃を両親から話され、その気が失せたのだとか。
納得しながらも、ハーラナーナは安堵した。
復縁を拒むのはお互い様なので。
――あと、あれもあるかな……
ヤンザ伯爵令嬢は目を伏せる。
侯爵令嬢が熱烈なアプローチを仕掛けているのだとか。
その侯爵令嬢なら知っている。
とことん尽くすタイプで、ひとたび好きになると一直線。ただし独占欲も強く、監禁未遂までやらかしたこともあるとか。
だとしてもハーラナーナには関係ない。
エゼッタが婿入りして幽閉同然の扱いを受けても、アバグ伯爵家は養子を取るらしいので、家としては大丈夫だろう。
――さて、と……
ハーラナーナは釣書を見た。
モルディナのスキャンダルが広まったゆえに、傷物としてのダメージはさほどない。婚約解消が周囲に認知されたら、釣書が多数届けられた。
でも、あせりは禁物である。
互いが互いを尊重しあえる伴侶を、ハーラナーナは求めているから。




