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異世界恋愛短編

「愛想がない」と浮気された私、婚約破棄して大商会を作ったら「復縁したい」と言われたがもう遅い

作者: 真嶋 青
掲載日:2026/03/31

「ルシア。お前との婚約は、本日をもって破棄させてもらう!」

 

 王都でも中堅に位置する『レディット商会』の薄暗い執務室。

 商会の次期会頭であり、私の婚約者でもあるオスカーは、これみよがしに金髪の美しい令嬢の肩を抱き寄せて言った。


「俺の将来の妻には、このクロエこそが相応しい」


 そして、彼は(たの)し気に私を見下ろして(わら)う。

 彼の腕に絡みつくクロエという令嬢は、私を見てふふっと優越感に浸った笑みを浮かべていた。

 そんな2人を前に私は、手元のペンを置き、山積みにされた決算書を脇によける。

 

「一応……理由をお伺いしても?」

 

「決まっているだろう! お前はいつも下らん帳簿や書類にばかり気を取られて、俺に対する愛想がまったくない! 女としての可愛げも、男を立てる気遣いも皆無だ! レディット商会の次期会頭である俺の隣に立つなら、クロエのように華やかで、常に笑顔で俺を支える女でなければならないんだよ!」

 

 オスカーの堂々とした宣言に、クロエが「オスカー様ぁ、頼もしいですわぁ」と甘ったるい声を上げる。

 

 愛想がない。

 可愛げがない。

 

 それが、三年間に及ぶ私との婚約期間と、私のレディット商会での労働に対する彼なりの評価らしい。

 私は無表情のまま、目の前に積まれた書類の山に視線を落とした。

 ここは商会の心臓部である執務室だ。

 しかし、次期会頭であるはずのオスカーの机には埃が被り、彼が仕事をした形跡は1つもない。

 

 オスカーは私が商会の仕事をしている間に、夜会にでも行ってクロエさんとやらに愛想を振りまいていたのだろう。

 婚約当初、傾きかけたレディット商会の資金繰りを計算し、不渡りを回避するために連日徹夜で帳簿の帳尻を合わせ、取引先へ頭を下げて回っていたのは他でもない私だというのに……。

 

 愛想笑い1つで帳簿の赤字が黒字に変わる魔法があるなら、私もいくらでも笑ってみせよう。

 だが、現実は冷酷な数字の積み重ねでしかない。

 

 そんなことを懸命に説いたところで、オスカーには理解してもらえないのだろうけど。

 

「なるほど。私がオスカー様の不興を買っていたこと、よく理解いたしました」

 

 私は小さくため息をつき、引き出しから白紙の羊皮紙を2枚取り出した。

 そのまま迷いなくペンを走らせ、さっさと2つの書類を作成してオスカーの前に差し出す。

 

「なんだ、これは?」

 

「1枚は『婚約破棄の同意書』です。婚約期間中の浮気、それと婚約はオスカー様からの申し出でありながら、一方的な婚約破棄をしたことに対する私への慰謝料として、金貨五百枚を請求する旨を明記しております。もう1枚は、本日付での『レディット商会からの退職届』、ならびにこれまで私が無償で行ってきた実務労働に対する『未払い報酬の請求書』です」

 

「なっ……! かわいくない女だとは思っていたが、別れ際に金銭を要求するとはどこまでがめついんだ!」

 

「商会間の契約解除において、正当な清算を行うのは当然の義務です。それとも、次期会頭であるオスカー様は、その程度の金貨も用意できないほど商会が困窮しているとお思いで?」

 

 私が淡々と事務的な要求だけを突きつけると、見栄っ張りなオスカーは顔を真っ赤にしてペンを引ったくった。

 

「ふんっ! 誰が払えないと言った! お前のような愛想の悪い陰険女がいなくなって清々する! 何を勘違いして偉そうにしているのか知らんが、お前がやっていた地味な書類仕事など、誰にだってできるんだからな!」

 

 オスカーは乱暴な筆致で、2枚の書類にサインを書き殴った。

 その隣ではクロエが「可哀想なルシアさん。愛想がないから見捨てられちゃったのね」とクスクス笑っている。


 いったい、可哀想なのはどちらなのでしょうね……?

 

 私は心の中だけで小さく呟く。

 そして、書類のサインと、次期会頭としての正式な印章が押されたことを確認し、私は丁寧に書類を回収した。

 

 それにして、誰にでもできる仕事……ですか。

 

 果たして、先月の粗悪品の返品処理と、西の商会への買掛金の支払いをどう工面するつもりなのだろうか。

 明日までに処理しなければならない急ぎの決済書が、今まさに彼の目の前に置かれているというのに、彼はその束の意味すら理解していない。

 だが、もはや私には関係のないことだ。

 私のサイン入りの同意書を手に入れた瞬間から、この商会の泥船は、完全にオスカーとクロエのものになったのだから。

 

「サイン、確かに受理いたしました。慰謝料と報酬の振り込みは期日までにお願いいたします。遅延した場合は、商業ギルドを通じて強制執行の手続きをとらせていただきますので、ご承知おきを」

 

「……っ、さっさと出ていけ!」

 

 激昂(激昂)するオスカーと、勝ち誇るクロエに一瞥もくれず、私は自分の荷物だけをまとめて執務室を後にした。

 足取りは、ここ数年で最も軽かった。

 

 私を縛っていた厄介な鎖は断ち切られた。

 これからは、私の持つ知識と経験のすべてを、私自身のために使うことができるのだ。



 レディット商会を退職してからの私の行動は迅速だった。

 オスカーからむしり取った慰謝料と未払い報酬の金貨を元手に、私は王都の片隅に小さな商会——『ルシア商会』を立ち上げた。

 扱うのは、派手な宝飾品やドレスではない。

 堅実な生活必需品と、各領地から安く仕入れた高品質な保存食だ。

 私はレディット商会時代に培った独自の仕入れルートと、各工房の職人たちとの信頼関係をフルに活用した。

 職人たちは、口ばかりで支払いを渋るオスカーではなく、愛想はなくとも期日通りに正当な対価を支払う私を信じてくれたのだ。

 

 そして、設立からわずか半年――。

 

 無駄な経費を一切省き、徹底した帳簿管理によって、ルシア商会はまたたく間に王都の庶民や堅実な中流貴族の間で評判を呼ぶようになった。

 一方、私の抜けたレディット商会の現状は、風の噂で耳に入ってきていた。

 案の定、誰も帳簿を理解できず、支払いの遅延が常態化。愛想を尽かした職人や取引先が次々と離れているらしい。

 さらに、次期会頭夫人を気取るクロエの浪費癖が追い打ちをかけ、商会の屋台骨は完全に傾いているという。

 

「……計算通りね。あと三ヶ月もすれば、確実に資金がショートするわ」

 

 執務机の上で数字を弾きながら、私は淡々と事実を確認する。

 同情する気など毛頭ない。

 自ら泥船の底に穴を開けたのは彼らなのだから。

 

 ――コンコン。


 執務室に控えめなノックの音が響いた。

 雇ったばかりの若い事務員が、少し緊張した面持ちで顔を覗かせる。

 

「会頭。お客様が見えられました。……その、大変な身分の方のようです」

 

 王都の片隅にある小さな商会に、わざわざ身分の高い客が?

 私は怪訝に思いながらも、応接室へと向かった。

 そこに座っていたのは、漆黒の髪と氷のように冷たい青い瞳を持つ、長身の美丈夫だった。

 仕立ての良さが一目でわかる上質な外套を羽織っている。彼が醸し出す威圧感は、明らかにただの商人や一介の貴族のものではない。

 

「お待たせいたしました。ルシア商会会頭、ルシアと申します」

 

「……君が。随分と若いな」

 

 男は私を一瞥すると、手元にあった我が商会の『事業計画書と財務報告書の写し』を机に置いた。

 商業ギルドに提出義務のあるものだが、彼がいかにしてそれを手に入れたのか。

 

「私はランデル。王国王室直轄の財務監査を担うと同時に、個人でいくつかの事業に出資している」

 

 ランデル・フォン・オーディール公爵。

 王国の若き財務卿であり、『氷血公爵』と恐れられる男だ。

 一切の不正や無駄を許さず、情に流されない冷徹な手腕で知られている。

 彼のような大貴族が、なぜここに。

 私が無表情のまま警戒していると、氷の公爵はふっと口角を上げた。

 

「素晴らしい帳簿だ。数字の1つ1つに無駄がなく、将来の予測まで完璧に計算されている。商業ギルドで君の商会の記録を見た時、私は己の目を疑ったよ」

 

「お褒めいただき光栄です。ですが、公爵閣下がわざわざ私のような小商いの帳簿を褒めにいらしたわけではないでしょう?」

 

 私が愛想笑い1つ浮かべずに本題を促すと、ランデル公爵は驚いたように目を丸くし、次いで、喉の奥でくくっと笑い声を漏らした。

 

「ははっ、いいな。私を前にして、媚びることも愛嬌を振りまくこともない。実に合理的だ。そして、理路整然としていることは美しい。私にとって、もっとも好ましいことだよ」

 

「……?」


 ランデル公爵は楽しそうに何度も頷いている。

 私の発言の何がそこまで彼の琴線に触れたのだろうか……。

 わからないけれど、私にはランデル公爵が氷血公爵などと呼ばれる恐ろしい御人には思えなかった。

 

「単刀直入に言おう。君の商会に、私の個人資産から金貨1万枚を出資したい。そして、王室御用達の専属契約を結ばせてはくれないか?」

 

 金貨1万枚。

 

 それは、レディット商会のような中堅商会ですら、一生かかっても稼げないほどの莫大な金額だった。

 

「私が出資する条件は1つだけだ」

 

 ランデル公爵は立ち上がり、私を見下ろして真っ直ぐに告げた。

 

「私の前では無理に愛想良くする必要はない。ありのままの君で、存分にその才能を振るってくれ」



 ランデル公爵の出資と王室御用達の看板を得てから、ルシア商会の成長は爆発的だった。

 

 わずか一年。

 

 私の商会は王都の一等地に巨大な自社ビルを構え、国内の流通を牛耳るトップクラスの大商会へと変貌を遂げた。

 毎日、各国の豪商や高位貴族たちが私との面会を求めて長蛇の列を作っている。

 私は相変わらず愛想笑い1つせず、冷徹に数字と品質だけを見て取引を捌き続けていた。

 

 そんなある日の午後。

 執務室で来期の予算案に目を通していると、扉の外からけたたましい怒声が響いた。

 

「待てっ! 待つんだ!!」

 

(うるさ)いどけ! 俺はこの商会の会頭の元婚約者だ! ルシアを出せ!」

 

 バンッ、と乱暴に扉が開け放たれる。

 衛兵を振り切って転がり込んできたのは、ひどく見窄らしい身なりの男だった。

 ヨレヨレになった安物の服、こけたくぼんだ頬、血走った目。


 一瞬誰か分からなかったが、それは紛れもなく、かつて私を見下していた元婚約者・オスカーだった。

 

「ル、ルシア! 探したぞ!」

 

「オスカー様……。衛兵さん、構いません。下がってください」


「でっ、ですが!?」


「大丈夫ですよ」

 

 私の命令を聞いて、衛兵が渋々と部屋を出て行く。

 その姿を見届け、私はペンを置いてから冷ややかな視線をオスカーに向けた。

 

 風の噂によれば、レディット商会は三ヶ月前に不渡りを出し、事実上の倒産。

 オスカーは莫大な借金を背負って夜逃げ同然の生活をしていると聞いていた。

 クロエさんはその道連れになり、極貧生活に耐えきれずオスカーのもとを去ったらしい。

 

「何の御用でしょうか、オスカー様。予約のない方の面会はお断りしているのですが」

 

「冷たいことを言うなよルシア! 俺たちは婚約者同士だったじゃないか!」

 

 オスカーは私の広大な執務室や、身につけている上質なドレスを見て、下卑た笑いを浮かべた。

 

「お前、あれから随分と成功したみたいじゃないか。女の細腕1つで商会を回すのは大変だろう? 俺が悪かった。あんな愛想だけの女に騙されて、お前の有能さに気づけなかったんだ! だから……お前と復縁してやる! 俺がこの大商会の共同会頭として、お前を支えてやろう!」

 

 ……復縁してやる?

 

 己の置かれた状況を全く理解していないその言葉に、私は呆れ果てて小さく息を吐いた。

 ここまで愚かだと、怒りすら湧いてこない。

 

「オスカー様。私が女の細腕1つで商会を回していると? 私には、優秀な部下たちと、何より絶対的な信頼を置ける最高のビジネスパートナーがおります。貴方のような無能が入り込む余地は、ただの1つも存在しません」

 

「なっ……無能だと!? 俺はレディット商会の次期会頭だった男だぞ!」

 

「ええ。貴方が先代の遺産を食いつぶし、三ヶ月前に倒産させたあの商会ですね。現在、貴方個人の負債額は金貨三千枚を超えているはずですが」

 

 正確な数字を突きつけると、オスカーはビクッと肩を震わせた。

 

「貴方が私に復縁を迫る理由は1つ。私が稼いだ利益で、自分の借金を肩代わりさせるためでしょう? 貴方と復縁することで、私に何のメリットがあるのですか? 冷徹な数字で答えてみてください」

 

「う、うるさい! お前は俺がいなきゃ誰からも愛されない、無愛想な陰険女だろうが! この俺が拾ってやると言っているんだから、黙って頷け!!」

 

 オスカーは逆上して私に掴みかかろうと机に身を乗り出した。

 しかし、彼の手が私に触れるより早く、執務室の奥——来客用のソファーから、氷のように冷たい声が響いた。

 そう、この部屋には、もう1人の来客が居る。

 ()はオスカーが押し入って来た最初から、私たちの会話を聞いていたのだ。

 

「随分と騒がしいな。私の貴重な時間をこれ以上奪うなら、その首を物理的に刎ねるが?」


「なっ、なんだと!? 誰に向かってそんなことを……!!」

 

 静かに立ち上がったのは、つい先程まで私と次期事業の打ち合わせをしていたランデル公爵だった。

 彼が放つ圧倒的な殺気と威圧感に当てられ、オスカーは情けなく腰を抜かして床に這いつくばる。

 

「き、貴族……? し、しかも、アンタはまさか……ひょ、氷血公爵!? なぜ、アンタみたいな大貴族がこんな所に……」

 

「私はこのルシア商会の共同出資者であり、彼女の後ろ盾だ。私の大切なパートナーに対し、どこの馬とも知れぬ借金持ちが『拾ってやる』などと……。あまり、ふざけたことをぬかすなよ?」

 

 ランデル公爵はオスカーを見下ろし、冷酷に告げた。

 

「ちょうどいい。オスカー・レディット。貴様の抱えている借金だが、先日、我が王室財務局がすべての債権を買い取らせてもらった」

 

「え……?」

 

「国庫への返済を滞納した罪は重いぞ。借金を返済するまで、貴様には北の鉱山で強制労働に従事してもらう!」


「きょ、強制労働!? そ、そんな……どうして俺が!!」

 

「阿呆め。貴様が借金をしているからに決まっておろうが。もういい……こやつを連れて行け!」

 

 公爵の合図とともに、外で控えていた衛兵が駆け込み、オスカーの腕を乱暴に拘束した。

 

「ま、待ってくれ! ルシア! 助けてくれルシアァァァッ!!」

 

 泣き叫び、無様に命乞いをするオスカーが引きずられていくのを、私はただ無表情のまま、冷たい目で見送った。

 私の心には、何の感情も浮かばなかった。


 

 嵐のような騒ぎが去り、執務室には再び静寂が戻った。

 私は小さく息を吐き、来客用のソファーに座り直したランデル公爵の方へ向き直って深く頭を下げた。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません」

 

「気にするな。むしろ、踏み倒されそうになっていた債権の回収が出来て助かったよ」

 

 ランデル公爵は優雅に紅茶のカップを傾けながら、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。

 先ほどの、オスカーを震え上がらせた絶対零度の殺気が嘘のようだ。

 

「それにしても、王室財務局が彼の債権をすべて買い取っていたとは存じませんでした。いつの間にそのような手配を?」

 

「あのような塵芥(ちりあくた)が、私の大切な商会に寄り付いては目障りだからな。君が来期の事業計画に集中できるよう、事前に不安要素を排除しておいたまでだ。当然の投資行動だよ」

 

 そう言ってのける彼の横顔を見て、私の胸の奥に、数字では計算できない温かいものが広がるのを感じた。

 愛想のない私を、誰よりも正当に評価し、絶対的な権力で守ってくれる人。

 彼と出会ってからのこの一年は、私の人生において最も充実し、そして安心できる時間だった。

 それは、オスカーとの三年間の婚約期間にはまったくなかったものだ。

 

「……ありがとうございます、ランデル様」

 

 私が心からの感謝を伝えると、公爵は静かにティーカップを置き、立ち上がって私の目の前まで歩み寄ってきた。

 そして、私の手を取ると、貴族の礼法に則り、手の甲にそっと口付けを落とした。

 

「ルシア」

 

「っ……はい」

 

「君の有能さ、揺るがない強さ、そして誠実な仕事ぶり。この一年、間近で君を見てきて、私はすっかり君という存在の虜になってしまったようだ」

 

 氷血公爵と呼ばれる彼の青い瞳が、今は信じられないほど熱を帯びて私を見つめている。

 

「私が出資した時の条件を覚えているか?」


「愛嬌を振りまく必要はない、ありのままの君でいろ、と」

 

「ハハッ。よく覚えている」

 

「……はい。あのお言葉に、私はとても救われていましたから」


 女として、男を立てて愛想よく。

 オスカーに言われたことだ。

 私には、それはなかなかに難しいことだった。


 だから、ありのままの私を受け入れてくれたこの人が……嬉しかった。

 

「すまないが、もう1つ条件を追加させてくれないか?」


「はい。どのようなことでしょうか?」


「……ルシア、私の生涯の伴侶となってほしい。ビジネスパートナーとしてではなく、一人の男として、君を愛している。だから……時々で良い。君の、笑った顔を見せてくれないか?」

 

 心臓が、今まで経験したことのない速さで高鳴った。

 私は彼を見つめ返し、少しだけ困ったように眉を下げる。

 

「私は……可愛げもありませんし、男の方を立てるような気の利いた愛想笑いもできませんよ?」

 

「そんなことはどうだっていいさ。私は、君の嘘のない真っ直ぐな瞳を愛しているんだ。だから……」

 

 その言葉は、かつてオスカーに呪いのように投げつけられた言葉を、根底から覆し、肯定してくれる最高の賛辞だった。

 この人になら、私のすべてを預けられる。

 そう確信した時、私の顔からは自然と強張りが消えていた。

 

「ランデル様。貴方からのそのご提案、このルシアが、喜んでお受けいたします」

 

 氷の公爵は少しだけ目を見張り、次いで、愛おしそうに私を強く抱きしめた。

 

 私は控えめに彼の背に手を回し、恥ずかしさと、溢れ出す幸せな気持ちに小さく微笑んだ。

 

(了)

読了ありがとうございます。

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